持続可能な農場から生み出されるグラスフェッド認証の乳製品をアイルランドから日本の市場へ 持続可能な農場から生み出されるグラスフェッド認証の乳製品をアイルランドから日本の市場へ
interview アイルランド政府食糧庁 (ボード・ビア)に聞く interview アイルランド政府食糧庁 (ボード・ビア)に聞く

 EU屈指の酪農国アイルランドは、チーズやバターなどの輸出元として近年日本との関係を強化している。サステナブルな生産体制で、高品質かつ安全な乳製品を供給するアイルランド酪農の特徴について、アイルランド政府食糧庁(Bord Bia=ボード・ビア)の日本担当マネジャー、ジョー・ムーア氏に聞いた。

国土の8割が牧草地
  通年でグラスを給餌

ジョー・ムーア氏
 アイルランドは欧州におけるIT産業の集積地としても知られていますが、地元の産業の中で重要な位置を占めるのは、就労人口の約10%が従事している食品セクターです。中でも酪農が占める比重は非常に大きく、2015年にEUの生産キャップが撤廃されて以来、生産量は年々右肩上がりを続けています。21年の生乳生産量は前年を上回る80億リットルに達するとみられ、さらに今後5年間で100億リットルまで伸びる見込みです。
 現在アイルランドでは17000の酪農場があり、約150万頭の乳牛を育てています。酪農家には若い人も多く、古くからの伝統を守りつつも、酪農を成長産業ととらえITを活用した意欲的な経営を行っています。タブレットを片手にした酪農家を農場で見かけることも珍しくありません。

 こうしたアイルランド酪農の最大の特長は、自然で安全な牛の飼料となるグラス(牧草)に恵まれていることです。年間降雨日が200日以上に達するこの国では、グラスが10カ月間育つため、ほぼ通年でグラスを給餌することが可能です。国土の8割が牧草地という環境で育つ乳牛からは、安全性の高い乳製品を、少ない環境負荷で生み出すことができます。アイルランド産乳製品が現在、世界140カ国を超える市場に出荷されているのには、このような背景があります。

厳格な基準をクリアしたグラスフェッド乳製品

グラスフェッド乳製品
 ここ数年、日本でもSDGsへの意識の高まりから、グラスフェッドの乳製品は大きな注目を集めています。21年3月から4月にかけてボード・ビアが行った調査でも、52%の消費者が「グラスフェッド」「グレインフェッド」という言葉を認識しているという結果が得られており、グラスフェッドの乳製品に対する日本市場からの期待の大きさを実感しています。

 こうした状況を踏まえ、ぜひ知っていただきたいのが、アイルランド独自の「グラスフェッド認証」制度です。その基準は、放牧の日数を年間240日以上、そして飼料のうち95%以上をグラスとすると定めた非常に厳しいもの。先ほどもご紹介した通り、この国ならではのきれいな空気と豊かな水、肥沃な土壌に恵まれた環境があるからこそ、これらの高い基準をクリアすることができるのです。

 またアイルランドでは、持続可能な食品生産のための先駆的プログラム「オリジングリーン」を策定しており、酪農家から食品メーカー、小売業者にいたるまで、CO2の排出削減や水使用量の削減など共通の目標に取り組んでいます。EU基準を上回るサステナビリティーへの配慮もまた、アイルランド産乳製品の大きな特長といえるでしょう。

対日乳製品輸出量は前年比29%の増加

対日乳製品輸出量
 20年の日本への乳製品輸出は、金額ベースで前年比29%増の86億円、出荷量ベースでは20%増の18700トンと大幅な伸びを記録しました。とくにチーズの比率が大きく、前年比20%増の16700トンに達していますが、今後はバターなど他の乳製品もこれまで以上に取引量が増えるものと予想しています。

 22年からはEUとボード・ビアが共同で、新しい乳製品の販促プログラムである「EUデイリー・サステナブル・チョイス」を展開することも決まっています。これにより、日本をはじめ各国で、アイルランド産乳製品を知ってもらうための様々なプロモーションを実施することが可能になります。日本の市場では昨年、アイルランド産ビーフを外食チェーンとのコラボでPRする企画を行いましたが、今後は乳製品分野でもこのような取り組みを増やしていきたいと考えています。

 日欧EPAの発効に伴い、食品を介したアイルランドと日本の関係はさらに緊密になりました。今後もアイルランド産乳製品の素晴らしさをより多くの方々に知っていただく努力を続け、日本との絆を強めていきたいと願っています。