デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーン(地球環境を守ること)に加えて浮上している価値観「エクイティ」をご存じだろうか。近ごろよく言われている「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」にエクイティを加えてDEIとする企業も出てきているという。全員に等しく同じリソースを与える平等とは異なり、目が不自由な人、左利きの人といった少数派を含めた多様な個性や価値観を受け入れ、公正・公平を実現しようという考え方だ。
本書『世界最先端8社の大戦略』によると、アマゾン、アップルといった最先端企業は今、DXによる利便性追求が地球環境や社会の公平性に弊害をもたらしているとの反省から、デジタル化によってグリーンそしてエクイティを達成しようと動いているという。上記2社のほかテスラ、セールスフォース・ドットコム、ウォルマート、マイクロソフト、ペロトン・インタラクティブ、DBS銀行も同様で、本書はそうした最新動向と戦略とを分析している。
著者の田中道昭氏は立教大学ビジネススクール教授。アマゾンのジェフ・ベゾスの言動を長年マークしている自称ベゾスウオッチャーでもある。
アマゾンは「地球上で最も顧客中心主義の会社になる」というビジョンを掲げ、その通りにユーザーから圧倒的な支持を得てきた。半面、気候変動や格差拡大といった社会問題解決には熱心ではなく、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)の評価ランキングでは低い順位のままだ。「圧倒的な支配力により利益を独占している」といった社会的な批判も高まっている。
そうした背景もあってか、ベゾスは2021年にCEO(最高経営責任者)を退任し、アマゾンに方針転換が見られると著者は指摘。かねて公言していた夢である宇宙事業以上に、教育や恵まれない家庭への慈善事業「DAY1ファンド」や気候変動対策を行う「ベゾス・アース・ファンド」の運営に力を入れていく見込みだ。
先進的な対応が目立つのはアップルだ。20年に発表された「アップルカー」はEVだが、自動車に参入する理由の1つにはカーボンニュートラル(CO2排出量と吸収量を合わせてゼロの状態にすること)への志がある。国連が2050年の実現を目標に掲げるカーボンニュートラルを2030年に前倒しして達成することをコミットしたほどだ。
さらに、CEOティム・クックは、自身がゲイであることを明かし自らアップルの価値観を体現している。女性、人種、LGBTの問題に真摯に取り組み、アップルの従業員の6割以上は女性や少数民族などの「過小評価グループ」が占める。さらに世界中どこでも性別や人種を問わずに同一労働同一賃金を実現しているという。
最先端企業では従来のCSR(企業の社会的責任)のように収益を社会に還元するというレベルから、事業本体がグリーンやエクイティを目的とするレベルへと進化している。共通するのは日本企業が苦手とする大胆なビジョンだ。著者が勧めるように、ベゾスやクックが自社の社長ならどうするか? と考えてみてはいかがだろうか。