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今月の特選

LISTEN

『LISTEN』

-知性豊かで創造力がある人になれる

  • ケイト・マーフィ 著 篠田 真貴子 監訳/松丸 さとみ 訳
  • 日経BP
  • 2021/08 504p 2,420円(税込)

ビジネスに必須の「聞く」姿勢 消費者の本音がヒットに

会議や交渉の場で、自分の主張に気をとられ、相手の話をなおざりにする。あるいは家族と過ごす時間、相手の何気ない話の途中でスマートフォンに気を取られ、上の空になる。いずれも「聞く」ことの軽視だ。私たちはふだん、「聞かなかった」ことによって成長の機会を逃したり、大切な人間関係を危険にさらしたりしているかもしれない。

本書『LISTEN』は、聞くことについて、その意味や価値、人間関係に与える影響などを、ビジネスや家庭など多方面から考察する書である。著者のケイト・マーフィ氏は、ニューヨーク・タイムズやエコノミストなどに寄稿するジャーナリスト。多くの人々にインタビューをしてきた、聞くプロだ。

「聴く」ことは受け身ではなく能動的

「LISTEN」には、能動的に「耳を傾ける」という意味がある。監訳者の篠田真貴子氏は、その中にも、自分の頭の中で判断しながら「聞く」姿勢と、判断を留保して話し手の感覚に意識を同調させる「聴く」姿勢の二つがあるとし、訳し分けている。

相手の話をよく聴くには、どうしたらいいのか。ある研究では、聞き手がうなずいたりオウム返ししたりする場合より、意味づけと解釈を伝えた方が、話し手は「理解してもらえた」と感じることがわかったという。例えば、友人から仕事を「クビになった」と言われたとき。もちろん状況によるが、「家族に話さないといけないんでしょう? つらいね」といった具合に、相手の悩みを感じ取って代弁する。聴くとは必ずしも受け身ではなく、解釈して反応を返すという、能動的な行動を含むのだ。

「心理的安全性」とは「聴きあう」こと

ビジネスシーンにおいても、聴くことは重要なようだ。近年、生産性の高いチームの要素として注目を集める「心理的安全性」。この概念を広めたグーグルの調査によると、生産性の高いチームは、各メンバーの発言量が同じくらいだという。また、声のトーンや顔の表情など非言語的な手がかりから、相手の感情を読み取る能力が高い。著者はこれを、つまり「聴きあって」いるのだと言い換える。

また、ビッグデータを活用した定量的なデータより、聞く・聴くことを通じた定性的な調査が有効な例もある。掃除の達人を集めたフォーカス・グループで、一人が、洗って何度も使える雑巾のかわりにペーパータオルを使うと「罪悪感」を感じると語った。モデレーターが詳しく聞くと、彼女は罪悪感を薄めるため、一度使ったペーパータオルを床に撒き、足で汚れを拭くと話した。そこから、モップ型で、床拭き専用のシートを汚れるまで使い切ってから取り換える掃除グッズが生まれ、大ヒット商品に育ったという。

じつのところ私たちは、聞くことを通して多くのものを得ている。にもかかわらず、一生懸命に他人の話に耳を傾ける機会は、思いのほか少ない。本書は、聞く・聴くことの実践のポイントと同時に、その価値の大きさを教えてくれる。

LISTEN

『LISTEN』

-知性豊かで創造力がある人になれる

  • ケイト・マーフィ 著 篠田 真貴子 監訳/松丸 さとみ 訳
  • 日経BP
  • 2021/08 504p 2,420円(税込)
前田 真織

情報工場 エディター 前田 真織

2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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