提供:富士通

キービジュアル:島津氏と田中氏

富士通株式会社
執行役員副社長 COO
(サービスデリバリー担当)
※2024年4月1日付

島津 めぐみ

立教大学ビジネススクール
教授

田中 道昭

DXは「単なるITの刷新」ではない

企業変革のカギを握る
経営主導のモダナイゼーション

企業におけるビジネス成長や業務刷新を加速させていく上で、ビジネス戦略とIT(情報技術)戦略の一体化が重要性を増している。ビジネス目標の達成に直結したITシステム構築、全社視点でのリソース配分、大胆なビジネスプロセス改善のためには、経営トップ主導でのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進が不可欠だ。企業戦略やイノベーションなどに造詣が深い立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏、富士通で全社モダナイゼーションを推進する島津めぐみ氏を迎え、これからの競争優位性の確保に向けた経営主導のDX、モダナイゼーションについて議論した。(聞き手は経済キャスター 江連裕子氏)

DX成功のカギは「経営主導で推進できるか否か」

写真:田中 道昭 氏

立教大学ビジネススクール
教授
田中 道昭

日経電子版Think!エキスパート。テレビ東京「WBS」コメンテーター。シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスMBA(企業戦略・ファイナンス・計量経済専攻)。専門は企業・産業・技術・金融・経済などの戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2022年の次世代自動車産業』『世界最先端8社の大戦略』など。

写真:島津 めぐみ 氏

富士通株式会社
執行役員副社長 COO
(サービスデリバリー担当)※2024年4月1日付
島津 めぐみ

富士通入社後、システムエンジニアとして製造業を中心に大規模なシステムインテグレーションプロジェクトを担当。後にインフラサービスビジネス領域責任者として安定的な利益体質への改善に貢献。2022年に英国へ拠点を移し、インフラサービス、サービスデリバリーに加え、モダナイゼーションも担当し、さらなる改革を推進している。

写真:江連 裕子 氏

経済キャスター
江連 裕子

ラジオNIKKEI 「ザ・マネー」 経済キャスター。企業の監査等委員・社外取締役、公益財団法人理事、企業の顧問・アドバイザー等も兼任。経済学修士。TBSニュースバード、フジテレビ経済レポーター、テレビ東京「モーニングサテライト」「Mプラス11」、日経CNBCで9年間メインキャスター、国際ビジネス情報番組「世界は今―JETRO Global Eye」キャスターを歴任。ラジオNIKKEIでは15年間、経済キャスターを担当。企業のIR、セミナー、司会、モデレーター等を多数経験。

江連 (既存システムの老朽化などの問題が集中する)「2025年の崖」を乗り越える観点でも、企業のビジネス成長や効率化の加速においても、DXやイノベーションの実現が重要視されています。その中で、日本企業のDXにおける課題についてお聞かせください。

田中 私は、国内大手企業向けに「デジタルシフトアカデミー」というセミナーを開催していまして、現在までに10社ほどのDXコンサルティングを担当しています。その中で、DXに成功する条件として挙げたのは「経営主導で推進できるか否か」です。逆に、一般的にDXを単なるIT戦略と捉えている場合は、成果を出しにくい傾向があります。

江連 経営主導によるDXに成功した企業として、どのような事例があるのでしょうか。

田中 代表的なのが、米小売大手のウォルマートの事例です。新型コロナウイルス禍で一気にDXへの機運が高まった同社は、モバイルアプリで顧客とつながり、顧客の利便性を大きく向上させました。さらに、蓄積されたデータを最大限に利活用することで、リアルとデジタル双方での顧客接点を生かしたリテールメディア※1を展開し、広告事業としての収益を上げることが可能となりました。その根底にあるのが、顧客のニーズや思考・感情を第一に考えるカスタマーセントリック(顧客中心主義)のビジネスモデルです。

※1…小売企業が消費者の購買データなどを活用して、自社のECサイトやモバイルアプリ上に顧客ごとに最適化した広告配信を行う仕組み

ウォルマートのDX戦略の要諦としては、日本企業のDXを考える場合、「1.企業文化の刷新にまで手をつけたこと」「2.テクノロジー企業への変革を宣言したこと」が重要となるでしょう。先ほどもお話ししましたが、経営者自身がリーダーシップを発揮できるかが命運を分けるとも言えます。

