提供:日本IBM

神戸製鋼がITエバンジェリストの育成で業務密着型のDX推進 2023年度までに約500人を育成し、デジタル技術活用の底上げを図る

KOBELCOグループがDX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成に取り組み、大きな成果を上げつつある。業務に精通し、ITスキルも持つITエバンジェリストを育成して各部署に配置することにより、全社レベルでデジタル技術活用のボトムアップを図り、実践的な業務改革に結びつけている。では、どのような仕組みでDX人材の育成と活用に取り組んでいるのか。育成をとりまとめる事務局の責任者と研修を受講したITエバンジェリスト、全体プログラムを支援してきた日本IBMの担当者に話を聞いた。

6カ月かけて基本を学び、
業務の課題解決に取り組む

--DX人材の育成にどのように取り組んできたのでしょうか。

鹿毛 DX人材の育成はDX戦略の1つに位置付けられています。これまでもデータサイエンティストの育成を進めてきましたが、広く業務を通してボトムアップで活動できるように2020年度からITエバンジェリストの育成をスタートさせました。

 各部署に最低1人のITエバンジェリストを配置することを前提に、現在の中期経営計画の期間である2023年度までに約500人を育成する計画です。

鹿毛秀爾 氏

株式会社 神戸製鋼所
人事労政部 採用・育成グループ長
鹿毛秀爾

--ITエバンジェリストとはどのような人材でしょうか。

鹿毛 エバンジェリストは「伝道師」です。ITエバンジェリスト自身がデジタル技術を活用して業務変革を進めるだけでなく、その部署をリードして組織全体のデジタル技術活用推進の起点・けん引力となることを期待しています。

 研修カリキュラムは6カ月で、講義、講師との相談会、eラーニングで構成され、デザイン思考、要件定義、プロジェクトマネジメントなどを学び、業務に関連した課題に取り組み、所属部署の上司が参加する中で最終的な成果物の発表を行います。

--人材育成に関して日本IBMはどのような支援を行ったのでしょうか。

鈴木 2016年度からデータサイエンティストの育成を支援していたこともあり、ITエバンジェリスト育成の初期検討段階から議論に参加させていただきました。ユーザー部門にITの知識を習得してもらうために、ITエバンジェリストだけでなく、上司やメンバー、情報システム部門など、それぞれの役割を定義するロードマップづくりを支援しました。

鈴木久美子 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
タレント・トランスフォーメーション事業部
組織・人事機能変革、デジタル人材育成担当
シニア・マネージング・コンサルタント
鈴木久美子

鹿毛 当初は日本IBMに講師を委託し、初年度の2020年度は業務で実践することに意欲的な部署を優先して35人でスモールスタートしました。2021年度の途中から計画通りグループ会社のコベルコシステムに講師を移管し、グループ内製化を進めてきました。

ITエバンジェリスト育成プログラムの構成 1.オリエンテーション 2-1.IITエバンジェリスト活動実践(部署内OJT)2-2.基礎知識習得 3.実践報告

研修後にDXの推進役として
活躍するITエバンジェリスト

--ITエバンジェリストの研修を受けた理由を教えていただけますか。

豊永 2020年にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入しITツールの有用性を実感していました。そんなときにITエバンジェリストの育成プログラムメンバーの選出を知り、いいチャンスだと思って手を上げました。

豊永真也 氏

株式会社 神戸製鋼所
溶接事業部門 品質マネジメント部 品質保証室
豊永真也

 研修で印象に残ったカリキュラムは、デザイン思考と相談会です。デザイン思考の特徴はユーザーの根本的な悩みの解決です。当社の総合的品質マネジメントのキーワードの1つである「喜ばれる品質」につながるものだと考えました。

 もう1つの相談会は課題に着手する人や着手中の人、すでに完了している人が課題に関して講師に相談するためのもので、各課題で3回、2時間にわたって行われ、出入り自由という設定でした。

 講師とのコミュニケーションを通して講義以外の内容も知ることができ、ITエバンジェリストとして日頃からどんなことを考えるべきか、情報収集のためのアンテナをどう張り巡らせるべきかなど、あるべき姿を固めることができました。

--研修後、ITエバンジェリストとしてどのような活動を行っているのでしょうか。

豊永 担当している溶接材料の性能確認試験のとりまとめでは、適切に試験を行い、いかに早く間違いのない報告書をつくり上げることができるかが課題でした。研修前にはすでに報告書作成業務効率化ためのRPAと、手書き書類をデジタルデータへ変換する機器は導入済みだったので、研修期間および研修後はデジタル機器の認識率のブラッシュアップを行いました。

