コロナ禍の前から掲げる
「未来のあたりまえをつくる。」

───コロナ禍で世の中が一気に変わってきていますが、お二人にはどんな変化がありましたか。

鈴木大学が全部リモート授業になりました。通学があたりまえだったのに、1年近くキャンパスに行きませんでした。生活の中心が学校から家に変わりましたね。

北島我々の働き方も大きく変わりました。以前からテレワークの導入は進めていましたが、コロナ禍で一気に加速しましたね。事業活動の面では、コロナ禍で求められる遠隔や非接触、抗菌・抗ウイルスといったテーマの製品・サービス開発にも注力しています。鈴木さんのお話しに関連する教育ICTもその一つで、DNPはアナログとデジタルを掛け合わせ、学校でも自宅でも児童や生徒一人一人の学力に合わせた教材が使えるシステムを提供しています。

鈴木生活していると、どうしても外に行く必要がありますよね。例えば、病院です。そういうとき、接触を前提にしたものがあると実感します。券売機などもそうです。触れないと操作できないし、必要な情報を入力しないといけない……。そのような公共の施設などに、DNPさんの非接触型パネルがあればいいのに、とよく思います。

北島よくご存じですね(笑)。既存の端末や入力機にも後から設置するだけで、タッチレスパネルとして活用できるホログラム技術のことですね。ほかにも、接触せざるを得ない手すりなどの建装材や食品・生活用品などのパッケージの分野で、抗菌・抗ウイルス性能を持たせた製品なども開発・提供しています。

鈴木スマートフォンなどもその都度消毒する必要がなくなったら便利ですよね。普及が今から楽しみです。

───DNPは「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを掲げていますが、どんな意味が込められているのでしょうか。

北島我々は、生活する人の身近に常にあって、「あたりまえ」に使えるものを開発したいと考えています。コロナ禍で「ニューノーマル(新常態)の構築」への対応が求められていますが、我々が考える「未来のあたりまえ」はどんな時代にも左右されない価値であり、その創出をめざしていますので、コロナ禍でもその本質が変わることはありません。

鈴木「未来のあたりまえ」って、きっと誰にもわからないことですよね。スマートフォンがこんなに浸透しているなんて、10年前に予想できた人は少なかったはず。だからこそ、このフレーズは、実はすごく挑戦的な言葉ですよね。同時に、新しい価値をつくり出そうとする姿勢が素晴らしいと思います。

挑戦する風土があるからこそ
生み出せた「今のあたりまえ」

───これまで、どのような「あたりまえ」を実現してきたのでしょうか。

北島例えば、出版社による週刊誌の発行もその一つです。昭和31年に「週刊新潮」が創刊するまで、週刊誌は独自の印刷所を持つ新聞社しか発行できないと言われていました。DNPが短期間に大量に印刷できる体制を構築することで初めて、出版社が週刊誌を出すことが可能になったのです。
また、皆さんが持つ“印刷”のイメージとは異なるかもしれませんが、国産のカラーテレビも当社の部材を使用することで初めて実現できたものです。その他にも、飲み物の風味を損なわないようにペットボトルに無菌充填するシステム、ICカードや電子書籍など、暮らしの中であたりまえに使われている数多くの製品・サービスの開発に関わってきています。
このように私たちは“印刷”という言葉をいわゆる“紙への印刷”に限定せず、さまざまな分野へ応用してきました。

北島社長 対談風景

鈴木社員の方とCM撮影でお話ししたときに印象的だったのが、リチウムイオン電池に使われるパッケージを開発したエピソードです。当初は採算が取れると思っていなかったにもかかわらず、それがすぐに黒字化して収益を上げているという内容でした。確固たる技術があるからこそ、その経験をもとに挑戦ができる。それはDNPさんの風土なのでしょうか。

鈴木光さん 対談風景

北島そうですね。DNPにはこれまでの事業で培ってきた強みを基にして、何を開発してもいいという風土があります。社員が自由に発想し、コツコツ取り組んで芽吹いた技術もあります。全員が自由に挑戦できる企業文化は創業時から受け継がれてきたものでもあります。

