旅行が好きで年に何回かは温泉に行っているが、おもてなしの行き届いた旅館で感じるのは、やっぱり日本は落ち着くなぁという安堵感だ。しかし、ある時ふと考えたことがある。この温泉街や旅館が「日本」なら、いつも生活している東京は「どこ」なのか?
その答えが本書『ビッグデータ探偵団』にあった。「ビッグデータ」とは単に大量なデータのことではなく、種類が多く、更新頻度も高いデータを指す。そのビッグデータを活用すれば現象を読み解いたり、社会的な課題解決に貢献できたりするということをわかりやすくまとめたのがこの本だ。本書を手掛けたヤフーのビッグデータレポートチームは「データの持つパワーや面白さを、一般の人々にも親しみやすく伝える」を使命として掲げ、ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」のデータを活用したレポートをウェブサイト上で発表してきた。数あるレポートから12本をピックアップし、紙の本としてまとめたのが本書だ。
冒頭の疑問に話を戻すと、本書では日本のなかに「東京」と「それ以外」という2つの国があると説いている。データ上で東京の特殊性が際立っているからだ。
象徴的なのは移動手段で、東京だけが極端な電車社会となっているそうだ。全年齢の平均的な電車利用回数を見ると、東京は年間800回以上だが、他県は400回以下。神奈川や大阪のライフスタイルは東京に近そうだが、それでも電車の利用回数は東京の半分以下となっている。
東京とそれ以外を際立たせる検索ワードは「タクシー」だ。インターネット上の総検索数とタクシー関連の検索数を比較し、タクシー関連の割合がもっとも高い東京を100とした場合、他県のほとんどは50未満となる。つまり日本全国のうち東京だけが、極端にタクシーに注目しているのだ。都民にとってはなじみ深いタクシーも、東京以外の人たちにとってはそうではない、という意外な事実が明かされている。
混雑予測のレポートも興味深い。活用したのは「Yahoo!乗換案内」だ。出発地と目的地を入力すると、ルートや運賃、所要時間などを調べることができる。私もよく利用していて、電車で旅行に行く際は必ず前もってルートを確認する。行き慣れていない場所へ行く人の多くがルートなどを事前に検索するのではないだろうか。そうした未来の予定の検索データを蓄積して分析すれば、「1週間後の○月×日△時にA駅に到着したい」と考えて検索している人がどれくらいいるのかを推測できる。それを平常時の検索数と比較することで、混雑の予測も可能になるというのが基本的な考え方だそうだ。現状では突発的な事故や小規模なイベントによる混雑の予測は難しいが、今後は精度も上がっていくだろう。
実はこの「異常混雑予報」はすでに「乗換案内」に実装され、対象路線も拡大している。予測の精度が上がれば混雑を避けてルートや日程を組むことができ、移動のストレスが減って旅行はさらに楽しくなる。ビッグデータのせいで温泉に行く回数が増えてしまいそうだ。