提供:HPE

ヒューレット・パッカード エンタープライズ日本法人 望月弘一社長に聞く

ハイブリッド時代のクラウド体験とデータ活用を加速する
「HPE GreenLake」とは?

写真:望月氏

日本ヒューレット・パッカード合同会社
代表執行役員社長

望月 弘一

エンタープライズ向けソリューションサービス事業をグローバルで展開するヒューレット・パッカード エンタープライズ(以下HPE)。同社はいま、ハイブリッドIT(情報技術)環境とデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を実現する多種多様なソリューションを提供している。それが「HPE GreenLake」だ。HPE GreenLakeとはどのようなソリューションなのか、また企業にどのような価値をもたらすのか――。HPEの日本法人である日本ヒューレット・パッカードの望月弘一社長に聞いた。

パブリッククラウドとオンプレミスを有機的に結合

写真:望月氏

日本ヒューレット・パッカード合同会社
代表執行役員社長

望月 弘一

HPEはサーバーやストレージ、ネットワークなどのハードウエアをはじめ、エッジコンピューティングからクラウドまでの多種多様なソリューションを法人(エンタープライズ)向けに提供するグローバル企業。旧ヒューレット・パッカード(1939年創業)の分社化によりパソコン・プリンター事業を切り離し、エンタープライズ事業に経営資源を集中させた会社として2015年に発足した。現在もサーバーやストレージの領域でトップクラスの市場シェアを誇っており、世界有数のIT企業として広く知られている。

「HPEは新会社設立の直後から大胆な予測に基づく首尾一貫した事業戦略を策定・実践してきました」

そう話すのは、HPEの日本法人である日本ヒューレット・パッカードを率いる望月弘一社長だ。

「HPEは分社化して間もない16年に『これからはエッジコンピューティングやクラウド化がさらに進展してハイブリッドの時代が到来』をいち早く予見し、それ以降はグローバルで4000億円を超える投資を行い、ハイブリッドの時代に向けた準備を重ねてきました」(望月社長)

HPEが予見したとおり、世界のエンタープライズIT市場はハイブリッドの時代に向けた変革が加速しているのは間違いない。だがハイブリッドの時代にふさわしいシステム環境を構築・運用していくには、解決すべき課題もあると望月社長は見ている。

「ある調査によると、現時点において50%の企業がオープンかつハイブリッドなクラウド環境を求めており、それが3年以内に70%へ伸びると予測されています。これはミッションクリティカルな業務領域も含めてクラウド化への要求が高まっていることを意味しています。しかしその一方、セキュリティーやコンプライアンス、ガバナンスなどの理由からパブリッククラウド環境に移行できず、オンプレミス(自社所有)環境にそのまま残るシステム基盤が多数存在するのも確かです」(望月社長)

そこでHPEでは、オンプレミス環境で稼働するシステム基盤であっても、パブリッククラウドと同じ使い勝手や運用モデルを提供しようと考えた。その施策の一環として、19年にはすべてのハードウエアおよびソフトウエア製品の提供をコンサンプション型(消費型)に変更。オンプレミス環境に設置した製品であっても「使った分だけの費用を支払う」ビジネスモデルを全面的に展開している。

「当社は長年にわたり、オンプレミス向けのハードウエアやソフトウエアをお客さまに届けてきましたが、その形態は変えずにコンサンプション型へ切り替えることで、“Everything as a Service”(すべてをサービスとして提供する意味)を実現できます。これによりパブリッククラウドとオンプレミスを有機的に結合させ、エンタープライズIT全体のアジリティー(俊敏性)を向上させたり、データの透過性を高めて新たな洞察に導いたりすることが可能になるわけです」(望月社長)

この新しいビジネスモデルを取り入れた結果、HPEは22年第4四半期(22年8月~10月)におけるグローバル全体の売上高が79億ドル、非GAAP(米国会計基準)ベースの営業利益率が11.5%という過去最高の業績を達成している。

“データ・ファースト・モダナイゼーション”によるビジネス変革へ

グローバルで高い業績を収めるHPEだが、日本法人のビジネスも順調に成長し続けているという。22年11月から始まった23年度には、新たな事業方針を掲げた活動もスタートさせている。

「HPE日本法人では22年度から“Edge-to-Cloudのリーダーになる”というスローガンを掲げて事業活動に取り組んでいますが、今年度は活動の幅をさらに拡大し、スピードアップさせていくことに注力しています。そして“データ・ファースト・モダナイゼーション”を実現し、お客さまのビジネス変革と持続可能な社会に貢献することを事業方針として掲げました」(望月社長)

