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今月の特選

挑戦 常識のブレーキをはずせ

『挑戦 常識のブレーキをはずせ』

  • 山中 伸弥/ 藤井 聡太 著
  • 講談社
  • 2021/12 192p 1,540円(税込)

常識外れの手をAIに学ぶ 棋士、藤井聡太が「強い」ワケ

将棋界のスター、19歳の藤井聡太氏が最年少で五冠を達成して世間をにぎわせた。彼はなぜこうも強いのか。本書『挑戦 常識のブレーキをはずせ』からは、その理由の一つに、常識にとらわれない自由な発想で将棋と向き合う姿勢があることがわかる。

本書は、藤井氏とiPS細胞の開発者である山中伸弥教授、各分野の最前線で活躍する2人の対談をまとめたもの。いかに自らの可能性を広げ、自分を高め続けるか、率直な意見が交わされている。

山中伸弥氏は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞。現在は、京都大学iPS細胞研究所所長を務める。藤井聡太氏は、2016年10月に史上最年少の14歳2か月で四段昇段、プロ入りを果たした。以来、史上初の29連勝を果たすなど、数々の金字塔を打ち立てている。

プレッシャーを感じない理由

山中教授との対談の中で印象的なのが、藤井氏の「負け」から学ぼうとする徹底した姿勢。負けた対局の後は、改善すべき点を抽出して次につなげられるよう研究するという。その時に重視するのが、「いつ形勢が傾いたか」。中盤や終盤にさしかかる局面で判断をどう誤ったのかを丁寧に分析していく。

そんな藤井氏の今の目標は「できるだけ上へ」。意外にも具体的なことは何も考えていないのだそうだ。どの局面でもやることは同じ、その時々の最善を追求すれば結果につながるという考えには山中教授も賛同する。そのためか、両者ともこれまでプレッシャーを感じたことはほとんどないという。彼らが挑戦者であり続けられる秘訣は、こんなところにあるのかもしれない。

型破りな手を平気で指すAI

次々と偉業を遂げる藤井氏は、AIと対局しながら自身の弱点を探ったり、形勢判断力を磨いたりしているらしいが、なんとその際に使うパソコンを自作したそうだ。一秒間に読める局面の数が多くなるよう、高性能のCPUやGPU(画像処理演算装置)を使ったパソコンを、ネットで調べて組み立てたという話に山中教授は驚く。

そんな彼は、AIのおかげで将棋の自由度が上がったと話す。将棋には「居玉(王将が最初の位置から動かない状態)は避けよ」という格言があるが、コンピューターは居玉のままでも勝てる手を提示してくる。AIは人間の思いつかない手を指して、棋士たちの常識というブレーキを外してくれると藤井氏はAIの存在を積極的に受け止める。

一方の山中教授もテクノロジーの力量は認めながらも、例えばもしAIに研究開発の進退の判断を任せたら、試行錯誤で失敗することがとても多いiPS細胞の研究などは中止になるだろうと語る。開発の方向性や最終的な判断などは、まだまだ人間が死守したいという思いがあるようだ。

本書を通じて感じられるのは、2人のおおらかな雰囲気である。その背景には、どんな局面でも「今できるベストを尽くすのみ」と割り切り、その一点に集中しようとする構えがあるのだろう。こうした姿勢は、私たちが仕事をする上での参考にもなりそうだ。

挑戦 常識のブレーキをはずせ

『挑戦 常識のブレーキをはずせ』

  • 山中 伸弥/ 藤井 聡太 著
  • 講談社
  • 2021/12 192p 1,540円(税込)
川上 瞳

情報工場 エディター 川上 瞳

情報工場エディター。大手コンサルティングファームの人事担当を経て、書評ライターとして活動中。臨床心理士、公認心理師でもある。カリフォルニア州立大学卒。

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