時計に興味を持ち始めると、その時計がどんなムーブメントを積んでいるかが気になってくる。できれば、ブランドが自社で開発・製造したオリジナルのムーブメントを搭載した時計が欲しいと考える人も多いだろう。ただ、時計界では自社製ムーブメントを持つブランドは、ひと握りしか存在しない。開発コストがかかるため、値段も当然ながら高額となる。そこでおすすめしたいのが、フレデリック・コンスタントだ。このブランドには自社製ムーブメントを搭載した「マニュファクチュール コレクション」がある。しかも“手の届くラグジュアリー”というブランド理念のとおり、比較的手ごろな価格帯から入手可能だ。
フレデリック・コンスタントの創業は1988年。いわゆる老舗の名門ブランドではない。それでいながら世界中に多くのファンを獲得できたのは、ユーザーファーストな姿勢を貫きながら、常に革新的なウォッチメーキングを行ってきたからだろう。
契機となったのが、創業からわずか6年後の1994年に発表された「ハートビート」だ。文字盤の12時位置に小窓を開け、機械式の心臓部であるテンプを鑑賞できるように仕立てた世界初の独創的なデザインは話題となり、たちまち世界中で大ヒットした。このとき唯一の誤算だったのは特許を取らなかったことだろう。結果、時計界では同様のオープンワークを施したモデルがブームとなる。
04年に初の自社製ムーブメント(写真上)を発表したフレデリック・コンスタントは、以後マニュファクチュール化を推進。パーペチュアルカレンダー(写真下)をはじめ時計好き垂涎(すいぜん)の超複雑ムーブメントも次々に開発してきた。
写真下/ハイライフ トゥールビヨンしかし、フレデリック・コンスタントは、そうしたフォロワーとの差別化にも成功する。3年の歳月をかけて2004年には、文字盤の12時位置ではなく、6時位置側にテンプを持つ、自社で全ての開発・製造を手がけたムーブメントを発表した(写真:左上)。創業から16年目の若いブランドが自社製ムーブメントを持ったことに時計界は震撼(しんかん)した。
以後、時計製造の全工程を自社で貫徹するマニュファクチュール化を強力に推進。トゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、フライバッククロノグラフなどの複雑系ムーブメントも次々とものにしていく。
またシリコンなど最新素材もいち早く採用(写真上)しており、21年には脱進機をシリコンで一体成型した画期的なモノリシックオシレーターの開発にも成功(写真下)している
写真下/スリムライン モノリシック04年に初の自社製ムーブメント(写真左上)を発表したフレデリック・コンスタントは、以後マニュファクチュール化を推進。パーペチュアルカレンダー(写真左下)をはじめ時計好き垂涎(すいぜん)の超複雑ムーブメントも次々に開発してきた。またシリコンなど最新素材もいち早く採用(写真右上)しており、21年には脱進機をシリコンで一体成型した画期的なモノリシックオシレーターの開発にも成功(写真右下)している
写真左下/ハイライフ トゥールビヨン パーペチュアルカレンダーシリコンなどの最新素材を積極的に採用してきた(写真:右上)ことでも知られ、21年にはシリコン製のガンギ車とアンクル、テンプを一体成型した“モノリシックオシレーター”搭載モデル(写真:右下)を発表。一般的な高振動型ムーブメントの10倍速の振動数となる毎時28万8000振動を実現し、機械式ムーブメントの次なる地平を切り開いてみせた。
機械式ムーブメントにこだわる一方、15年にはスイス時計界で初めてアナログ表示のスマートウォッチをリリースしているのも特筆すべき部分。こうした時代への対応力も同社を時計界の中で特異な位置へと押し上げた要因だ。
ちなみに現在までに同社が開発した自社製ムーブメントは31個。今やジュネーブを代表するマニュファクチュールブランドのひとつと言っても過言ではない。
1988年の創業から2021年のモノリシックオシレーターまで。
短期間で飛躍的に成長したブランドの歴史を年表で
フレデリック・コンスタントは創業以来、“手の届くラグジュアリー”をブランド理念に掲げ、それを厳格に守り続けている。どのモデルも販売価格を設定してから開発をスタートさせており、予想を超えて製作コストがかかっても価格に転嫁しない。もちろんブランドイメージを高めるために価格をつり上げるようなことも一切してこなかった。ここも同社が短期間で飛躍的に成長した理由の一つだ。
このブランド理念は、ピーター・スタースとその妻アレッタの創業者夫妻が、30歳の頃にジュネーブの時計店を見て歩いたときのエピソードに起因する。クラシカルで高品質な時計に魅了されたものの、値段があまりにも高価すぎて購入は断念せざるを得なかった。そこで、美しく高品質なスイス時計を誰もが手の届く価格で提供したら素晴らしいビジネスになるのではと考え始めた。そして、彼らは異業種から時計界へ参入したのだ。
誰もが手の届く価格でスイス製の高級時計を提供したいというピーター・スタースとその妻アレッタ(写真右)の願いは、フレデリック・コンスタントをマニュファクチュールへと向かわせる原動力となった。
誰もが手の届く価格でスイス製の高級時計を提供したいというピーター・スタースとその妻アレッタ(写真中央)の願いは、フレデリック・コンスタントをマニュファクチュールへと向かわせる原動力となった。06年にはジュネーブ郊外のプラレワットに自社工場を設立(写真右)。デザインから開発、組み立て、品質管理に至るまで全てを自社で行う環境を整備した
