第一生命、一人ひとりに寄り添うサービスをDXでも追求 業務の自動化、顧客接点のデジタル化、オペレーション改革でDXを推進第一生命、一人ひとりに寄り添うサービスをDXでも追求 業務の自動化、顧客接点のデジタル化、オペレーション改革でDXを推進

提供:日本IBM

お客さまとお客さまの大切な人々の「一生涯のパートナー」、お客さま第一主義を経営理念に掲げ、創業から120年の歴史と伝統を誇る第一生命保険(以下、第一生命)がデジタル化を強力に推進している。昨年度には、これまで進めてきたオペレーションのオートメーション化に加え、お客さま向けサービスのデジタル化を加速している。個々人の知識・スキルに差がある中で、少量多品種のサービス設計で属人化された業務をいかにデジタル化したのか。デジタル化およびデジタル・トランスフォーメーション(DX)を成功させるためのポイントについて、同社の事務企画部の金子 太一氏とITビジネスプロセス企画部の上倉 彬慈氏、同社のデジタル化を支援した日本IBMの横谷 信太郎氏に話を聞いた。

一人ひとりのお客さまに、
きめ細かなサービス提供を

 お客さま第一主義を掲げる第一生命では、給付金の支払いや各種手続きをデジタル化し、より便利でスピーディーなサービスを提供するお客さま体験の向上と、定型業務のオートメーション化による生産性向上の2つの側面からデジタル化に取り組んできた。

 少子高齢化による労働力人口の減少が進む環境下において、同社が強みとする「一人ひとりに寄り添うサービス」を提供するためにはデジタル活用が不可欠であり、デジタル活用による生産性向上によりお客さま体験向上につながる業務へのシフトが加速している。

 同社では数年前からRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を大規模に導入するとともに、AI(人工知能)による手書き文字のデジタル化を図り、ワークフロー・ツールとルールエンジンを組み合わせることで定型的な業務の自動化を進めている。

 それと並行して進められているのが「お客さまとの接点業務」のデジタル化だ。スマートフォンで各種手続きができるようになり、チャットボットによる問い合わせ対応も実現した。2017年に300万件あった紙の書類は2020年に103万件に減り、2022年には45万件まで減少すると見込まれている。

サービスのデジタル化とオペレーション改革

 昨年からはデジタルを駆使してお客さま対応を支援する取り組みも開始した。これは「生涯設計デザイナー」と呼ばれる営業担当者の業務をタブレット端末でサポートするものだ。同社の事務企画部事務企画課マネジャーの金子 太一氏は今回構築したBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)システムを「お客さまサービスのデジタル化を支える大きな柱の1つ」と位置づける。

金子 太一氏
第一生命保険株式会社
事務企画部 事務企画課
マネジャー
金子 太一

BPMを活用することで
営業担当者と本社を直結

 お客さまによってご加入の保険商品や契約内容は区々であり、お手続きも新契約加入の手続きや加入後の住所変更や契約内容の変更、保険金の請求など様々なものがある。それらの組み合わせにより、本人確認など加入時に必要な書類も変わってくる。お客さまと向き合いながらこうした書類作成や手続きを進めていくのが生涯設計デザイナーである。

 同社は2022年4月1日時点で全国に約1200以上の営業オフィスがあり、約4万人以上の生涯設計デザイナーが活動している。その中にはベテランの社員もいれば新人の社員もおり、持っている知識やスキルにも差が生じている。そのスキルの差を埋めて、様々な業務をサポートするのが、営業オフィスに配属されているサービスクルーと呼ばれる内勤の事務担当者だ。

 各営業オフィスに配属されているサービスクルーの業務は多岐にわたる。契約書の取りまとめや記入漏れなどのチェック、必要書類の取付指示、申込み手続きの進捗管理、保険金の請求など、生涯設計デザイナーと本社との橋渡し役も務める。同社のITビジネスプロセス企画部の上倉 彬慈氏は「サービスクルーは様々な手続き・業務を覚える必要があり、場合によっては本社との確認も行いながら進める難易度の高い業務となっていました」と話す。

上倉 彬慈氏
第一生命保険株式会社
ITビジネスプロセス企画部
ITビジネスプロセス推進課
上倉 彬慈

 そこで同社は、このサービスクルーの業務のデジタル化に乗り出すことを決断する。サービスクルーの複雑な業務を見える化し、プロセスを分析してワークフローシステムに落とし込むというものだ。