江連 ありがとうございます。多くの企業のモダナイゼーションを支援されている富士通の島津さんから見た、企業におけるDXの課題は何でしょうか。

島津 DXという言葉が先行して、「何をDXで実現するのか」という目的が曖昧なまま進められているケースも多いのではないでしょうか。DXの推進には、企業ビジョンや経営目標達成に直結したITシステムの構築が必要です。

一方で、DXのハードルとなるのが複雑化・レガシー化したシステムです。実際、新しいビジネスモデルを生み出す際、ITシステムを事業環境の変化に適応させることができない、といった相談を受けるケースもあります。

江連 「2025年の崖」に向けて1年を切りましたが、DXを妨げるレガシーシステムからの脱却は急務と感じています。

島津 レガシーシステムから転換するためには、モダナイゼーションが必要不可欠です。しかし注意していただきたいのは、モダナイゼーションは単なるITの刷新ではなく、DXを実現し、ビジネスを成功に導くための取り組みであることです。

江連 島津さんはシステムエンジニア(SE)としてのご経歴をお持ちですが、現場を見てきたからこそ改革が必要だと実感されるのでしょうか。

島津 長い歳月、個別最適で構築してきた既存システムは資産規模が大きく、システム間の連携も複雑であり、モダナイゼーションが簡単ではないことは理解しています。SEとして働いてきた経験を生かしながら、お客様と一緒にモダナイズをして、日本企業のDXに貢献していきたいと考えています。

「顧客を宇宙の中心に置く」カスタマージャーニー

江連 DXによる変革を進めていくためのヒントをお聞きできますでしょうか。

田中 アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏の思考を通して、DXの本質を考えてみたいと思います。アマゾンは「地球上で最も顧客中心の会社」をミッションに掲げ、カスタマーセントリックを徹底していることが特徴です。DXをシンプル化すると、「企業を宇宙の中心に置く」トランザクションジャーニーから、「顧客を宇宙の中心に置く」カスタマージャーニーに切り替えていく挑戦とも言えます。

アマゾンが重視する「顧客を宇宙の中心に置く」コンセプト

図1

江連 「顧客を宇宙の中心に置く」カスタマージャーニーは、カスタマーセントリックを具現化する意味でも強い言葉ですね。

田中 ベゾス氏がインタビューで「10年後にアマゾンはどうなるか?」と聞かれた際、「10年後どうなるか予測できない。ただ昔も今も10年後も、顧客が電子商取引(EC)に求める3大ニーズは変わらない」と語りました。その3大ニーズが「低価格」「豊富な品ぞろえ」「迅速な配達」。時代が変わっても変わらないニーズに合わせ、アップデートしていくためにDXを活用しているのです。

江連 アマゾンが顧客視点でDXを加速させているからこそ、私たちに消費者にとってアマゾンなくしては生活できないような状況になっているのですね。島津さんは、ITシステム基盤や技術的な観点から持続可能な未来を見据えた時に、どのような施策が求められるとお考えですか。

島津 富士通では、1社1業種での解決が困難な社会課題に対して、クロスインダストリーでサステナブルな世界の実現に取り組む事業モデル「Fujitsu Uvance」を通して、さまざまなオファリングを提供しています。

冒頭、田中先生からウォルマートの事例をお話しいただきましたが、やはり生活者と企業をつなぐためのデータ利活用は必要不可欠です。従来は、個別のシステムの中にあったデータを一元管理し、企業と企業、企業と消費者の枠を超えてつなげていくことが、社会に新たな価値を生み出していくと考えています。

経営トップのもと顧客体験の変革を成し遂げた化粧品会社

江連 先ほど、「DXを推進していくためには、モダナイゼーションが必要不可欠」というお話もありましたが、島津さんのお話を受けていかがでしょうか。

田中 モダナイゼーションは大きな試みですので、成功させるためには経営トップ主導で業務の変革を一体で進めることが重要です。流れとしては、業務や資産を可視化した後、エンタープライズアーキテクチャーにのっとったグランドデザインを策定し、情報システム全体のスリム化を図るとともに、モダナイゼーションを進めることでDXを達成していきます。

