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合成医薬の開発製造受託で成長機会つかむ AGC Pharma Chemicals Europe, S.L.U. AGCのライフサイエンス事業の飛躍支える プロビジネス人材の宝庫、カタルーニャ州

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スペインに拠点を設ける日系企業の中で最も人気が高い地域は、首都マドリードではなく、北東部の州都バルセロナを擁するカタルーニャ州だ。フランスと国境を接する同州の空港からEU各国の主要都市へは2時間程度とアクセスがよく、物流拠点としても好立地だ。

スペインの中でも産業革命で成功した歴史を持つカタルーニャ州は、日本からも自動車や化学関連などの製造業が1980年代以降に次々と進出。近年ではICT(情報通信技術)系企業が研究開発拠点を設置する一方、ライフサイエンス関連企業の進出先としても注目されている。

2018年にはカネカが現地の乳酸菌研究開発バイオテクノロジー企業を、AGCが独医薬品大手から医薬品原薬製造子会社を買収。19年には東和薬品が現地の医薬品大手からジェネリック医薬品事業部門の買収を発表している。ライフサイエンスの中でも医薬品関連は特に競争が激化しており、“時間を買う”M&Aの候補先としてカタルーニャ州に注目する企業は多い。

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海外M&Aで成長する AGCのライフサイエンス事業

1907年に創業したAGCは、板ガラスの工業生産からはじまり、現在では「ガラス」「電子」「化学」「セラミックス」など、多様な分野において事業を展開している。

2018年に社名を旭硝子からAGCに変更し、グループで共有するブランドステートメント“Your Dreams, Our Challenge”も策定。優良素材メーカーとしてのグローバルブランド再構築を進めている。

AGCは「2030年のありたい姿」からバックキャストしてまとめた経営戦略として、モビリティー、エレクトロニクス、ライフサイエンスの3事業を据え、高付加価値ビジネスの拡大を目指している。なかでもライフサイエンス部門では積極的な海外M&Aを次々と実施。新薬開発に注力するため、製薬会社の多くが生産プロセス開発や製造のアウトソーシング化をグローバルに加速させているなか、AGCは臨床試験から商業生産に必要な医薬品原薬・中間体の開発製造受託(CDMO※)に成長機会があるとみて原薬分野でのM&Aをグローバルに展開している。

Contract Development and Manufacturing Organization

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製造工場に研究開発、営業、 ITの各部門を新設

AGCは16年に1件、17年に1件、20年にも2件のCDMO事業に関するM&Aを実施している。しかし、これらは全てバイオ医薬品(微生物、動物細胞、遺伝子細胞)事業。19年3月にドイツ医薬品大手のベーリンガーインゲルハイムから譲り受けた、バルセロナのMalgrat Pharma Chemicals, S.L.U.(現社名・AGC Pharma Chemicals Europe)は、国内で30年以上の医薬品事業の経験があるAGCとしても海外では初の合成医薬のM&Aだった。

「EUのCDMO市場は世界の35%を占めており、ここでの成功がグローバルな成長の鍵を握る」とAGC Pharma Chemicals Europeの門倉昭博社長は話す。

「買収前は医薬品の製造工場に過ぎなかったが、AGCは開発部門、営業部門、IT(情報技術)部門を付加して合成医薬のCDMO企業へと変身させた。コロナ禍にもかかわらず、新研究開発施設は予定より1カ月早い21年2月から稼働しており、生産能力の設備増強も順調に進んでいる」

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優秀な研究者人材の宝庫

このM&Aでは、EU内で他にも候補地が複数あったという。バルセロナを選んだ理由について、門倉社長は「既存工場の高い製造管理体制、人材確保、インフラ整備、化学品製造経験の集積、産学協同体制」の5点を挙げた。

化学合成原薬の品質を保証するGMP(Good Manufacturing Practice)では、出発物質から原薬に至る過程において厳しい管理が要求されるが、買収以前から既に体制が整っていたという。「工場の前には地中海の海水浴場があります。化学工場のすぐ目の前にです。厳格な環境・製造規定を遵守している証しです」

