新型コロナウイルスの影響から、テレワークは一気に浸透した。しかし「働き方改革」は進んでいるのだろうか。多くの日本企業において、会議が多く、意思決定に時間がかかり、労働生産性が低いことは、あまり変わっていない。ハラスメントの問題も根強くある。
本書『「超」働き方改革』は、働き方改革が進まない理由として、組織や集団から個人が「未分化」であることを指摘。「仕事」「職場」「キャリア」「認知」の4方面から「分化=分ける」ことの重要性とその効果を解説している。著者は、同志社大学政策学部教授の太田肇氏。
まず「仕事」を分けるとはどういうことか。個々の仕事の分担と責任をはっきりさせれば、個と組織、または個人間の相互依存関係は解消される。具体的には、関係者が全員参集されるような会議は減る。周りに迷惑をかけなくなるので「お先に失礼します」と帰りやすく、残業も減る。成果や貢献度を明確に評価できるので、性別や属性による理不尽な差別は減り、ハラスメントのリスクも減るという。
仕事を分けると、チームワークは悪くならないのか。意外にも、助け合いは増えるそうだ。なぜなら、仕事が分けられていない場合、人は、「みんなの仕事は手の空いた人がやって当然」と考える。が、仕事を分けると、「手伝う」「手伝ってもらう」関係が明確になり、感謝や恩義といった無形の報酬が生まれる。それが、相手を助ける動機になるからだ。
では「認知」を分けるとは、何だろうか。大型の機械を組み立てる場合など、製造部門や間接部門では、仕事を分けるのが難しいことは多い。そんなときは、誰が行った仕事かを分ける。例えば、京都府宇治市の精密研削盤メーカーの長島精工株式会社では、機械の組み立てを丸ごと一人に任せているが、組み立てた製品に製作者の名前を入れた銘板を貼り付けて出荷しているという。製品に対する顧客の評価が、直接、製作者に返ってくるため、仕事に張り合いが生まれる。日本酒の瓶に杜氏の名前を入れたり、署名入りの新聞記事が増えるなど、近年、認知的に分けることでモチベーションを高める例は増えているようだ。
分ける考え方の背景には、近年の技術進化や社会環境の変化がある。人材は多様化し、仕事の専門化も進む。個人の価値観やライフステージなどに合わせて、働き方を選べるようにするためにも、仕事を個人単位に分ける必要性は増しているという。
IT(情報通信技術)の普及によって、時間や場所による制約は減り、個と組織は、分けながらも統合できるようになってきた。むしろ、前述のように、分けることによって助け合いが進むなど、より強い統合が可能になる。今後は「分けて統べる」考え方が必要というのが、著者の主張だ。
部下のモチベーションが上がらない、残業が減らないなど、働き方改革の限界を感じる方に、本書を手にとっていただきたい。次に打つべき手が見えてくるに違いない。