Edge-to-Cloudとは、データの存在する場所が社内のデータセンターに限定されなくなる事実を指しているとのことだ。

「日本でも、より現場に近いところで稼働するエッジコンピューティングの活用シーンが増えており、25年には企業が管理するデータの半分以上はエッジで生成・処理されると見込まれています。クラウドについてはオンプレミスとのハイブリッドで複数のパブリッククラウドが利用されていますが、それらがシステムごとにサイロ化されてしまい、うまく機能連携できていないという課題が残っています」(望月社長)

さらに望月社長が大きな課題と指摘するのが、企業におけるデータ活用の実態だ。

「企業が管理するデータ量は25年までに現在の5倍になると言われていますが、実際に企業が経営戦略や業務効率化に活用できているデータはわずか1~2割に過ぎません。これは非常にもったいない話です。企業がDXを実現していくための成功要因のひとつに『データドリブン(データ駆動)』が挙げられます。これはデータから気づきを得て、自社製品のイノベーション、競合他社との差別化、お客さま体験の向上などにつなげていくことですが、データ活用が進まない限りデータドリブンの実現は困難です」(望月社長)

データ活用が進んでいない現状は、HPEの調査でも明らかにされている。同社は22年11月に日本を含む19カ国の企業・官公庁に所属する8600人以上の意思決定者を対象に、HPEが独自開発した「成熟度モデル」に基づいて「データから価値を創造する能力」を評価する調査を実施した。

調査の結果、グローバル全体では「成熟度レベル1(データ無秩序)」の組織が14%、「レベル2(データ報告)」が29%、「レベル3(データ洞察)」が37%、「レベル4(データ中心)」が17%、「レベル5(データ経済性)」が3%、平均習熟度レベルが「2.6」だった。ところが日本の回答だけに絞ってみると、レベル1が36%、レベル2が31%、レベル3が19%、レベル4が11%、レベル5が2%、平均習熟度レベルは「2.1」。グローバル平均に比較して日本は大きく遅れていることが判明したのだ。

「この調査からわかるのは、データの重要性は認知されているものの、その可能性を開放するには現在のDX戦略の基軸を“クラウドファースト”から“データファースト”に移す必要があるということです。そのうえでデータを戦略的資産として活用していくには、戦略・組織・テクノロジーの選択を見直すための“モダナイズ“(近代化)を進める必要があります。HPEが目指す“データ・ファースト・モダナイゼーション”にはこうした意味が込められています」(望月社長)

HPE「データ成熟度レベル」日本の結果(n=400)とグローバル比較
図

HPE GreenLakeの優位性と豊富な導入実績

このようなエッジやクラウド、データ活用の課題を解決し、“データ・ファースト・モダナイゼーション”を実現するためのソリューション基盤としてHPEが19年から提供しているのが「HPE GreenLake」だ。22年にはオンプレミスを含むマルチクラウド管理の共通プラットフォーム「HPE GreenLake edge-to-cloudプラットフォーム」へと進化させ、これを中核に事業を展開している。

HPE GreenLakeには5つの大きな特長があると望月社長は語る。

「1つ目はオンプレミスもパブリッククラウドもすべて共通した運用モデルを提供する統合・自動化された安全なプラットフォームであることです。2つ目はアドバイザリー・運用・ファイナンスをエンドツーエンドで提供できる体制を用意していることです。当社の約半分の社員はサービスデリバリーを担当するコンサルタントであり、HPE製品だけでなく他社製品も含めてHPE GreenLake上にインテグレーションする能力を有しています。3つ目の特長は、オンプレミスのメータリングも可能にしたスケーラブルなAs a Service(コンサンプション型)を採用していることです。そして4つ目が、日本国内だけでも3000社を超えるパートナーを擁したエコシステムを構築していることになります。パートナー向けには、HPE GreenLakeが備えるメータリングやビリング(課金)、オーケストレーション(設定・管理の自動化)などの機能を提供し、顧客企業がHPE GreenLakeを利用しやすくしております」

さらに望月社長はHPE GreenLakeの最後の特長として、こう続ける。

「5つ目はサステナビリティーを考慮したサービスであることです。HPE GreenLakeでクラウド化することにより、従来のオンプレミスに比べて電力消費量は3~4割程度削減することが可能です。これら5つの特長がHPE GreenLakeの強みであり、これらすべてを提供できる企業は他にありません。ここにHPEの優位性があり、他社との大きな差別化ポイントになっていると自負しています」