門倉氏が社長として赴任して一番驚いたのは、研究者人材の採用が日本とは比べものにならないほど容易なことだったという。

「M&A後も雇用を維持した製造部門で働く人たちのほとんどはスペイン国籍です。新設した部門で採用した人材もほとんどがスペイン国籍ですが、非常に優秀な研究者たちが入社してくれています。カタルーニャはまさに人材の宝庫です」

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勤勉でプロビジネス意識が高い

以前から従業員と大学との連携も多く、大学からのアプローチも頻繁にくるという。カタルーニャ州内には現在12の大学があるが、例えば、総合大学のラモン・リュイ大学の前身となる教育機関の一つであるIQS(サリア化学研究所)の設立は1905年まで遡る。化学研究の長年の蓄積には目を見張るものがある。

「他の大学も含め、大学側のプロビジネス意識が非常に高い。企業との共同研究は一般的に行われており、行政が絡む場合も書類の審査スピードが非常に早い印象があります。カタルーニャ州の文化や気風そのものがプロビジネスと言ってもよい。そして、カタルーニャ人は本当に勤勉です。ベースになるカルチャーが日本人にとてもよく合っています」(門倉社長)

門倉社長のカタロニア讃歌は尽きない。

「この地の出身者にはグローバル経験の豊富な人が多い。海外で経験を積み、なぜか磁石のように再び戻ってきて家族を大切にします。この場所を選んで本当によかったと思っています」

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ここまでの写真は全て ©VicensTomás

AGC AGCファーマケミカルズヨーロッパ

社名AGC Pharma Chemicals Europe, S.L.U.
設立2019年(工場操業開始は1961年)
社員数310人(2021年1月末時点)
事業内容合成医薬品原体および中間体の受託開発製造事業
門倉 昭博 氏

門倉 昭博AGCファーマケミカルズヨーロッパ
社長

AGC(旧旭硝子)入社後、海外事業関係を担当、米国勤務などを経験。その後グローバルヘルスケア企業に転身。2018年にAGCへ再入社、2019年から現職を務める

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AGCがカタルーニャ州を選んだ 5つの理由

  • 1 既存工場の高い製造管理体制
  • 2 優秀な人材の確保が容易
  • 3 整備されたインフラ
  • 4 化学品製造経験の集積
  • 5 充実した産学協同体制
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カタルーニャ州を選ぶ 3つのポイント ライフサイエンス&化学産業編

1 化学・ライフサイエンス産業の集積 外資を呼び込むファインケミカルの充実

カタルーニャはスペインの5大製薬メーカー(Almirall、Esteve、Ferrer、Grifols、Uriach)発祥の地であり、基礎化学の歴史的蓄積を基に最先端の研究開発が盛んに行われている。

この分野では日本からも多くの企業の進出がある。花王(染料・インク)、東洋紡(診断薬・診断機器)、大塚製薬(自然食品・栄養食品)、ニプロ(透析液)、AGC(合成医薬品原薬)、東和薬品(ジェネリック医薬品)などが製造拠点を設けているほか、帝人ファーマ(在宅医療サービス事業)、カネカ(乳酸菌開発企業へ出資)など多様な形態の日本企業が進出している。

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カタルーニャにライフサイエンス企業が集積する一因として挙げられるのが、国内生産量の75%を占めるファインケミカル(精密化学品)の存在だ。食品・化粧品・医薬品などの分野では原料として、塗料・石油化学・鉄鋼などの分野では添加剤として利用されるファインケミカル製品の品質と安定性とコストは、それを使用する製品の製造工程や品質、販売価格に大きな影響を与える。ライフサイエンス分野のエコシステムの基礎を支えるファインケミカル分野で強みを持つことが、多くの海外企業を引きつける要因になっている。

2 研究開発拠点の充実 最先端の研究を進める研究開発拠点

バルセロナにある南欧最大のシンクロトロン(円形加速器)施設「ALBA(※1)」には、世界中から多様な研究依頼が寄せられる。例えば、2020年3月に国際科学誌『eLife』に掲載された論文(※2)では、中央大学、ALBA、CSIC(スペイン高等科学研究評議会、Consejo Superior de Investigaciones Científicas)、県立広島大学、高輝度科学研究センターが名を連ね、神経細胞中の微小管の構造変化を生きた状態で捉えることに成功したことが報告された。副作用が少なく、効果の高い抗がん剤の開発につながる研究として注目されている。

