サステナビリティーへの取り組みには、
未来起点「バックキャスティング」が必要

提供:デル・テクノロジーズ

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への対応が、あらゆる企業の経営課題となっている。SDGsやサステナビリティーに取り組まない企業は社会的責任を果たしていないとして、サプライチェーンから外されることもありえるなど大きなリスクを背負うことになる。逆に真剣に取り組む企業には、大きな成長の可能性が広がる。この課題に向けて企業にはどのような対応が求められるのか。SDGsやサステナビリティーを専門領域とするニューラルの夫馬賢治氏と、デル・テクノロジーズでSDGsへの取り組みをリードする松本笑美氏に2回にわたって話をうかがう。

SDGs以前から米国産業界で
大きな関心事になっていた気候変動リスク

夫馬 賢治氏

ニューラル
代表取締役CEO

夫馬 賢治

サステナビリティー経営やESG投資に関するコンサルティングなどを手掛ける株式会社ニューラルの代表取締役CEO。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。環境省「ESGファイナンス・アワード・ジャパン」選定委員などを歴任。『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)など著書多数。

松本昨今、SDGsが世界規模で注目され、産業界や個々の企業での取り組みが広がっています。この動きはどんなところから始まったのでしょうか。

夫馬SDGsが国連サミットで採択されたのは2015年9月ですが、実はそのかなり前から、「サステナブル」というキーワードは米国で浸透していました。きっかけとなったのは05年8月のハリケーン・カトリーナで、死者1800人以上という米国史上最悪の自然災害となりました。続く06年には、アル・ゴア元副大統領が地球温暖化の危機を訴えたドキュメンタリー映画『不都合な真実』が公開され、産業界で「気候変動は無視できない」という意識が高まりました。企業のアニュアルレポートには「クライメート(気候)」という言葉がどんどん登場するようになり、サステナビリティーマネジメントに関する書籍も多数出版されるようになります。投資家もこの頃から、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガナバナンス)投資を始めるようになります。ただこのとき日本においては環境問題としては話題になりましたが、産業界では大きな問題として捉えられていませんでした。

松本米国ではSDGsより先に、産業界からサステナビリティーの動きがあったわけですね。国連では2000年にMDGs(Millennium Development Goals:ミレニアム開発目標)を採択し、2015年をゴールとしていました。これは、SDGsと連続性はあるのでしょうか。

松本 笑美氏

デル・テクノロジーズ
ソーシャル インパクト ジャパンリード

松本 笑美

デル・テクノロジーズにおいて日本のSDGs担当として、ソーシャルインパクト全般に従事。顧客への情報共有をはじめ、東京都女性ベンチャー育成促進事業APT Womenへの海外派遣支援、海洋汚染ごみ削減のためのビーチクリーン活動、教育支援活動、ダイバーシティー活動等、社内外での取り組みを行っている。

夫馬そうですね。MDGsでは8つのゴール、SDGsは17のゴールが設定されています。SDGsはMDGsよりも目標が細分化されたもので内容的にはほぼ同じです。ただしMDGsとSDGsでは「担い手」が大きく違っていて、MDGsは国連や各国政府などが主体であるのに対して、SDGsは「すべての国と人びとが協力しあってこの計画を実行する」と前文にあるように、企業や個人も当事者として位置付けられています。ハリケーン・カトリーナ以来、産業界のサステナビリティーへの動きを見て、このタイミングであれば気候変動をはじめ、環境保護、貧困の解消、ジェンダー平等などの問題に企業も賛同してくれるだとうと国連が考え、採択されたのがSDGsです。これによって日本においても政府内で議論が始まり、産業界でもサステナビリティーが大きな企業テーマ、経済テーマであることが認識されるようになります。

松本いま日本の企業はESG経営やESG投資といったキーワードにも注目していますが、これとSDGsの関係性をどのように捉えればよいのでしょうか。

夫馬SDGsとESGは無縁ではありませんが、見ているスコープが違っています。SDGsには達成すべき目標が示されていますが、ESGにはゴールがありません。企業が直面する気候変動、分断と格差、人権などの課題に対し、経営リスクをどのように捉え事業成長の機会を見いだすのかということです。ですので、ESGをどう実現していくかは、業界や企業によっても異なります。またESGは数年単位で解決できるものではなく、企業が経営トップのもとで長期的に取り組んでいくべき大きな課題だということです。

未来起点の「バックキャスティング」の考え方で、
SDGsに取り組む

夫馬デル・テクノロジーズでは、SDGsに関してどのような取り組みをされているのか聞かせてください。

松本当社はSDGsへのビジョンとして「Progress Made Real」を掲げており、「サステナビリティーの推進」「インクルージョン文化の醸成」「ライフスタイル変革への貢献」を3本柱とする取り組みに注力しています。さらにCSR(企業の社会的責任)の観点における“プラス1”として、「倫理とプライバシーの順守」ということを掲げています(図1)。

 2030年に向けた「Moonshot Goals」としては、例えばサステナビリティーであれば、「お客様が購入された製品と同量の製品の再利用または再生利用を行い、梱包材の100%、製品部品の50%以上に再生可能材量を使う」といった具体的な目標を設定しています。

