化粧品製造販売のポーラ・オルビスグループが大規模BPRを実施 グループ共通の会計・経営管理システムを構築し、シナジーの最大化を図る化粧品製造販売のポーラ・オルビスグループが大規模BPRを実施 グループ共通の会計・経営管理システムを構築し、シナジーの最大化を図る

提供:日本IBM

左より土屋衛史氏、樋口 伸氏、井手恵子氏、小嶋 基氏

化粧品製造販売のポーラ・オルビスグループが大規模なBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を実施した。10あるブランドごとに異なっていた会計・経営管理情報の収集プロセスを統一化し、グループとしての経営管理体制を強化。その狙いはさらなるグローバル化、マルチブランド化に向けて定型業務を徹底的に効率化し、会計と経営管理を戦略業務へと転換することだ。そのために選択したのが、SaaS(Software as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)などを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」の活用だった。

会計業務を効率化し、戦略的な経営管理に注力

 1929年(昭和4年)に創業したポーラ・オルビスグループは、2029年に創業100周年を迎える。静岡県発祥の化粧品製造販売を中心とした企業グループで、現在は10のブランドを国内外で展開。基幹ブランドはカウンセリング販売が中心でハイプレステージブランドの「POLA」とミドル価格帯でEC・通信販売中心の「ORBIS」で、そのほかにもオーガニック、敏感肌向けなどそれぞれが特徴を持ったブランドを展開している。

樋口 伸氏
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
総合企画室 課長
樋口 伸

 「それぞれ個性が際立ったブランドだけにマーケティング面でも独立性が強く、それが経営管理面にも影響していました」とポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 課長の樋口伸氏は語る。各ブランドが独自のルールに基づいて会計・経営管理業務を行う傾向が強く、グループとしての経営管理は手作業での集計に頼っていた。

 上場企業である同社グループでは連結決算が行われていたが、それは制度会計上の数字を集計したものが中心であり、グループとしての事業方針を判断するための管理会計情報としては十分でない部分も多かった。「手作業で集計されていたために時間や手間がかかり、それぞれの項目の定義もバラバラで、グループの経営管理に活用しづらいものでした」と樋口氏は当時の状況を振り返る。

図:会計・経営管理BPR-PJの背景と目指す姿
土屋衛史氏
株式会社ポーラ・オルビスホールディングス
グループデジタルソリューションセンター 所長
土屋衛史

 こうした状況を打破するべく2018年頃から会計業務の標準化とシステムの高度化に向けた検討が始まった。ルーティン業務である会計業務を標準化して自動化することで徹底的な効率化を図り、数字の集計中心の経営管理を分析と戦略提案中心のものに変えていくことが目標だった。

 その実現に向けてシステムの導入とそれを支援するパートナーの選定が行われた。同社のグループデジタルソリューションセンター所長の土屋衛史氏は「製品軸、導入支援軸から幅広く検討したいと考え、9社から新システムの提案をいただきました」と語る。

SaaSシステムを活用して業務の標準化を目指す

 新システムを提案した9社の中でひときわ異彩を放っていたのが日本IBMの提案だった。当時はまだ事例が少なかったSaaS型のERPと、統合マスタ管理を導入して、それらを連結決算プラットフォーム、経営管理プラットフォームとクラウド上で連携させるというものだった。

井手恵子氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
パートナー
井手恵子

 SaaS活用を提案した日本 IBMコンサルティング事業本部 パートナーの井手恵子氏は「複数社同時にシステムを導入するプロジェクトだけに、SaaSのほうが標準化を進めやすいと考えました。提案した財務会計システムのOracle ERP Cloudは、いち早く着手していて実績もありました。また、管理連結のシステムもSaaSだったので、最適な組み合わせになると判断しました」と語る。

 「SaaS中心の提案には共感できました。もともと自前でサーバーを立ててその上でアプリケーションを稼働させてきました。そのためパッケージとしては同じソフトウェアを各社ごとにカスタマイズして使っているという状況になっていたのです。SaaSであればハードウェアは不要で、標準化も進めやすいと思いました」と土屋氏は当時を振り返る。