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バルセロナにはEU(欧州連合)が構想するスーパーコンピューティング・ネットワーク拠点の1つ「バルセロナ・スーパーコンピューティング・センター(BSC、産官学共同出資会社)」も立地している。基礎科学研究に欠かせないインフラ施設が充実しているのもバルセロナの魅力だ。

化学・ライフサイエンス系の研究開発拠点も非常に充実している。欧州の中核的化学研究拠点である「カタルーニャ化学研究所(ICIQ)」、南欧最大のバイオ医療研究施設「バイオメディカル・リサーチ・パーク(PRBB)」、バイオセクターの事業支援機能を備えた「バルセロナ・サイエンス・パーク(PCB)」など州政府が出資・運営に参加している研究所に加え、2000年以降には多数の財団やコンソーシアムが形成され研究所を相次いで開設している。

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バルセロナ市にある最先端の第3世代シンクロトロン(円形加速器)施設「ALBA」

カタルーニャはまた、欧州の卓越した研究を支援するERC(欧州研究会議)助成金を最も多く獲得している地域の一つだ。人口100万人当たりのERC助成金獲得数は欧州3位。近年、特に力を入れているバイオ医学分野での論文数が今後増加すると見込まれているが、カタルーニャの研究者の論文の6つに1つ(16.5%)は「高被引用論文」(the most cited papers)であり、研究者の質の高さがうかがえる。

※1ALBAはスペイン政府とカタルーニャ州政府の共同出資によるCELLS(シンクロトロン光科学コンソーシアム)が運営し、2011年から一般利用が開始された。ALBAはスペイン語で「夜明け」を意味する。

※2https://elifesciences.org/articles/50155

3 産官学連携のクラスター バイオ起点にライフサイエンス企業が集結

2010年以降、カタルーニャ州では毎週1社ペースで新しいライフサイエンス企業が誕生し続けている。15年以降は1000万ユーロを超えるスタートアップへの投資が毎年2、3件あり、最近では平均投資額の半分以上を海外のベンチャーキャピタルが実施している。投資額の大きな案件はバイオテクノロジーや医療機器が多いが、近年はデジタルヘルスへの投資も急増している。

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州内のバイオクラスター推進機関「Biocat」が運営する「BioRegion(※3)」には1200社以上の企業と89の研究機関が参加。所属研究者によるバイオ医学の論文数は、同分野で世界の1.2%(※3)を占めるほどだ。Biocatは名称こそバイオクラスターを掲げているが、実際にはカタルーニャ州内のライフサイエンス関連全般の産官学連携・振興を推進する目的で設立された機関であり、バイオ医療に限らず幅広い分野の企業・機関が参加している。

※3https://www.biocat.cat/en/about-bioregion/what-bioregion

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カタルーニャ州について

カタルーニャはスペイン経済の中心的存在。日本とスペインの間の輸出入の大きな割合を占める。日本に対する主要な輸出品目は自動車・自動車部品、化学・医薬品、ファッション製品、食品・飲料や豚肉など。その品質は日本市場で高い評価を受けている。カタルーニャには世界的に知られる研究開発機関も多く、日本との提携を推進・模索しているところも多い。

動画「カタルーニャ、全てが可能となる場所」
(2分50秒)

カタルーニャの
スペインにおけるポジション

  • スペインの人口に占める割合 16%
  • スペインのGDPに占める割合 20%
  • スペインの産業に占める割合 25%
  • スペインの対日輸出に占める割合 31%

ビジネスデータ

  • 在カタルーニャ外国企業数 8,908社(2021)
  • 外国投資額 177億8,000万ユーロ(2017-2021)
項目カタルーニャ
面積32,106km
人口770万人
GDP2,441億7,200万ユーロ
一人あたりGDP29,111ユーロ
工業GDP454億6,200万ユーロ
輸出805億ユーロ
輸入904億ユーロ
州都バルセロナ
言語カタルーニャ語/カスティーリャ語
平均気温17℃
降雨量725mm
出所:IDESCAT 2021

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