これからの日本のクラウド基盤を考える 安全かつ柔軟なデジタルガバメントの実現に向けて 人に優しい社会構築を加速デジタル戦略の要

いまデジタル変革の荒波が押し寄せている。日本政府はクラウドを基盤としたデジタルガバメントの実現に向け、取り組みを加速させている。日経社会イノベーションフォーラムでは、「これからの日本のクラウド基盤を考える~安全かつ柔軟なデジタルガバメントの実現に向けて~」を2月15日に開催。社会が大きく変容する中、多様な分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の課題やその解決策、クラウド基盤の役割などについて、最新情報が提供された。

挨 拶

フォト:平井 卓也氏

クラウドベースを原則に

デジタル改革担当相 平井 卓也

DXには2つのポイントがある。「いままでと根本的にやり方を変え、新しい方向性を模索すること」と「常に見直し、常に変わり続けること」だ。世の中の変化に合わせ、いろいろなものを作り替えていく上で、クラウドは必要不可欠なインフラ。クラウド・バイ・デフォルトを原則にクラウド基盤上でどういうサービスを提供できるか。そこが勝負になる。基盤構築に終わらず、その先を見据えて取り組んでいく。

キーノートスピーチ

フォト:三輪 昭尚氏

誰一人取り残さないデジタル化推進

内閣情報通信政策監(政府CIO) 三輪 昭尚

昨年12月、政府はデジタル改革の基本方針を閣議決定した。誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を目指して、IT基本法を全面的に見直し、国や地方自治体の情報システムの共同化・集約などを推進する。その司令塔として9月にデジタル庁を発足させる。

またデジタルガバメント実現に向けた「デジタル・ガバメント実行計画」を改定。行政手続きのデジタル化やワンストップ化などを進める。その推進に欠かせないインフラがクラウドだ。効率性やセキュリティーなどのメリットがあり、正しい選択を行えば、費用を削減しつつ高品質な情報システムを整備できる。クラウド・バイ・デフォルト原則に立ち、積極的に活用していく考えだ。

基調講演1

内閣サイバーセキュリティセンターの取組及び
「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」について

セキュリティー評価制度を策定

内閣官房 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)副センター長 山内 智生

フォト:山内 智生氏

政府はサイバーセキュリティ基本法に基づいて、2015年にサイバーセキュリティ戦略本部を設置、18年にサイバーセキュリティ戦略を策定した。この戦略は21年に計画期間を終えるため、今年新しい戦略を出していく。検討にあたって、「環境変化や国際情勢等を踏まえ時宜を得た対応方針とする」「政府の役割を意識した政策立案の基礎となるものにする」「発信力を意識してわが国の考え方を内外に示す」の3つをベースに議論を進める。

政府機関等向けには内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が共通ルール(統一基準群)の作成、監査・監視、教育・訓練などを通して、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回し、情報セキュリティー対策の総合的強化を図っている。統一基準群はクラウドサービスの利用拡大、情報セキュリティー対策の動向、多様な働き方を前提に含める形で、現在見直しを進めている。

また政府調達のクラウド・バイ・デフォルト原則の採用に対応し、「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)」を策定した。ISMAPは国際標準等を踏まえた基準に基づき、それを監査するプロセスを経て、クラウドサービスを登録する。各政府機関は、原則、安全性が評価され「登録簿」に掲載されたサービスから調達する。昨年10月に登録申請・審査が開始されており、まもなく登録簿が公開され、制度の利用が始まる。9月にデジタル庁が発足する中、政府はリスクをコントロールしながら、日本全体のクラウド化を推進していく考えだ。

企業講演1

クラウドがもたらす、新たなデジタル変革と価値
~デジタル・ガバメントとデジタル社会に貢献する富士通の取り組み~

クラウドに新たな価値を

富士通 デジタルインフラサービス ビジネスグループ 戦略企画・プロモーション室 室長 伊井 哲也

フォト:伊井 哲也氏

当社のクラウドサービスは、業種/業務別に約400種のSaaS※1、100種のPaaS※2を提供。IaaS※3では「FJcloud」が国内第3位の販売シェア、「Azure」では国内第1位の販売実績を有する。20年は3月に政府機関向けクラウド、6月にハイブリッドITサービス、11月にFJcloudの最大81%の価格引き下げを発表した。

クラウドを利用するお客様の要求・期待は大きく変化しており、当社は高可用性、高処理性、専門性、持続可能性といった新たな価値を提供する。高可用性では20年にIaaS単体稼働率99.9999%を達成、今後統合可用性を強化、アプリからインフラにいたる「業務を止めないクラウド」を目指す。

高処理性では処理性能世界一の「富岳」の技術を実装、高速データ処理をクラウドで実現する。専門性では複雑化・高度化するクラウドの最適な設計/移行/運用を支援するトップノッチ技術者を国内で1万5千人育成。SDGsに対応したグリーンクラウドを提供し、お客様と共に持続可能な社会を目指していく。

今後クラウドは日本の重要な社会インフラになる。業界一丸となって日本の未来づくりに貢献していきたい。

※1 ソフトウエア・アズ・ア・サービス
※2 プラットフォーム・アズ・ア・サービス
※3 インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス

企業講演2

デジタル変革に応えるソーシャルデザイン
~社会を俯瞰したサービス設計とクラウド活用~

エコシステム構築に注力

NTTデータ 技術革新統括本部 システム技術本部長 田中 秀彦

フォト:田中 秀彦氏

当社はソーシャルデザイナーとして、よりよい社会の実現に貢献することを目指している。そのために国民生活者視点とテクノロジー視点の両面から「あるべき姿」をデザインし、サービスを作り上げていく。

その上でクラウド活用に必要なケイパビリティーを考えたときに、特にデジタルガバメントではハイブリッドクラウドと全体の効率的な管理が重要になる。ハイブリッドクラウドの活用では、人材、ベンダーリレーション、マネージドサービス、インテグレーションの4つが必要だ。当社はパートナーとして、フルサポートする。

まず人材では国内に3千人、グローバルで1万人のクラウド人材を確保する。現在、高度クラウド人材を育成中だ。ベンダーリレーションでは多数のベンダーとの連携やスタートアップの発掘、オープンソースへのコミットにより、デジタル変革をもたらすエコシステムを作り出していく。またマネージドサービスではクラウドサービスをシームレスかつ安全に活用可能なデジタル・コミュニティー・プラットフォームを提供。インテグレーションでは「Digital CAFIS」で総合的なデジタル化を実現し、ペイメントエコシステムを目指している。

基調講演2

茨城県庁のDX実現に向けた取組について

電子決裁率100%を実現

茨城県知事 大井川 和彦

フォト:大井川 和彦氏

茨城県庁ではDX実現に向けて、4つの取り組みを進めている。一つ目はいつでもどこでも効率的に仕事ができるICT環境づくりだ。電子決裁システムは2005年に導入したが、利用率は10%台と低調だった。そこで18年4月から電子決裁率100%に向けて取り組み、4カ月でほぼ達成した。成功要因は強いリーダーシップと例外を認めない姿勢、決裁に必要な書類のみを電子化させたことなどである。

二つ目は業務のデジタル化だ。県庁業務のデジタル化に挑戦し、県で対応可能な行政手続きについて電子申請への対応を完了した。電子契約には当事者型と立会人型があるが、当事者型は双方が電子証明書を取得していなければならず、中小企業等にはハードルが高い。一方、立会人型は双方が電子証明書を取得する必要がない。そこで国に立会人型電子契約を利用できるように要望、1月に総務省が地方自治法の省令を改正し、自治体利用が可能になった。

三つ目はICTでできることはICTに任せるRPAの導入推進だ。18年にIT企業から説明を受け、その場で導入検討を指示し、4業務での実証実験を実施。その結果を受けて、19年度予算で20業務への拡充を指示し、導入が始まった。その結果、年間20業務で3万5783時間の削減効果が得られた。20年度には新型コロナ対応協力金の支払い処理も自動化した。

四つ目はシステムを持たない、作らない取り組みで、業務システムの全体最適化と他の都道府県との基幹システムの共同利用の検討を進めている。

企業講演3

未来を築くデジタル社会のために!
~ デジタル・ガバメントから広がるニューノーマルの世界~

価値創生する基盤提供

日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット Software CoE 加藤 明

フォト:加藤 明氏

いまデジタルを前提とした次の時代の新たな社会基盤の構築が進んでいる。従来の枠組みを超えた新サービスの創出と、既存システムも活用した新サービスを支えるシステム連携がポイントだ。デジタルガバメントがその中核を成す。

今後の公共サービスは利用者視点で課題を捉えて、サービスの姿を描くことが重要になり、サービス設計は利用者ニーズから出発する。そこで、当社は基幹システムを支える技術、デジタルソリューション創出の技術、利用者視点でものごとをとらえる協創でデジタルガバメントに貢献する。そのための価値創生プラットフォームが「Lumada Solution Hub」だ。

当社では今後のデジタル社会に向け、様々な取り組みを進めている。その一つが2020年秋、東京ドームで行った人流可視化技術実証だ。イベント開催時の人の流れを見える化し、安全・安心なイベントを実現するためのものだ。もう一つはマイキープラットフォーム。多くの国民が利用するマイナンバーカードの普及・拡大を目指している。こうして我々は利用者視点の重視、クラウドの使いこなし、アジャイル(俊敏)なプロセスの仕掛けづくりで、価値あるサービス提供に取り組んでいく考えだ。

企業講演4

本格化するデジタル・ガバメントの実現に向けて
~NECが考えるクラウド活用の要諦~

作らず使い、素早く試す

NEC 執行役員 林 良司

フォト:林 良司氏

国連の電子政府ランキングで第1位のデンマークは政府主導でデジタル化を推進してきた。その成功要因は政策と素早く試せるプラットフォームの活用が連動して進められていることにある。つまり行政機関におけるクラウド活用の鍵は、政策立案と調達・システム開発を同時進行させるアジャイル行政にある。そこでのクラウド活用の要諦は、作らず使う、素早く試すこと。要望に合わせて組み合わせられる部品を選ぶだけですぐに利用可能とすることだ。