 実現できれば本社と営業オフィスの2重構造を解消し、生涯設計デザイナーと本社をダイレクトにつなぐことができる。手続きはお客さまとの接点で完結し、後工程の業務量は削減され、お客さまサービスが向上するとともに、サービスの生産性向上にもつながる。全体で大きな成果が期待できた。

BPMの大規模な活用

 上倉氏は「事務企画部で生涯設計デザイナーのサポートのデジタル化の検討を開始したのは約7年前のことです。難しかったのはサービスクルーの仕事の進め方の最大公約数をどうとるかということでした」とプロジェクトを振り返る。

 サービスクルーはお客さまのため、生涯設計デザイナーのために、マニュアルを基準としながら、一人ひとりが工夫して最適な対応を行っていた。その各自の詳細な仕事の進め方を標準化する必要があったのである。

 この問題に対応するために同社ではBPMシステムの導入に目を向けた。「アプリケーションを自社開発するよりも、ツールを入れたほうが将来の変更や追加にも対応しやすいだろうと考えました」と上倉氏は語る。

 ホストコンピューター上で稼働している基幹システムやワークフローシステムには手を加えずに、BPMシステムと連携してやりとりしていくというエンタープライズ・サービス・バスの発想に立ち、いくつかのBPMシステムを検討した結果、IBMのBPM製品が選ばれた。実証実験によっていくつかの製品の組み合わせで実現できるめどが立ったという。

 「ところがいざ要件定義を始めてみると、実証実験では把握できなかった課題が次々と上がってきて日本IBMと相談しながら対応を詰めていきました」と上倉氏は話す。

 デジタル化の対象となったお客さま対応の中間領域では新規手続きだけではなく、細かな既存保険のメンテナンスがあり、大枠でも400種類の事務手続きが存在した。それをすべてデジタル化すると莫大な費用がかかる。それをどう絞り込むのかがポイントになった。

 導入を支援した日本IBMのテクノロジー事業本部 部長の横谷 信太郎氏は「採用いただいたIBMのBPM製品では、利用画面と業務処理を分けて処理を実行できるアーキテクチャーを採用していることが特徴であり、柔軟なシステム・デザインが可能であったことがメリットでした」と話す。これにより大規模かつ大量のトランザクションに対応できるようになり、対象業務のパターン化を進めて数十パターンに絞り込んだ。

横谷 信太郎氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 部長
オートメーション・テクニカル・セールス
横谷 信太郎

ユーザー目線に立って
継続的なシステム改良を

 システムは2段階に分けて展開された。2020年12月から新規申し込みの部分を稼働させ、2021年11月から既存契約のメンテナンスや保険金支払いの部分を稼働させた。これにより生涯設計デザイナーがサービスクルーの手を借りることなく、タブレット上のガイダンスにしたがって事務手続きを進められる仕組みが整った。

 「しかし、現実はそう簡単にはいきません。活用には濃淡があるのが現状です」と金子氏は語る。システムの画面デザインや表示されるメッセージなどが営業現場には分かりにくいケースがあり、新システムをさらに活用してもらうため今後も対応を継続していくという。

 「一番避けなければならないのは、苦手意識を持たれてシステムに触らなくなることです。そのためにはどこにレベルを合わせるのかを考えなければなりません」と上倉氏。その際に重要なのは、ホストシステムから送られてきたメッセージをいかに分かりやすく利用画面上に表示するかだ。

 同社では今もエンドユーザーからの意見を吸い上げてメッセージを最適化する取り組みが続けられている。それによりシステムは日々改善されつつあるという。「エンドユーザーが使う利用画面に表示されるメッセージなどは、様々なビジネス・ルールを組み合わせた結果が表示されますが、これらは事務企画部門のユーザーの皆さんが変更されており、運用フェーズに入ってからもローコード開発ができています」と横谷氏は話す。

 金子氏は「利用者にとって言葉は重要です。生涯設計デザイナーが画面のメッセージをそのままお客さまに伝えても違和感のないレベルまで持っていくことが目標です」と話す。同社のDXではお客さまに寄り添ったサービスを届けるために、お客さまを見つめる現場の目線にたどり着くことが求められているのである。