ブランドが軌道に乗ったところでマニュファクチュール化を進めたのも、ブランド理念をより高い次元で実現するためだ。全てを自分たちでコントロールできれば、自社製ムーブメントを搭載したモデルも良心的な価格で提供できる。
実際、同社の「マニュファクチュール コレクション」は、とても価格優位性が高い。じつは自社製ムーブメント開発の際には、当時はまだ時計学校の学生だったピム・コースラグ氏を迎え入れて陣頭指揮を取らせた。社運を賭けたプロジェクトに何の実績もない若者を起用するのは、かなりの冒険だったろう。
06年にはジュネーブ郊外のプラレワットに自社工場を設立(写真)。デザインから開発、組み立て、品質管理に至るまで全てを自社で行う環境を整備した
しかし“手の届くラグジュアリー”を貫くためには、常識にとらわれていてはいけないと夫妻は考えた。そして、このチャレンジは見事に成功する。若き天才時計師は同社初の自社製ムーブメントを開発。その後の同社の躍進も技術面で支え続けてきた。
ビジネスパーソンには、こうしたフレデリック・コンスタントの経営戦略に共感する人も多いと思う。クラシカルでエレガントなルックスだが、内にはとてもピュアで熱いものを秘めた時計。これから成功を収めたいと願う人たちの精神的支柱にもなりうるブランドだ。
次章からは、そんなフレデリック・コンスタントの「マニュファクチュール コレクション」のなかから、特に大人のセンスアップに貢献する注目の2モデルを紹介してみよう。
高品質な時計を、お求めになりやすい価格でお届けしたい。
フレデリック・コンスタントのブランド哲学を知る
機械式時計の奥深い世界へ。フレデリック・コンスタント
のマニュファクチュール・コレクションについて
自社製ムーブメントの心臓部を6時位置の小窓からのぞかせた「クラシック ハートビート マニュファクチュール」の最新作が登場した。
まずいいのが、そのサイズ感だ。従来モデルは41mm径だったが、2004年に発表された、初の自社製ムーブメントである手巻きキャリバー“FC-910”搭載モデルと同様、39mmのコンパクトなサイズになった。これなら袖口でシャツと干渉することもなく、スマートに着用できる。
文字盤デザインも、すっきりと一新された。6時位置のハートビートは従来の“コンマ”型のデザインを廃して開口部を広くとり、テンプが大きくのぞくデザインに。ラッカー仕上げのダイヤルにはレイルウェイ目盛りが配され、繊細なローマ数字インデックスの書体と相まって、クラシカルな盤面に程よい華やぎを添えているのも見事だ。
シースルーバックからは同社31番目の自社製ムーブメント、自動巻きハートビートキャリバー“FC-930-3”の全容が鑑賞できる。ペルラージュ(=真珠模様)とコート・ド・ジュネーブ(=波状模様)装飾が施され、丁寧な手仕事を堪能できるのもいい。
小ぶりでクラシックな時計は最近のトレンドだが、それに加えて、さりげなく個性が主張でき、何より所有する喜びが得られる1本と言えよう。
フレデリック・コンスタントのアイコンモデル
クラシック ハートビート マニュファクチュールの新モデル
世の中は少しずつ平常を取り戻して、旅行や仕事で海外に出かける人も徐々に増えてきた。いつか行く旅に備えて、ワールドタイマーと呼ばれる“旅時計”を入手するのはどうだろう。
ワールドタイマーとは、基本的には文字盤に24時間で一周するディスクを備え、世界各地の複数の時間帯を一目で確認できるようにした時計のこと。よくGMTウォッチと混同されるが、GMTウォッチは時分針とは別の、24時間で一周する針で、もうひとつの時間帯(24時間目盛りを装備した回転ベゼルとの併用で第3時間帯まで表示できるものも多い)を示すようにしたもの。ともに旅に役立つところは同じだが、より旅情を誘うデザインがお好みならワールドタイマーがいい。
フレデリック・コンスタントの自社製ワールドタイマー・ムーブメントを搭載したコレクションは12年の発売以来、とても高い人気を誇る。
なかでもおすすめなのは、誕生10周年を記念した「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」の 18Kローズゴールドの限定モデルだ。
理由はまずデザインがいいからだ。大洋をイメージした深いブルーの上に、グレーのレリーフで表現された大陸図を乗せ、抜群にスタイリッシュな仕上がり。ケースデザインはクラシカルなラウンド型のため、普段のビジネススタイルにもすんなりなじむ。
ワールドタイマーは操作が煩雑なものが多いが、全ての調整をリューズ一つで可能にしたユーザーフレンドリーな設計もうれしい。もちろん自社製自動巻きキャリバー“FC-718”の美しいメカニズムは、シースルーバックから、しっかり鑑賞できる。
もともと、この「クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール」は複雑機構搭載モデルとは思えない良心的な価格設定も人気の要因だが、これは金無垢ケースで200万円台という破格の値段を実現している。まさに“手の届くラグジュアリー”を体現したモデルだ。
旅のツール、未知の世界へのエスケープ。世界限定88本
クラシック ワールドタイマー マニュファクチュール
価格は全て税込みです。 ※は4月1日からの新価格です
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