モダナイゼーションのプロセス(図版参考:富士通株式会社)

図2

江連 国内における経営トップ主導のモダナイゼーションを含む、DX成功事例をお教えいただけますか。

田中 私が戦略アドバイザーを務めるDX専門戦略コンサルティング会社のRidgelinezにおいて実施した、化粧品会社オルビスの事例をご紹介させていただきます。

オルビスでは、「リブランディングとは構造改革である」という小林琢磨社長の考えの下、目的「顧客価値創出のためのブランド体験の進化」、コンセプト「お客様ひとり一人『あなたなり』の正解をともに摸索(もさく)し導く」と設定し、DXを推進しました。

店頭、ECなど、それぞれのチャネルで顧客情報管理(CRM)を実践していた状態から、オフラインとオンラインをつなげるのではなく、あらゆるものがデジタルでつながるOMO(Online Merges with Offline)を取り入れたことが特徴です。約350万人の登録顧客数を持つORBISアプリもその1つとなります。

江連 ORBISアプリは私も使っています。人工知能(AI)を活用した肌診断を受け、診断結果に合わせた化粧品がお勧めされるのは、素晴らしいカスタマージャーニーですよね。購入までのラインがうまく構築されている印象です。

田中 コンセプト通り、顧客のデータを集積、AIで解析して最適化し、顧客ごとに異なる「正解」を提供することに成功している事例だと思います。

Road to 3X
――DX、SX、GXまで伴走するモダナイゼーション

江連 富士通では、モダナイゼーションをどのように定義されていますか。また、Fujitsu Uvanceが目指す世界観の実現に向けて、今後どのような取り組みを進めていきますか。

島津 富士通が提供するモダナイゼーションは、「Road to 3X」をコンセプトとして、DXだけではなく、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)、グリーントランスフォーメーション(GX)まで伴走させていただきます。Road to 3Xには、モダナイゼーションによって、目的を持ってシステムごとにバラバラのデータを1つに集約をすることで、ビジネスを右肩上がりに拡大していくという意図を込めています。

イメージ:Road to 3X

長年、モダナイゼーションに取り組み続けてきた富士通には、多くの知見やノウハウのあることが強みです。今後も、お客様が直面する課題を解決するため、戦略パートナーと一緒に、グローバルスタンダードなツールを活用しながらモダナイゼーションを提供していきます。

江連 各企業でモダナイゼーションの課題や解決策も異なるかと思いますが、知見やノウハウをどのように生かされているのでしょうか。

島津 モダナイゼーションのナレッジ集約を目的として、22年にCoE(Center of Excellence)機能を持つ「モダナイゼーションナレッジセンター」を設立し、運用しています。田中先生のお話にもありましたように、モダナイゼーションの全体像を決める「業務・資産可視化」「グランドデザイン」は非常に重要です。富士通では25年度までに、企業全体でコンサルタントを1万人、デリバリー人材を4万人まで拡充する方針です。

企業のモダナイゼーションを加速する富士通の強み

図3

また、モダナイゼーションは最新技術の知識だけではなく、レガシーシステムに関する知識も必要という視点から「モダナイマイスター※2」という制度を新設し、モダナイゼーションの加速に取り組んでいます。

※2…レガシーシステムの知見と専門性を持つエキスパート集団

江連 まさに富士通だからこそ提供できる価値かと思います。では、最後に田中先生から、富士通への期待と読者へのメッセージをお願いします。

田中 島津さんのお話を聞いて、改めてグランドデザインの重要性を認識しました。富士通の「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスは、モダナイゼーション事業に練り込まれてると感じています。DXやモダナイゼーションを進める上でも、企業独自のパーパスを反映させることで、より大きな成果が得られるのではないでしょうか。

江連 田中先生、島津さん、本日は貴重な話をありがとうございました。

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