望月社長によると、直近の22年度は日本におけるHPE GreenLakeの売上比率が20%を超えているという。  

「これは全世界平均の約2倍であり、グローバルに比べても非常に早いスピードでHPE GreenLakeが市場に浸透しています。それだけ日本のお客さまからHPEが高い信頼と評価をいただいている証しだと考えています」

ソリューションサービスの品ぞろえも年々拡充されており、22年には移動体通信事業者向け「Open RAN Solution」、ローカル5Gを実現する「HPE 5G core Stack」、NaaS(Network as a Service)を実現する「HPE GreenLake for Aruba」といったエッジ領域のサービス提供を開始。さらにクラウド領域では、セルフサービスが可能なポータル「HPE GreenLake platform」をリリースしたほか、Google AnthosとHigh Performance Edgeを使ったIoT向けソリューションなども開発している。データ領域では、AI(人工知能)モデル学習ソリューションの「HPE Machine Learning Development System」「HPE Swarm Learning」を提供したほか、AI関連パートナーとの共同セミナーの開催といった取り組みも進めている。

導入事例も続々と増えており、22年の単年度だけでも、国内で金融、通信、製造、流通、官公庁など40以上の社名公開事例がある。

「例えばクレジットカード国際ブランドのJCBは、カードユーザーが利用する『MyJCBサービス基盤』にHPE GreenLake edge-to-cloudプラットフォームを採用し、ミッションクリティカルな要求に応える信頼性・可用性を強化しながら、新サービスをいち早くリリースするための俊敏性やアプリケーション開発の柔軟性と高速化を実現しています」(望月社長)

写真:望月氏

さらに拡充するソリューションメニューと営業体制

HPEでは今後も、HPE GreenLakeを中核に据えたビジネスに注力していく方針だ。23年度は「ソリューションメニューの拡大」「セールスエンゲージメントの変革」「持続可能な社会への貢献」の3つに取り組む計画を立てている。

「ソリューションメニューの拡大については、23年4月までに『HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise』の国内展開を予定しています。これにより、ミッションクリティカルな業務システムをクラウドネイティブで稼働させるための新しい基盤が提供できるようになります。またデータ領域では『HPE GreenLake for Data Fabric』の国内展開のほか、AI開発フルポートフォリオとHPE GreenLakeによるパートナーとの協調を加速させていこうと考えています」(望月社長)

また、セールスエンゲージメントの変革については、顧客企業の購買特性に呼応した営業体制へと変革し、ビジネスのスピード向上やソリューション提案力の強化、顧客価値の最大化に取り組む予定だ。さらに持続可能な社会への貢献では、循環型経済の実現に向けた活動を促進し、例えばHPE製品に限定せずに使用済みIT機器をリユース・リサイクルする取り組みなども広げていく予定だ。

「こうした活動に注力していくためには、HPE社内で働く人材への投資も欠かせません。そのために働き方改革やウェルネス改善に取り組むほか、30年までに女性エグゼクティブ比率・社員比率を30%以上にするアクション『Vision 30』の実施、DEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)推進体制の強化などを通じて、会社横断で働きがいや働きやすさを追求する取り組みも進めています」(望月社長)

HPE GreenLakeのさらなる発展とともに、社内改革も積極的に推進する望月社長の経営手腕には、これからも注目していきたい。

<編集後記>

HPE GreenLakeの提供開始から間もなく丸4年。この間に新型コロナウイルス禍などを契機として、日本企業でのデジタル活用の流れは加速した。ただ、2022年版情報通信白書によると、DXに関する取り組みを進めている日本企業の割合は約56%と、米国企業(約79%)に比べて依然低い。目的についても「生産性向上」が74.8%と最多で「データ分析・活用」は63.5%にとどまり、望月社長が指摘するようにデータの効果的な利用については今なお道半ばといったところだ。縦割りの組織の壁を越えて全社一丸でデジタル推進やデータ活用に取り組むことは、日本企業の喫緊の課題になっている。企業のデータドリブンの動きをいっそう強め、そして新たな価値の創出につなげるためには、商品ラインアップの拡充に加えて導入によるメリットの地道な訴求が欠かせない。「パートナー」として、市場開拓の余地はまだ大いにありそうだ。

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