───海外の印刷会社も、印刷技術をベースに異なる分野に事業を拡大しているのでしょうか。

北島海外ではそれぞれの分野に特化している印刷会社が多いです。当社も、創業から70年間は紙への印刷を専門にやってきました。しかし戦後になって、印刷技術を基に、パッケージや建材、エレクトロニクスなど、さまざまな領域に事業を拡げる「拡印刷」を推進しました。我々はそれを「第二の創業」と呼んでいます。印刷技術を応用して事業領域を拡げるのは、日本特有のものですね。

DNPの製品・サービスは 使う人のことを考え、 人に寄り添っていると思う。

時代を先取り、より良い未来をかなえていく
「印刷と情報」の強みがある

───実際にCMにも出演されて、鈴木さんはDNPの技術にどのような印象を抱きましたか。

鈴木光さんと伸縮エレクトロニクス

皮膚にも貼れる薄型かつ伸縮自在のディスプレー
「伸縮エレクトロニクス」

鈴木まず、電子回路やディスプレーなどにも印刷技術が応用されていることを知らなかったので、印刷技術の汎用性の高さに驚かされました。また、紙とは異なる素材についても、高い水準の知識が要求されるはずなので、そうした知識を集積していることにも驚きました。だからこそ、どんどん異なる分野に事業を展開していけるのでしょうね。
CMで扱った中で特に印象に残っているのが「伸縮エレクトロニクス」という技術で、皮膚に貼って脈などの生体情報を確認できるディスプレーを体験しました。非常に薄いディスプレーに電子回路が埋め込まれているのですが、印刷技術の応用によって、動かしても切れない伸縮性を実現していることがすごいなと思いました。

鈴木光さんと伸縮エレクトロニクス

皮膚にも貼れる薄型かつ伸縮自在のディスプレー
「伸縮エレクトロニクス」

北島微細加工技術を使ってフィルム状の基板の上に電極を配線し、伸縮性を担保しているのです。微細加工技術というのは、元々は印刷用のはんこをつくる技術で、これを発展させて、ホログラム等の偽造防止製品やエレクトロニクス製品などに応用しています。
他にも、印刷技術を応用・発展させたわかりやすい例として、先ほど鈴木さんのお話しに出てきたリチウムイオン電池用のバッテリーパウチが挙げられます。従来のように電池を金属で覆っていると、スマートフォンなどの情報端末の小型化・軽量化のニーズに応えられません。そのため、印刷で培った独自のコーティング技術によって機能性の高いフィルムを開発し、そのフィルムで電池の中身を包み、液漏れや発火を防ぐようにしました。当社はこの製品で、世界市場のトップシェアを獲得しています。ノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生とも、以前から連携させていただいています。

鈴木透明アンテナフィルムも、とても面白かったです。最近、何かと話題になる5Gは通信速度の向上や扱える情報量の増加など、一見、万能に感じられます。しかし、調べてみると、4Gと違って電波の性質上、曲がりにくく汎用性に乏しいと知りました。透明アンテナフィルムのすごさは、透明で薄いため、場所を選ばず壁や窓ガラスなどでも使えることです。

鈴木光さんと透明アンテナフィルム

5G通信を実現する見えないアンテナ
「透明アンテナフィルム」

北島ありがとうございます。5Gの電波は直進性が強く、基地局を多く作らないと中継の範囲が広がらない点がありますが、透明アンテナフィルムを活用すれば、さまざまな空間で電波を受信しやすくできます。たとえば、スマートフォンの画面やクルマのガラス面に組み込むことが考えられます。透明なので、スマートフォンやクルマをぱっと見たときに表面はきれいなままで、その存在が気になることもありません。

鈴木光さんと透明アンテナフィルム

5G通信を実現する見えないアンテナ
「透明アンテナフィルム」

鈴木私たちの生活の質を阻害しないで、溶け込める製品になっているので、実際のユーザーのことを念頭に置いてつくられている、人に寄り添った製品であることに感動しました。

北島DNPは「どう見せるとわかりやすいか・利用しやすいか」という企画・設計の力も培ってきました。そういう知見も駆使して、人々の生活にあたりまえに溶け込む製品・サービスの開発をめざしています。

