Vol.06:環境保全しながら経済合理性のある土地活用を〜土壌汚染対策における認証制度と企業価値向上〜 エンバイオ・ホールディングス 社長 西村 実氏 経営課題:企業不動産戦略、ESG、リスク管理

西村氏

土壌汚染とCRE戦略

 工場跡地などの再活用にあたって、課題の一つとなるのが土壌汚染だ。万一、売買契約後に土壌汚染が発覚した場合は、契約が解除されたり、損害賠償を請求されることもある。2003年に施行された土壌汚染対策法や、16年に第一号認証を発行した民間認証制度にも触れながら、CRE戦略のなかに土壌汚染対策をどう盛り込むべきかを、環境ビジネスの専門家エンバイオ・ホールディングスの西村実社長に聞いた。

土壌汚染と「ブラウンフィールド」問題にどう取り組む

西村氏

 土壌汚染の状況を把握し、土壌汚染による健康被害を防止することを目的に、03年に施行された土壌汚染対策法(土対法)。ベンゼン、カドミウム、水銀、PCBなど25種の特定有害物質が指定され、それらを使う工場などが閉鎖や移転、特定有害物質の使用施設を廃止するような場合には、行政に届出を行い、調査する義務がある。

 土壌汚染を完全に浄化することが目的ではなく、多少の汚染があっても適切に管理されていればよしとする法律だが、土地取引にあたって土壌汚染の存在は致命傷になることが多い。そのため、土壌汚染に気づいた売主は、膨大なコストをかけて対象の土壌を全部入れ替える「掘削除去」を行うのが一般的だ。

 だが、この費用があまりにも膨大になれば、対策に躊躇せざるをえない企業も出てくる。

 「土地は売りたいが工事費が高いので、結局、手つかずになっている土地=『ブラウンフィールド』は、全国に2.8万haあり、資産価値は10.8兆円に上るとする試算もある。結果的に土地が有効活用されないままでは、社会経済的にも大きな損失と言わざるをえない」

 というのは、土壌汚染改良や土地活用提案を行うエンバイオ・ホールディングスの西村実社長だ。

 実は土壌汚染対策には、掘削除去だけでなく「原位置浄化」と呼ばれるもう一つの方法がある。土地を掘り返さず、微生物の活性化や化学薬品を注入して有害物質を分解したり、分解できない重金属の場合はその場で不溶化する方法。コスト的に安価で、環境負荷も小さくて済むため、欧米ではこちらのほうが主流だ。

※ブラウンフィールド:土壌汚染の存在、あるいはその懸念から、本来、その土地が有する潜在的な価値よりも著しく低い用途あるいは未利用となった土地のこと。(環境省資料より)

第三者機関による認定制度で土地を有効活用

 土壌汚染を管理しながら不動産を適切に流通・活用するためには、浄化方法の選択もさることながら、汚染調査の前提となる土地の使用履歴(地歴)をしっかりと管理しておくことが欠かせない。

 「かつてその工場でどんな化学物質が使われていたかなどを管理し、行政への届出もマメに行い、浄化対策に早めに取り組んでいれば、トータルなコストを抑えて土地の流通を促すことができる」(西村氏)

西村氏

 もう一つ企業が活用したいのは第三者機関による認証制度だ。昨年、一般社団法人土地再生推進協会(APR)が設立され、今年(16年)2月に第一号の認証を発行した。

 土壌汚染は、環境だけでなく、土地取引や会計処理にあたっての土地の価値にも深く影響する問題であるため、環境技術だけでなく、不動産、法務、財務、会計、リスク管理などの専門家の知見を集めて解決することが重要だ。APRはこうした専門家の知見やノウハウをもとに適切な環境保全を行いながら、過度なコストをかけずに土地を有効利用していく動きを支援する機関だ。土壌汚染の状況について、健康被害のおそれがなく、土地利用において安全な状態であることを確認し、4段階の認証を提供している。つまりAPR認証制度は土地取引時に必要な、土壌汚染についての共通の指標になりうるもの。これを利用することで、土地を資産としてもっている企業は、その価値を売り手に説明しやすくなる」と西村氏はその意義を説明する。

 かつては土壌汚染が判明すると、土地は売れないと諦める経営者がいたが、近年は土壌汚染に関する解決策の知見も蓄積されてきた。「汚染を怖がるのではなく、汚染とうまくつきあう時代だ」と西村氏は強調している。

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西村 実 (にしむら・みのる)

1981年大阪大学工学部卒業、大手化学会社研究員を経て、90年日本総合研究所に入所、創発戦略センター上席主任研究員を務める。このとき、土壌汚染問題に目覚め、00年に、土壌汚染改良、機器・薬剤提供、土地活用提案などを行うエンバイオ・ホールディングスに参画。08年同社代表取締役に就任。グループ子会社、アイ・エス・ソリューションの代表取締役や、東京農工大学工学部非常勤講師も兼任。

西村氏

フォーカスポイント

空き地イメージ

 不動産の地歴管理は土壌汚染対策の前提になるものだが、西村氏によれば、これを徹底している企業は少ない。とりわけCRE専任担当者を置けない中小企業ではそれが顕著だ。調査会社のスタッフが代わりに使用者の変遷をたどり、航空写真を調べ、ときには企業の資料室にこもって古い資料を掘り出さざるえないこともあるという。

 欧米で主流の原位置浄化法も、日本ではまだ2割ほどしか使われていない。その知名度がまだ低いのと同時に、日本の商慣行では「技術的な合理性以前に、見た目にはっきりした対策が求められるからではないか」と西村氏は指摘する。

 こうした状況を変えるためにも、不動産活用の提案を行う専門企業が、土壌汚染対策のノウハウを高め、企業に正しい道案内をしていくことが求められる。そのアドバイス次第では、企業が虎の子のように大事にしていた土地が死蔵されることもなくなるのだから、その役割は重要だ。

(本コンテンツは三菱地所リアルエステートサービスが企画した対談「スペシャリストの智vol.06」を再構成したものです)

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