 最近では新しい課題として、テレワークでも業務の質を維持できるようにペンタブレットを導入する取り組みも進めています。

鹿毛 DXの取り組みを現場だけで終わらせないような工夫も設けています。ITエバンジェリスト同士が意見や情報交換ができる「広場」を設けたり、イントラネット上に情報共有のためのポータルサイトを設けたりするなど活動を継続的に支援する仕組みも提供しています。

参考:ポータルサイト ・IT活用のための最新ニュース・ITエバンジェリスト活動事例 (企画書、活動報告書など)・研修・セミナーの案内・ITツール、研修教材

神戸製鋼の取り組みを成功させた
3つの要因とは

--ITエバンジェリストの育成でどのような成果が得られているのでしょうか。

鹿毛 初年度は生産サイドの「デジタル技術の応用」のニーズで多くのエントリーがありました。共通していたのは、データ格納の一元管理による手戻りの解消や更新内容の整合性、データ分析の見える化などで、原因究明のマンパワー削減などの成果が生まれています。

 2021年度は間接部門のスタッフワークのエントリーも増えてきました。業務を自動化するRPAや紙の書類をデジタル化するためのOCR(光学文字認識)の利活用などがあり、データ活用、分析の見える化などのチャレンジが多かったです。

 昨年度までに累計約140人が参加しており、ITエバンジェリストとして配置されている部署では、デジタル技術を活用した様々なアイデアの下、業務改革が実例として出てきている状況です。今年は150人が参加を予定しており、育成の効果は今後も加速していくでしょう。

豊永 ITエバンジェリストとしては、実体験を周囲と共有し、メリットを感じてもらえるように取り組み、全員が率先してITツールを活用するようなマインド醸成につながるよう心掛けています。

鹿毛秀爾 氏

「ITエバンジェリストが配置されている部署では、
デジタル技術を活用した業務改革が実例として
出てきている状況です」

(鹿毛氏)

--ITエバンジェリスト育成の成功要因はどこにあるとお考えですか。

鈴木 ITエバンジェリストのやる気と事務局の粘り強さが一番ですが、それ以外にも3つの成功要因があると考えています。まず、活動の根拠が明確だったこと。経営トップが事務局の活動にコミットメントし、上司や周囲の理解が得られていました。

 2つ目は広い視野と中長期的な視点から取り組んだこと。上司や情報システム部門などDX推進に関係する他の登場人物への働きかけや、研修後のITエバンジェリスト同士の情報共有の場など、面と時間軸での対応がしっかりとできています。そして3つ目は「自分ゴト化」。他社事例や既存サービスをそのまま適用するのではなく、自社の状況に合わせたデジタル技術の活用や研修の設計開発・内製化ができていることです。

鹿毛 私たちがここまで到達できたのは日本IBMの支援があったからです。当社の状況を理解したうえで様々な事例を紹介していただき、外に目を向けることができました。今もアドバイザーとして毎週の定例会に参加してもらっています。

約500人の計画達成に向けて
受け入れ体制の強化を進める

--今後の展開についてお聞かせください。

鹿毛 2022年度は受講生を2021年度の1.5倍の150人にしました。来年度はさらに増やして200人を予定していますので、講師の育成も同時に進めていく計画です。

 今後はITエバンジェリストとしての社内資格の認定制度やIT関連資格の取得支援などにも前向きに取り組んでいきます。将来的にはグループ企業のコベルコビジネスパートナーズに委託している人材育成体系に融合させていく予定です。

鈴木久美子 氏

「DXを進めるためには人材育成だけでなく、
トータルでの取り組みが必要です」

(鈴木氏)

--日本IBMとしてはどのようにDX人材の育成支援に取り組んでいくのでしょうか。

鈴木 日本企業の中でもDX人材の育成に取り組む動きが活発ですが、課題は旗振り役だけ育てても現場のDXは進まないということです。上司やメンバーなど他の登場人物へも同時に働きかける必要があります。神戸製鋼の場合はスモールスタートし、関係者も含めて丁寧に取り組めたことがよかったと思います。

 DXを進めるためには人材育成だけでなく、トータルでの取り組みが必要です。人間はAI(人工知能)ではありませんので育成したからといって期待通りに動いてくれるとは限りません。評価制度や、サンドボックスのようなIT技術をトライアルできる環境など、広い視野から必要なものを用意しマインドセットを含めた幅広い支援を行っていきます。

DX推進にかかる人材関連の取り組み全体スキーム
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