2021年、経団連初の女性副会長にディー・エヌ・エー会長の南場智子氏が就任したように、近年は日本でも女性の活躍が目立ってきた。しかし、世界経済フォーラムが公表する「ジェンダーギャップ指数」を見ると、日本は21年に156カ国中120位に留まり、国際水準には達していない。
日本社会の中でも「永田町」、そして政治メディアの世界は、ジェンダーギャップが顕著なようだ。本書『オッサンの壁』では、そんな政治メディアの第一線で働いてきた著者の佐藤千矢子氏が、仕事における体験談を軸に「男社会」のリアルをつづり、女性活躍を阻む「壁」の実態を明らかにする。
佐藤氏は1987年、前年に施行された「男女雇用機会均等法」第1世代として毎日新聞社に入社。政治部、ワシントン特派員などを経て、17年に全国紙では女性として初めて政治部長に就いた。現在は論説委員を務める。
本書で定義された「オッサン」は、単に中年男性を指すのではない。年齢や性別にかかわらず、男性優位に設計された社会に安住する人たちのことだ。彼らは現状維持を望むあまり、少数派の生きづらさや不自由な環境に思いが至らない、もしくは見て見ぬふりをする。
新聞社はもともと男性の多い職場だったが、佐藤氏が配属された政治部は、取材対象の政界、官界にも圧倒的に男性が多い。それもあり、働く中で何度も「オッサンの壁」にぶつかったという。
例えば、業界自体が長年「女に政治はわからない」という男性目線で語られ、女性が仲間外れにされやすい。政治家との懇談では、先輩記者から「女性の高い声は場の空気を乱す」と言われる。会食では、接待先の男性の隣席を指定される、等々。記される苦労の数々は想像以上だ。
一方で、前向きになるエピソードもある。著者は政治部長就任にあたり、政治家たちに挨拶に出向いた。すると彼らは「女性だから」という扱いはせず、積極的に話し込んできたという。自分の見解を、全国紙の新しい政治部長に説明しておこうと懸命なわけだ。誰であれ必死に仕事に打ち込む時、性別に関係なく相手と向き合うことを実感したそうだ。
印象的なのは、オッサンの壁は越えるものではなく、「壊すもの」だという著者の言葉だ。いくら越えても壊さなければ、後からくる人がまたぶつかる。そのために、まずは関わる女性の「数」を増やすこと。また、性別による役割の意識を改革することも必要という。
性別にとらわれることなく、多様な働き方が認められるべきだという価値観は、近年ようやく社会に浸透してきた感がある。著者の世代が闘ってきたからこそ、日本のジェンダー平等はここまできた。しかしまだ道のりは長い。本書は、ジェンダー平等を目指す人たちの励みになると同時に、オッサンたちが具体的課題に気付くことのできる一冊だ。ぜひ本書から学び、オッサンの壁を壊す側に加わってほしい。