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今月の特選

新しい世界 世界の賢人16人が語る未来

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』

  • ユヴァル・ノア・ハラリ/エマニュエル・トッド/ナシーム・ニコラス・タレブ/ナオミ・クライン/トマ・ピケティ/マイケル・サンデル 他 クーリエ・ジャポン 編
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2021/01 256p 990円(税込)

人と会うことはコストか温もりか 賢人が予想する未来

リモート仕事の快適さ、エッセンシャル・ワーカーの存在の大きさ、人と人の触れ合いの大切さ――突然訪れた「ニューノーマル(新常態)」の中で、私たちはたくさんのことに気がついた。これらの経験を記憶にとどめ、未来への知とするために開きたいのが本書『新しい世界』である。

これはウェブメディア「クーリエ・ジャポン」に掲載されたインタビュー記事を、テーマ別に編集したもの。登場するのは歴史学・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ、歴史人口学・家族人類学者のエマニュエル・トッド、ノーベル経済学賞受賞者のジョゼフ・スティグリッツ、政治哲学者のマイケル・サンデルといった政治、経済、思想界のそうそうたる16人。コロナ禍がもたらした変化と、これからの世界のあり方を、それぞれの視点で分析している。

デジタル化とコストと人間性

国籍や専門分野は違えど、語られる内容には似ている部分もある。ジャーナリストのナオミ・クラインは、危機感を抱いているものとして「スクリーン・ニューディール」を挙げる。これはコロナによって、人との接触を非接触型テクノロジーに置き換えていく動きが加速することを指す言葉だ。教育でいえば、対面授業をバーチャル授業にすることなどがある。

しかし、クラスの生徒数を半分にして教員数を増やしたり、屋外で教える方法を考えることもできるはずだ、とクラインは言う。「コロナ前の日常」に戻ろうとテクノロジーを介在させていけば、監視が強化され、人の温もりが失われるだけ。ならば、戻るのではなく社会のスピードをコロナ前よりもスローダウンする方法を考えようというのが彼女の提案だ。そのために、温暖化対策と格差是正のための経済刺激策「グリーン・ニューディール」に力を入れるべきと訴えている。

なぜデジタル化が急激に進んでいるのかを冷静に解説するのが、ダニエル・コーエンだ。パリ高等師範学校の経済学部長で、トマ・ピケティなどを育てた。コーエンは対面で話をすることは「コストが高い」行為だと指摘する。デジタルサービスは本質的にこのコストを削減するための技術。例えばビデオ会議サービスZoomなどは、人々の移動に伴うコストを無くし、生産性を高めるためのもの。「コスト削減」技術とコロナ社会の「人と人の接触を減らす」方向性がたまたま一致したことで、相乗効果のように急ピッチでデジタル資本主義が進んでいるのだ。

その上で、人と人がオンラインでしか会わなくなったら「大惨事」だともらす。人間は社会的な動物であり、言語と身体を使って他者と話す経験の中で内面を育てていくからだ。人と人との触れ合いをコストと見なし切り捨ててよいのか、慎重に考える必要があるのだろう。

ウイルスを撲滅するためではなく、より幸福に生きる社会や価値観を創出するために立ち止まって考えようというのが本書に通底する姿勢。世界のパラダイムシフトを実感する、読みやすくも読み応えのある一冊だ。

新しい世界 世界の賢人16人が語る未来

『新しい世界 世界の賢人16人が語る未来』

  • ユヴァル・ノア・ハラリ/エマニュエル・トッド/ナシーム・ニコラス・タレブ/ナオミ・クライン/トマ・ピケティ/マイケル・サンデル 他 クーリエ・ジャポン 編
  • 講談社(講談社現代新書)
  • 2021/01 256p 990円(税込)
安藤 奈々

情報工場 エディター 安藤 奈々

情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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