 目標設定の方法には、現状からどんな改善ができるかを考えて策を積み上げていく「フォアキャスティング」と、未来の目標を決め、そこから逆算して策を講ずる「バックキャスティング」という2つの考え方がありますが、デル・テクノロジーズでは後者の考え方をとっています。

夫馬松本さんのいうバックキャスティングというキーワードは、SDGsを実践する上で非常に重要です。なぜならフォアキャスティングの方法をとった段階で、発想の前提が「今」になってしまうからです。これでは未来の変化に対応することができません。バックキャスティングの方法をとってこそ、大きく変わる未来をしっかり見据えた上で、自分たちがどんな存在にならなければならないのか、さらにそこから逆算して投資すべき重点分野や研究開発、人事戦略のあり方を考えることが可能となります。バックキャスティングの方法を取らない限り、経営課題としてサステナビリティーを実践していくことはできないといっても過言ではありません。その意味で、経営トップの意識は重要だと思います。

松本そうですね。経営トップの考え方や企業フィロソフィーはとても重要だと思います。当社の会長兼CEOであるマイケル・デルは、実はきわめて楽観的です。「現時点では目標を達成するのは難しいかもしれないが、テクノロジーは進化するのだから将来には必ず実現できる」という考え方です。欧米の企業には同じような考え方の経営者がかなり多いように思います。

図1:デル・テクノロジーズのSDGs目標「2030 Moonshot Goals」
図1:デル・テクノロジーズのSDGs目標「2030 Moonshot Goals」

循環型社会は「確実に到来するトレンド」
粘り強く取り組むことが重要

松本SDGsは幅広いテーマを扱いますが、特にサステナビリティー、循環型社会ということに焦点をあてたお話をお聞かせください。日本と欧米の違いは、どのような点にあるとお考えですか。

夫馬環境保護に関する日本企業の取り組みは、決して遅れていたわけではなく、むしろ2000年代初頭は世界の先頭を走っていたと思います。「環境経営」がもてはやされ、先を競ってISO14000(環境マネジメントシステム)の認証取得に向かいました。ところがこの動きは08年のリーマンショックを機に衰退してしまいます。熱心に環境に取り組んでもビジネスにつながらないと産業界全体が意気消沈してしまいました。

 これに対してリーマンショックにめげることなく、「長期的に見ると、確実に到来するトレンド」だとして粘り強く取り組んだのが、欧米の企業だと思います。結果として、現在ではさまざまなテクノロジーが登場して環境対策コストも下がり、市場も広がってきました。日本企業はこの10年以上のブランクによる遅れを取り戻さなければならない状況にあるのだと思います。

松本当社がPCやモニターなどのクライアント製品にリサイクルパーツを使い始めたのが06年ですが、これは2000年ころにマイケル・デルが「自分たちのPCは最終的にはゴミになってしまう。これは循環させないといけない」と考えたのが始まりです。それでも、発案から実現するまでに5-6年かかっているわけです。それ以来、リサイクルに関しては常に最先端を走り続けるとともに、サーバーやストレージ分野ではCO2削減に注力するほか、さまざまな課題に取り組んでいます(図2)。夫馬さんが先程「粘り強く取り組んで」というお話をされましたが、サステナビリティーというのは「ジャーニー(旅)」なのだと思います。

図2:デル・テクノロジーズのサステナビリティーへの取り組み
図2:デル・テクノロジーズのサステナビリティーへの取り組み

事業拡大のための要素が大きく転換
循環型社会に向けて頭をリセット

夫馬デル・テクノロジーズさんがリサイクルパーツにいち早く取り組んだように、米国企業は10年ごろから無謀とも思えるようなチャレンジングな目標を立て、今それをほとんど達成しています。つまり、サステナビリティーに関して、すでに「一巡」しているのです。目標を達成したうえで事業を成長してることを体験しているので、もっと上を目指そうということになっています。一方、日本企業はその体験がなく、これからがスタートです。ですのでいま、達成できなかったときのことを心配したり、やってもそんなに変わらないだろうといった感覚があって、なかなか目標設定ができないのだと思います。

松本夫馬さんのおっしゃる通りで、当社が最初に目標を公表したのは12年です。20年までの目標だったのですが、それを18年の段階で75%実現しました。あと2年で25%達成すればよかったわけですが、この際30年までの目標に刷新しようということで作ったのが19年11月に公表した「Progress Made Real」であり「2030 Moonshot Goals」なのです。一巡してここまで達成したから、さらに高みを目指そうというのが当社のいまの段階です。

夫馬SDGsをきっかけとして日本でサステナブルという言葉が注目されているのは、「自社がサステナブルではない」ことに企業自身が認識しているからに他なりません。今までのやり方ではこれから先は通用しない、これまでの技術で同じものを作っていても通用しなくなることに気づいているのです。今までなら、欲しいときにいくらでも原材料が調達できましたが、これからはそうはいきません。事業を拡大させていくための要素が大きく転換しているのです。業種や企業によって、どのように取り組んでいくかは異なりますが、まずは循環型社会に向けて頭をリセットする必要があります。

松本今日も少しお話ししましたが、サスティナビリティーの領域において当社は、循環型経済に加え、温室効果ガス削減やプラスティックのサプライチェーンに関して注力しています。また、社内への周知や社外、お客様とのコミュニケ―ションについても力を入れています。次回は、そのあたりのお話について意見を交換させてください。

写真:対談風景

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