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今月の特選

アマゾン銀行が誕生する日

『アマゾン銀行が誕生する日』

-2025年の次世代金融シナリオ

  • 田中 道昭 著
  • 日経BP社
  • 2019/04 432p 1,944円(税込)

お金の交換はつながりの手段 未来の金融はこう変わる

 冒頭から私事で恐縮だが、趣味で所有する昭和の旧車を、個人間カーシェアのサービスに出している。料金は1日5000円。残存数台の希少車なので、丁寧に扱ってくれるのか、支払いが滞ったことはないかなど評判や評価が気になる。一方で、全国津々浦々から借りに来る、同好の士との出会いは極上の楽しみである。こうしたつながりは5000円という価値ではとうてい表せられない。

 個人間取引には、その場の決済や評価機能だけでなく、共感をつなぐ仕組みがほしい――こうした新しい社会の価値観に対応する「金融システム4.0」の姿を描くのが本書『アマゾン銀行が誕生する日』。著者の田中道昭氏が、出身でもある日本の金融機関に未来への提言をエールとともに届ける。

金融4.0への道

 本書のタイトルにもあるアマゾンが、オンライン決済サービス「アマゾンペイ」や、中小企業向け貸出しサービス「アマゾンレンディング」など、金融関連事業を展開していることをご存じだろうか?

 アマゾンは、今や商流だけでなく物流や金流も抱え込む巨大プラットフォーム。商品や販売者の評価、売上データなどのプラットフォームにたまる膨大な情報と、利便性の追求から生まれた上記の金融関連事業を組み合わせ、徹底的に顧客目線でサービスを行っている。信頼を獲得し拡大し続けているアマゾンが“銀行”となる日も、あながち夢物語ではないという。

 また、アリババなど中国勢も、現金より普及した中国のスマホ決済の膨大なデータを足掛かりに、飛躍を遂げている。中でも信用履歴・行為動向(金融サービスのなどの利用動向や性向)・支払能力・身分特徴・人脈関係といった5つの基準で個人の信用力を点数化した「ジーマクレジット」は、中国では社会インフラとして浸透。就職や婚活でも有利に働くといわれている。支払能力重視の企業主導型から、信頼を前提にした個人間の相互扶助型のプラットフォームへと進化しているのだ。

 著者は来るべき「金融4.0」を、お金と供に情報も交換される、評価経済を表象する新たなお金のインフラだと考えている。そこでは信頼や評価の情報を循環させることができる、アマゾンやアリババのようなテクノロジー企業が台頭してくるというのだ。

個人間シェアの世界観

 私自身は金融4.0の醍醐味を、冒頭に述べた、共感をつなぐ機能にあると考えている。私の短い旧車シェア歴でも、シェア中のユーザーが速度違反をしたとか、事故を起こした後保険請求が煩雑になるなど課題は多い。一方で、シェアのプラットフォームで広がる旧車コミュニティーの魅力は無限大だ。お金では交換できない、助け合いの精神にあふれるプラットフォーム。多彩な個人のスキルやネットワーク、そして共感が、信頼とともにつながる場なのだ。.

 これからは既存の金融機関も、お金を手段としながらも、共感をつなぐコミュニティー形成を視野に入れて業務を見直すことが必要になるのではないだろうか。信用情報機構、シェア・リスク保険、道具や場所のレンタル等、シェアでつながりを循環させる多数の新機能が求められている。銀行が現金取引にとどまらず、新たな縁をつむぐ場となるまでの猶予はあとわずか。金融業界にいる自分にとっても、刺激的で学びの多い1冊だ。

アマゾン銀行が誕生する日

『アマゾン銀行が誕生する日』

-2025年の次世代金融シナリオ

  • 田中 道昭 著
  • 日経BP社
  • 2019/04 432p 1,944円(税込)
鵜養 保

情報工場 エディター 鵜養 保

東京都出身。国際基督教大学教養学部理学科卒、INSEAD MBA。新生銀行グループで事業戦略の立案・実行に携わる傍ら、副業解禁とともに情報工場にエディターとして参画。本業ではノンバンクのM&Aが専門。国産の旧車のレストアが趣味。田舎のガレージで自らエンジンの分解・組み立てをこなす、昭和のスバル車のコレクターでもある。

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