PR

今月の特選

Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)

『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)』

-イノベーション量産の方程式

  • 谷 敏行 著
  • 日経BP
  • 2021/11 336p 1,980円(税込)

日本企業と相性良し アマゾン式イノベーションの仕組み

米ITの巨人アマゾン・ドット・コム。同社の経営や創業者のジェフ・ベゾス氏に関する書籍は多数あるが、本書『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)』は、イノベーションを連続して起こすアマゾン式のメカニズムに焦点を当てる。

著者の谷敏行氏はソニー出身で、米シスコシステムズ、日本GEを経て2013年から19年までアマゾンジャパンに在籍し、エンターテイメントメディア事業本部長などを歴任した。現在は、TRAIL INC.でマネージングディレクターを務めるほか、Day One Innovation代表としてイノベーション創出伴走コンサルタントとしても活動。本書は、日本企業に「再現可能」な形でイノベーション量産の仕組みを提示することを目指した、実践のための一冊だ。

「大企業の落とし穴」を避ける

オンライン書店だったアマゾンは、扱う商品の幅を広げるだけでなく、クラウド事業、電子書籍端末やサービスのキンドルなど、新分野に次々とイノベーションを起こして成長を続ける。背景にあるのは、イノベーションを量産するメカニズムだ。

著者が導き出した方程式は、「ベンチャー起業家の環境×大企業のスケール-大企業の落とし穴=最高のイノベーション創出環境」。内部にいた著者だからこそ知るアマゾン式のビジネスの進め方から、底流にある普遍的な考え方を「式」として抽出したといえる。

方程式を構成する項目はどれも興味深いが、失われた30年の要因に「大企業病」を指摘されがちな日本企業にとって必見は、「大企業の落とし穴」を避ける仕組みではないか。例えば、企画が失敗した場合、担当者の評価を下げていては、社員は失敗を恐れて挑戦に尻込みしてしまう。アマゾンでは、結果の成否ではなく「顧客視点でアイデアを深掘りできたか」「優秀な人材を採用できたか」などの点から評価し、挑戦を後押しするという。

日本企業がまねしやすい理由

終盤、著者はベゾス氏の言葉を多数引き、解説を加える。一例が「長期間にわたって誤解されることを我々は恐れない」という一節。著者も指摘する通り、斬新なアイデアほど誤解されやすい。書籍販売ページにつく「カスタマーレビュー」がそうで、ネガティブな意見は販売減につながりかねないとして、当初、出版社は批判的だったという。しかし、ベゾス氏は出版社を説得し続けた。「買ってみたら思ったのと違った」という顧客を減らすことを重視したからだ。長期的視点の重要性は、多くの経営者や経営コンサルタント、学者らも指摘するところだが、とことん実践するところにアマゾンのすごみが感じられる。

著者は、GAFA4社のうち「日本企業がまねをしてもっとも成果が上がるのはアマゾンだろう」と指摘。理由として、「普通の人」に力を発揮させる仕組みなどを挙げている。

やるべきことを徹底してやる真面目さも、日本企業と相性が良いのではないか。巨大企業も、地道な努力を重ねている。日本人らしいきちょうめんさでアマゾン式のメカニズムを学べば、イノベーション量産も夢ではない気がしてくる。

Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)

『Amazon Mechanism(アマゾン・メカニズム)』

-イノベーション量産の方程式

  • 谷 敏行 著
  • 日経BP
  • 2021/11 336p 1,980円(税込)
前田 真織

情報工場 エディター 前田 真織

2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

今月の良書6選過去の選書はこちら >>

スポーツをしない子どもたち

『スポーツをしない子どもたち』

ショートムービー・マーケティング

『ショートムービー・マーケティング』

みんなのアンラーニング論

『みんなのアンラーニング論』