その考え方に基づいて、当社のガバメントクラウドソリューションはクラウド基盤、アプリケーション、セキュリティー、そして運用まで部品として提供する。

クラウド基盤では2020年にマルチクラウド活用による官庁向けサービスを開始。アプリケーションは職員と一緒に作ったり、流用可能な部品は共有する仕組みを提供していく。運用ではノウハウを一元化する形で提供。クラウドを活かす運用を素早く実現する。

さらにセキュリティーではゼロトラストとサイバーハイジーンにより、トラストなサイバー空間を確保。その上で、DX人材、政府経験者など多彩な人材を結集して、ガバメントクラウドの継続的なレベルアップを図っていく。

特別セッション

日本のデジタルガバメントの将来像

安心・安全なIT環境へクラウドの優位性生かせ

慶應義塾大学 教授 村井 純
早稲田大学電子政府・自治体研究所教授 NPO法人国際CIO学会理事長 岩﨑 尚子
MM総研 代表取締役所長 元日本経済新聞社論説委員 関口 和一

 

フォト:村井 純氏

村井 純

フォト:岩﨑 尚子氏

岩﨑 尚子

フォト:関口 和一氏

関口 和一

関口氏コロナ禍の下、デジタル化の課題点がいくつも浮かび上がっている。日本のデジタルガバメントの現状をどう見ているか。

岩﨑氏世界のICT先進国65カ国を対象に、電子政府の進捗度について15年前から調査している。直近(2019/20年)のランキングで日本は総合7位。サービスやアプリケーションの開発などで遅れはあるが、通信インフラの充実度、政府CIOで評価が高い。クラウドなど新技術導入による行政コスト削減、ソーシャルメディアとサービスの連携、AIやブロックチェーン活用など、世界的には大きな動きがある。

村井氏確かに日本はデジタルガバメント・サービスという点で見劣る。先ごろデジタル変革に関連する6つの法案が閣議決定された。IT基本法が20年ぶりに見直され、新しい日本のIT政策の理念や基本方針が示された。一方、コロナによってリモートワークやオンライン授業など、人々の生活様式が大きく変化し、デジタル化の波が一気に押し寄せている。国民一人ひとりがデジタルガバメントの遅れを意識した。いま日本のデジタル化は歴史的な転換点を迎えている。

関口氏コロナ対応において、省庁間、中央官庁と地方自治体との間で情報システムがつながっていないことが露呈した。今回、デジタル社会の形成に向け、国と地方が連携して情報システムの一元化を推進する上で、クラウド・バイ・デフォルトで進めるという方針が示された。

村井氏クラウドをデジタルガバメントに活用しようという動きはとても良い試みだ。そもそも何かを一緒にやろうとするときに、足元のデータがバラバラであっては何もできない。クラウドの活用はコスト削減、情報共有など、様々なメリットがある。特に地方自治体にとって、人材不足やセキュリティー対応など様々な課題解決につながる。クラウドはサービスの内容、範囲、品質などを約束するサービス・レベル・アグリーメントが一番の特徴。きちんと契約し、その契約に基づいて使うことができれば、安心、安全なデジタル社会の基盤になる。

岩﨑氏クラウドは日本のデジタル戦略の要になる。一方、ユーザー側の問題としては、行政のデジタル化を推進すれば、必ずデジタル弱者の課題が出てくる。誰一人取り残さない社会を創るためには、今後、高齢者が総人口の4割近くを占める超高齢社会とデジタル・AI社会の融合が最重要課題だ。

関口氏電子政府を成功させる上で、データ流通の環境整備も欠かせない。

岩﨑氏政府、自治体が保有するデータを公開して官民データ連携やオープンデータ活用を促進することだ。最終的に情報を活用する国民にとって、利便性の高いアプリの開発やサービスイノベーションがポイント。それには徹底したニーズ調査が欠かせない。もう一つ、世界のデジタル化のスピードに順応した開発も必要だ。使いながら、適宜改良を重ねて対応するなど、アジャイルに進めることだ。

関口氏デジタル庁に期待することは。

村井氏今回デジタル庁は勧告権など強力な調整機能を持った。デジタル変革を大胆に推進できるはずだ。そこでデジタル庁にはデジタルガバメントの運用責任を担ってほしい。行政サービスは動かし続けなければいけないシステム。ここがしっかりしないと成り立たない。

岩﨑氏中央と地方の連携強化を推進する司令塔としての役割が重要。原点は行財政改革の起爆剤。グローバル社会への貢献にも期待したい。

関口氏最後にデジタル化を日本で成功させるためには何が必要か。

村井氏国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる強じんなデジタル社会を形成するためのポイントは3つ。まず「情報へのアクセシビリティー(利用可能性)」。そして「置いてきぼりをつくらないこと」。3つ目が「テクノロジーの善用」である。それには国民一人ひとりが参加し、よくしていこうという輪を広げることだ。ぜひ「1億総デジタルお助け隊」といった雰囲気へ日本を盛り上げていきたい。

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協 賛

後 援
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部、サイバーセキュリティ戦略本部、経済産業省、総務省、
一般社団法人スマートシティ・インスティテュート

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