旭化成、「デジタル」と「共創」で
企業変革を推進
IBM Garageを活用し、DXで持続可能な社会の実現を目指す

【対談】旭化成 奈木野豪秀氏×日本IBM 木村幸太氏【対談】旭化成 奈木野豪秀氏×日本IBM 木村幸太氏

提供:日本IBM

マテリアル(素材)、住宅、ヘルスケアの3つの領域で事業を展開する旭化成が急速に企業変革に取り組んでいる。その鍵となるのは“デジタル”だ。全社のデータマネジメント基盤を整備し、4万人のデジタル人財を育成。デジタルの力でつながる風土を築き、デジタルトランスフォーメーション(DX)で持続可能な社会を実現しようとしている。この推進エンジンとして活用されているのが「IBM Garage(ガレージ)」である。100年の歴史を持つ伝統的な企業が推進するDXについて、2人のキーパーソンに話を聞いた。

4つのフェーズに分けて段階的にDXを推進

――旭化成は2021年5月に「Asahi Kasei DX Vision 2030(以下、DX Vision 2030)」を策定し、DXの取り組みを加速させています。

奈木野 ものづくりを起点にデジタルを加え、DXによって持続可能な社会を実現することを目指しています。もともと工場系、研究系のそれぞれでDXへの取り組みを進めていましたが、社長がDXを宣言したことで一気に全社に広がりました。

奈木野豪秀氏
旭化成株式会社
デジタル共創本部
共創戦略推進部 部長
リードエキスパート
工学博士
奈木野豪秀

 DX Vision 2030では、もともとDXに取り組んでいた2018年からを「デジタル導入期」、2020年からを「デジタル展開期」、2022年からを「デジタル創造期」、そして2024年以降を「デジタルノーマル期」としたロードマップを策定し、各フェーズでの取り組みを示したうえで段階的に施策を進めています。

 2021年4月に工場系、研究系のそれぞれでDXを推進していたメンバーを中心にデジタル共創本部を新設し、CXテクノロジーセンター、インフォマティクス推進センター、スマートファクトリー推進センター、IT統括部、DX企画管理部、そして共創戦略推進部の6つの組織を設けて全社のDX推進をリードしています。

図
図

「IBM Garage」を活用し短期間でビジョンを策定

――DX Vision 2030はどのようにしてとりまとめていったのでしょうか。

奈木野 骨子がまとまったのは2021年1月末です。スタートしてからわずか1カ月半後です。短期間でまとめられたのはIBM Garageのおかげです。

木村 私たちに声をかけていただいたのは2020年12月です。その数日後にはある場所に役員や事業部長クラスの方々が15人ほど集まり、2日間でビジョンの原石をつくり上げたのです。

木村幸太氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
IBM Garage CoC Japan Lead
木村幸太

 IBM Garageではアイデアを導出する過程で、「なぜ必要なのか」「何をやるのか」「どうやってやるのか」を明確にすることにこだわっていますが、短い時間でこれらの要素を検討できた成功事例の1つです。

奈木野 最初に私が皆さんの前で生意気にも「このまま10年後があると思わないでください」と申し上げたのですが、その場で役員に共感してもらえたことも大きかったですね。

木村 経営層との距離が近く、コミットメントが得られやすい風通しのいい社風であると感じました。それに「スピーディー」であることが加わっているのが旭化成の特徴です。短期間でビジョンの骨子をとりまとめることができた理由はそこにあります。

奈木野 その原石を持ち帰って各領域のキーパーソンとすり合わせをして磨き込み、5月の経営説明会でマスコミや投資家に公表し、10月にはコンセプトムービーを作成して全社の方向感をそろえました。ビジョンは時代で変化するものなので、ファーストバージョンとしては素早く打ち出すことを優先して考えていきました。

情報を共有しDXの全社展開をドライブ

――現在はどのようなアプローチでDXを進めているのでしょうか。

奈木野 DXの成功要因は「人」「データ」「組織風土」にあると考え、それぞれで取り組みを進めています。「人」では、これまでデジタルプロフェッショナル人財を育成してきましたが、DXの推進は従業員全員が変わることが必要であると考え、世界的な規格に準拠したデジタル認証である「オープンバッジ」を活用し、デジタル人財4万人の育成を目指しています。工場の現場担当者や一般の事務職でも理解しやすいように、学習用のコンテンツをいちから内製し、プロフェッショナル人財の定義を定めて、それに対応した自社専用コンテンツを用意しました。