鈴木DNPさんの製品・サービスはデザイン性一つとっても、「未来のあたりまえ」になればいいなと思わせる、ワクワクさせるものばかりです。

───DNPとして今後注力していく事業は何でしょうか。

北島「データ流通関連」「IoT・次世代通信関連」「モビリティ関連」「環境関連」という4つの事業に注力していこうと考えています。

鈴木個人的にはデータ流通関連が興味深いです。データの管理やIoTなどは、どちらかと言えば、ソフトウエアに強い企業が行うものだという先入観がありましたが、印刷というハード面を原点としている企業が、そこに取り組んでいこうというのが面白いと思います。

北島データ流通関連の事業は、広辞苑や会社四季報などの組版を電子化したことが原点にあります。人の力だと時間がかかっていたものを、他の業界にも先駆けてコンピューターで行うようになりました。それが、今のDNPの情報技術のベースにあります。そうした技術の応用に加え、データセンターの構築・運用などにも取り組むことで、高度なセキュリティーで情報を管理する強みを発展させてきたのです。
DNPは、「P&Iイノベーション」という事業ビジョンに基づいて製品・サービスを開発しています。いわゆる“紙への印刷”だけではない大きな拡がりをもった「PrintingのP」と、重要な多くの情報を扱い、最適な表現を行ってきた技術・ノウハウである「InformationのI」の強みを掛け合わせて、革新的な価値を生み出しています。これがDNP独自の強みです。

4つの成長領域とその主な注力事業

4つの成長領域とその主な注力事業
社会の課題を 解決するとともに、 人々の期待に応えていく─。 それが「第三の創業」 という変革。

めざすのは、社会課題を解決するとともに
人々の期待に応える価値を生み出す会社

───最後に日経電子版の読者にメッセージをお願いします。

北島私たちは、「第一の創業」で紙への印刷に、「第二の創業」で「拡印刷」による事業領域の拡大に取り組み、今は「第三の創業」を推進しています。これまでは得意先企業の注文をお受けする受注型の仕事がメインでした。しかし今、世の中は大きく変化し、ニーズそのものが幅広く多様なものになっています。得意先企業だけでなく、社会の課題や生活者が期待している価値を我々自身が見極め、それを開発して提供していく、それがDNPの「第三の創業」です。そのために、これまで培ってきた「P&I」の強みや企業文化を大事にしながらも、社会や生活者を見る視点をさらに強化するとともに、組織の体制・制度などは大胆かつ繊細に変革していきたいと思います。
また、近年重要視されている環境問題にも積極的に取り組んでいきます。昨年3月には、脱炭素社会・循環型社会・自然共生社会の実現をめざす「DNPグループ環境ビジョン2050」を策定しました。この中で、2050年までに自社拠点の事業活動に伴う温室効果ガス(GHG)の排出量を実質ゼロにすることのほか、脱炭素化に向けてEV化や軽量化によるCO₂排出削減が加速しているモビリティ関連の事業や環境関連の事業の拡大などを目標に掲げています。
こうした挑戦を通じて成果を挙げ続けることによって、「社会や人々から信頼される、なくてはならない会社」になりたいと思っています。

鈴木環境に配慮した製品をはじめ、長期的な目線で社会をよくしていくことや、人間と自然が共生していくことを考えれば、「環境ビジョン2050」は必要不可欠な取り組みだと思います。DNPさんは知れば知るほど、高い技術力で現実的に難しいことも可能にできる会社なのだなと実感しています。
また、CM出演をきっかけにDNPさんを意識するようになったら、実は身の回りのあちこちにDNPさんの製品・サービスが“潜んでいる”ことに気づきました。お菓子のパッケージやフェイスシールド、私が出した書籍もDNPさんで印刷されていました(笑)。DNPさんの一ファンとして、一生活者として、これからどんな「未来のあたりまえ」が生み出されていくのかを楽しみにしています。

本と活字館での北島社長と鈴木光さん

撮影場所:「市谷の杜 本と活字館」
DNPの事業の原点である活版印刷と本づくりをテーマにした、動態展示型の施設“リアルファクトリー”です。文字のデザインから、活字の鋳造、組版、印刷・製本までの一連のプロセスや設備をご覧いただけます。

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