 SaaSによる標準化への期待、製品面での実績の多さ、そしてグローバルでの導入実績などが評価されて日本IBMがパートナーとして選定され、2019年初頭に新システム導入プロジェクトがスタートした。

 ポーラ・オルビスホールディングスでは、経営企画、財務、ITの各部門を中心にプロジェクトメンバーが集められ、事業会社側も同様の体制を整えた。50人以上のメンバーが核となり、必要に応じて関連するメンバーに協力してもらうことでプロジェクトが運営されていくことになる。

大きな課題となった統合マスタの粒度の設定

 プロジェクトがスタートして半年後の2019年7月には大枠となる要件定義が策定され、8月からは会計システム、経営管理システムの実装段階に入った。その過程で大きな問題になったのが、11月頃から着手した新システム全体の肝となる統合マスタの構築だった。

 経営管理システムは新規に導入するが、会計システムや事業運営のための基幹システムはすでに各社で利用されている。そのデータを取り込んで連結して経営管理に活用できるようにするためには、グループ統一の統合マスタを構築し、各社からの情報と自動でマッピングしていく必要がある。問題はその粒度をどの程度にするかだ。

小嶋 基氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
シニア・マネージング・コンサルタント
小嶋 基

 日本IBMのIBMコンサルティング事業本部 シニア・マネージング・コンサルタントの小嶋基氏は、「各社バラバラのデータ項目をビジネスのスピードを落とすことなく紐付けてマッピングしていくことが条件でした。ただ、経営管理に求められる項目を増やしてしまうと扱うデータが多くなってパフォーマンスが落ちてしまうことになります」と難しさを話す。

 結果として13のマスタ項目が設定され、レコード数は40万件に絞り込まれた。樋口氏は「当初はレベル感が分かりませんでした。自分たちとしてはできるだけ細かく設定したいと考えていましたが、データ量が膨大になりすぎて運用面で問題が起きる可能性があるので、日本IBMと相談しながら落としどころを探った結果です」と語る。

 統合マスタが構築されたことでグループの共通基盤がつくられ、2021年8月から経営管理システムが先行して稼働し、2022年1月からは会計システムも正式に稼働している。各社各様の基幹システムがあり、プラットフォームもSaaS、IaaSとまさにハイブリッドだが、それをSaaSに集めて連携している状況だ。

データに基づく経営管理でグループとしてのシナジーを

 樋口氏はこれまでの成果を2つ挙げる。人手で行われていた細かい集計作業が自動化されたことと、データを活用する基盤ができたことだ。比較するための過去のデータがない中で、今年度の下半期から蓄積されたデータを経営会議向けの報告資料に活用する試みが予定されている。

 土屋氏は「今回はプロジェクトの規模が大きく、社内の統制や推進が難しい中でここまで進められたのはグループ各社と日本IBMの協力があったからです。日本IBMの方には業務の中身にも踏み込んで理解していただき、グループ各社にしっかりと説明するうえで多大な協力をいただきました。また、プロジェクトに参画いただいた一人ひとりの能力も高く、的確なアドバイスをいただくことができました」と語る。

 新型コロナウイルス禍の前にスタートしたことで、フェイス・ツー・フェイスで討議する時間が持てたことも大きかった。樋口氏も「日本IBMの方たちと業務側の信頼関係ができていたうえで、オンラインで詳細を詰めることができました。これによりプロジェクト全体を効率的に進めることができたのではないかと考えています」と話す。

 同社グループは2022年2月に長期の経営計画として「VISION 2029」を発表している。そこでは多様化する「美」の価値観に応えるために、化粧品を中心としたグループの既存事業を強化するとともに、新たな成長事業や領域へ投資し、個性的な事業の集合体になることが唱えられている。

 「今後ますます新たなブランドや事業が増えていく予定です。システムを活用してそれぞれのブランドを支援することでグループのシナジーを高めることができます。そこではデータに基づくコミュニケーションが重要です」と樋口氏。今回、グループ共通の経営管理基盤ができたことで、新たなグループ経営がスタートしたと言えるのではないだろうか。

図:2029年のありたい姿-VISION 2029-
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