「DXの成功要因は『人、データ、組織風土』にあると考え、それぞれで取り組みを進めています」(奈木野氏)

 「データ」面では、事業間の連携をスムーズに行えるようにデータマネジメント基盤を構築しています。事業の枠を超えてデータをやりとりすることで新しい価値が生まれてきます。データマネジメント基盤はその活動を活性化する基盤になると期待しています。

 さらに事業連携を強化するための組織風土をつくるために導入しているのが、リレーションシップ・マネージャー制度です。事業本部長や事業会社のトップと毎月集まって戦略を共有し、DXプロジェクトの優先順位や投資を決定していきます。

 リレーションシップ・マネージャーの皆さんは各DX領域(研究開発、生産・製造、IT基盤)の責任者でもあるので兼務は大変だと思いますが、DXの進捗状況を横串で見せることができるので効果的です。マテリアル領域の一事業部から始まった「経営ダッシュボード」も自発的に全社に広がっています。

図
図

木村 旭化成のDXが成功している要因としては、このリレーションシップ・マネージャーの存在が大きいと思います。それぞれの活動が孤立することなく連動できていて、これまでの経験や人脈を生かしてDXを進め、よりよい会社にして次の世代に託していこうという気概が伝わってきます。

Garage手法によるDX推進。自走へ。

――DXの事例は増えているのでしょうか。

奈木野 デジタル導入期で約400のテーマを推進し、デジタル展開期ではさらに拡大、展開されています。また、共創戦略推進部を中心に、新たに業務変革やビジネスモデル変革に関する約20のテーマ(プロジェクト)のDX推進に取り組んでいます。その原動力となったのがIBM Garageでした。現在はさらに速く社内に広めるために、自分たちで自走できるようにしてきました。

 デザイン思考、顧客視点、アジャイルという特徴を持つGarage手法は大きなインパクトがあります。一緒に体験した現場の人たちやリレーションシップ・マネージャーを通じて次々とテーマが届いており、今後さらに加速、拡大していきます。

木村 DX Vision 2030の策定に加え、複数のテーマで私たちも一緒になって取り組んできました。ビジネスモデルやオペレーション変革など、テーマごとにしっかりと時間をかけながら、スピーディーに議論を進めることができました。現在は自走のための支援役となっています。

奈木野 全てのテーマには現場の人たちのそれぞれの想いが込められています。私たちはコミュニケーションでその想いへの共感を高め、その事業部の一員であるという気持ちで一緒に取り組んでいます。

「IBMとしての支援とともに、共創のパートナーとして、自走できるような伴走を意識していきます。今後も切磋琢磨して相乗効果を生み出したいと思います」(木村氏)

デジタル創造期ではビジネスモデルの変革を

――今後の展望とIBMへの期待についてもお聞かせください。

奈木野 DXの大きなテーマの1つがカーボンニュートラル(脱炭素)です。デジタルの力でカーボンフットプリント(炭素の足跡)を見える化して効果的なCO2の削減につなげ、再生可能エネルギーを利用してつくるグリーン水素の事業化についてもデジタルの力での推進に取り組んでいます。

 廃棄物を出さずに資源を循環させるサーキュラーエコノミーでもデジタルを活用していきます。ブロックチェーンを使ってプラスチックリサイクルのプラットフォームを構築して資源の循環を図ります。その他でもビジネスモデルを変革し、そのノウハウを社外に提供していくなど、Garage手法を活用してDXの範囲を広げていきます。

木村 来年からデジタル創造期に入り、DXはさらに加速します。IBMとしての支援とともに、共創のパートナーとして自走できるような伴走を意識していきます。これまでも「濃密に」ご一緒してきましたが、今後も切磋琢磨して相乗効果を生み出したいと思います。

奈木野 IBMはパートナーとして満点です。まさに共創でした。これからもワクワク感を持って一緒に新しいことに挑戦していきたいですね。

奈木野豪秀氏、木村幸太氏
ページトップへ