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今月の特選

アフターデジタル

『アフターデジタル』

  • 藤井 保文/尾原 和啓 著
  • 日経BP
  • 2019/03 200p 2,376円(税込)

オフラインが消失 アフターデジタルで生き残る鍵とは

 デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革)によって一層の進化を遂げた中国を横目に、何から始めるべきか、と悩む企業人は多い。消費者側も、リコメンド機能に利便性を感じる一方で、購買行動のデータが収集され、監視されているような不安を覚えることもあるだろう。

 そんな悩みに、世界潮流からみたデジタルトランスフォーメーションの方法論を提示するのが本書『アフターデジタル』だ。オフラインとオンラインがより深く融合して境界線がなくなり、「オフラインがデジタル世界に包含される」世界を「アフターデジタル」と定義。アフターデジタルの世界観を詳説するとともに、企業やサービスの生き残りに必要な視点を描いている。

 著者は、株式会社ビービット 東アジア営業責任者でエクスペリエンスデザイナーの藤井氏と、IT批評家の尾原氏。両名とも新規事業や事業開発を歴任し中国ビジネスの仕組みや競争原理に詳しい。

オンラインとオフラインがシームレス

 常時デジタル環境に接続されているアフターデジタルの社会では、これまでの価値観を転換させることが大切だ。オンラインとオフラインを分けて考えるのではなく、一体のものとして捉える。そして「デジタルがツール」ではなく、「リアルがツール」と考えるのだ。

 アフターデジタル時代で成功している企業として、中国の「ビットオート」(易車)が挙げられている。ビットオートは、自動車業界向けオンライン媒体。免許を取る、車を買う、使う、売る、というカーライフサイクルに関わるサービスを提供している。つまり、カーライフにまつわるエコシステムを形成しているプラットフォーマーだ。

 ビットオートはオフライン店舗、つまり実店舗も有している。その店舗では、顧客が店に入ってくると、カメラの顔認識機能が起動、店員に顧客の名前や最近の検討状況などが送られてくるそうだ。同社にとってはオンラインとオフラインの区別はなく、実店舗もデータ収集の接点というわけだ。

他者貢献的な姿勢が求められる

 アフターデジタルで必要な発想は、実はそれほど突飛なものではない。これまで行っていた見立てや予測が、データの“循環”により、相手が求めることをよりいっそう先回りできるようになった、と考えてみるといい。

 さらに、もう1つ大切な視点が「貢献」であろう。ユーザーにとって大事なのはオンラインであれオフラインであれ、快適で心地よい体験が得られること。そして、自分の預けたデータが確かにより良い方向に使われている、という実感ではないだろうか。

 本書によると、中国のECサイトアリババのある担当者は、「得られたデータを都市設計や植林活動など、社会貢献として活用している」と明言している。つまりアフターデジタルで生き残る≒信用される企業になるためには、より他者貢献的な姿勢が求められるというわけだ。

 本書では日本文化の醸し出す「温かさ」が今後の武器になる可能性についても触れている。アフターデジタルを希望ある、明るい未来とするために、一読をおすすめしたい。

アフターデジタル

『アフターデジタル』

  • 藤井 保文/尾原 和啓 著
  • 日経BP
  • 2019/03 200p 2,376円(税込)
窪田 美怜

情報工場 エディター 窪田 美怜

大阪府出身。青山学院大学教育人間科学部卒。人と組織に関するソリューションプランナーであり、最近新しいスニーカーを入手したにわかランナー。FM802を愛し、BBC Radio1のヘビーリスナーでもある。飲み込むように読書をし、好きな作家は辻村深月、山本周五郎。特に『子どもたちは夜と遊ぶ』『さぶ』はお気に入り。イースター島、マチュピチュ、ウユニ塩湖となぜか南米の世界遺産にひかれ、制覇済み。お風呂上りの時間を人生の大半にしたい。

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