提供:日本IBM

りそなグループが描く金融の将来像とは アジャイル開発でDXを推進、地銀・企業とも連携し“よりよいサービス”を提供

株式会社りそなホールディングス 執行役 DX企画部・カスタマーサクセス部・データサイエンス部担当 伊佐真一郎氏 × 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業部 担当 孫工裕史氏

りそなグループのデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が加速している。その中心にあるのは2018年にリリースしたスマホアプリ「りそなグループアプリ」だ。利用者数は2020年にATMを上回り、現在のダウンロード数は480万件を超える。外貨預金の口座開設の9割近くがスマホで行われているなどDX面での貢献も大きい。同グループのDXと将来構想について、りそなホールディングス 執行役の伊佐真一郎氏と日本IBM 執行役員の孫工裕史氏に話を聞いた。

スマホアプリを中心に
デジタルチャネルを再設計

 2018年、りそなグループはこれまでのデジタル化戦略を大きく転換した。スマートフォンを中心にデジタルチャネルを再設計することに舵を切ったのである。同グループのDX戦略を担ってきた執行役の伊佐真一郎氏は「スマホが急速に普及することは分かっていました。そこでデジタルチャネルの一丁目一番地にスマホアプリを据えました」と語る。

伊佐真一郎氏
株式会社りそなホールディングス
執行役 DX企画部・カスタマーサクセス部・データサイエンス部担当
伊佐真一郎

 同グループがデジタル戦略の重点テーマに掲げるのは、会えない顧客を含めた「お客さま接点の拡充」と「お客さま層の拡大」、そして「マーケティングの高度化」である。スマホアプリというデジタルチャネルを通してより多くの顧客とつながり、そこから得られたデータを分析して最適な提案につなげていくのが狙いだ。

 そのために開発された「りそなグループアプリ」は単なるアプリではなく、個人マーケット向けの戦略商品として位置付けられた。「スマホがあなたの銀行に」というスローガンのもと、口座残高や入出金明細、振り込みなどの様々な取り引きが完結できる機能を提供し、“銀行らしくない使い勝手のよいアプリ”として高い評価を受けてきた。

 2年前の2020年にはアプリの利用者がATMの利用者を超え、同グループ最大のチャネルにまで急成長。リリースから4年で480万ダウンロードを記録している。それだけではなく、外貨預金の口座開設の88%がスマホで行われるなどDXの観点からも大きく貢献している。

 その背景にあるのが、継続的な改善でアプリの完成度を高めていくアジャイル開発だ。「4年間のアップデートは120回を超え、小さなアプリですが改善項目数は870以上に上ります。こうした継続的な改善活動が高い支持につながっていると考えています」と伊佐氏は語る。

DXの実践で成果を上げる
ための
3つのポイント

 同グループのスマホアプリを中心としたデジタルチャネルの再設計は目指していた世界に近づき、大きな成果を上げつつある。その成功要因はどこにあるのだろうか。伊佐氏はこれまでの取り組みを振り返り、DXの実践で重視してきた3つのポイントを挙げる。

 1つめは「Nothing is Perfect」という考え方だ。「これまで銀行はできるだけ完璧なものを提供することを目標にしてきましたが、完璧なものはないという前提でアプリを提供し、すべての面で改善と改革を続け、PDCAサイクルを早く回すことにこだわりました」と伊佐氏は語る。アジャイル開発的なアプローチをあらゆる要素に取り入れていったという見方もできる。

 2つめは“ものづくり”である。ものづくりではいろいろな部品を使って組み上げていく。部品そのものの質だけでなく、組み上げ方次第で製品も変わってくる。伊佐氏は「町工場でものをつくり上げていくように、泥臭く繰り返しながらつくり上げてきました」と話す。目指してきたのは、よりよいものを提供していくことだ。

 そして3つめに挙げるのが「三位一体モデル」である。具体的にはスマホアプリという「体」にあたる顧客接点の連動だけを追求していくのではなく、施策間の整合性を図る「心」にあたる戦略の共有と、「技」にあたるノウハウや好事例の共有の「心技体」の三位一体を図ることだ。

 「3つが一体となって運営されることで、初めて価値を伝えることができます。チャネルだけにこだわるのではなく、3つのポイントを確認しながら検討を繰り返してきました」と伊佐氏は語る。この三位一体が実現できていることが成果につながっているのである。

三位一体モデル

IBMのサービスを利用して
プラットフォームを構築

 同グループでは、オープン・イノベーションによってさらなる成果を目指す。その基盤となるのが「金融デジタルプラットフォーム」だ。中心にデジタルバンキング基盤があり、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)連携で顧客に多種多彩なサービスを提供する一方で、地域金融機関や一般企業、地方自治体などに基盤を提供していく。そこでは同グループもいち利用企業として位置付けられる。

金融デジタルプラットフォーム

 「カスタマージャーニーを支えるすべてのサービスを銀行単独で提供することはできません。プラットフォームを介してつながっていくことでよりよいサービスを実現していきます」と伊佐氏は語る。この金融プラットフォームの一部分でもある「りそなグループアプリ」で利用されているのが、IBMが提供する金融サービス向け「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」である。

 DSPは金融サービスに必要な機能をクラウド上でオープンに利用するためのプラットフォームで、①業務マイクロサービス(API)、②基幹系連携機能(バックエンドアダプター)、③DSP基盤(マネージドサービス)の3つの構成から成り立っている。

 日本IBM 執行役員の孫工裕史氏は「DSPは金融サービス向けに提供されている共通のソリューションで、開発スピードを3割向上させ、コストを4割削減したという実績を持っています。このDSPを利用することにより、金融機関がDXを進める上でのシステム面での制約、コスト面での制約を取り除くことを目的としています」と話す。2022年3月末時点で、すでに27の金融機関が利用し、178のAPIが提供されている。

孫工裕史氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員 IBMコンサルティング事業本部 金融サービス事業部 担当
孫工裕史

 りそなグループはこのDSPの上にアプリ連携基盤を構築し、地方銀行に向けてスマホアプリの提供を開始している。伊佐氏は「IBMのデジタル基盤は柔軟性が高く、単なるアプリの提供にとどまらない三位一体での価値の提供に向いています」と評価する。

金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)

金融DXのキーワードは
オープン・イノベーション

 同グループはこれまでも日本IBMと協業してDXに取り組んできた。伊佐氏は「日本IBMは大切なパートナーです。アジャイル開発に本格的に取り組むのは初めてで、日本IBMに研修や合宿などでサポートしてもらい、一緒に考えながらものづくりの精神で開発に取り組んできました」と語る。

 オープン・イノベーションの共創拠点である「りそなガレージ」も協業の1つだ。日本IBMの支援を受けながら、アジャイル開発やデザイン思考を活用した共創に取り組む。「実際に手を動かす場をつくり出し、そのOJTはDX人材の育成にも役立っています」と伊佐氏は話す。

 そんな両社がDX領域でさらなる一歩を踏み出したのが、2022年4月1日の両社および株式会社エヌ・ティ・ティ・データの合弁会社であるFineBASE株式会社の設立だ。金融デジタルプラットフォームへの参画者を開拓し、情報収集および市場調査を行い、多くの企業や団体が集まるプラットフォームの実現を目指す。

DSPで実現する金融デジタルソリューション連携

 「金融機関を取り巻く環境は、ますます変化が激しくなっていくでしょう。1社では求められるサービスを完結できません。お客さまによりよいサービスを提供するために、皆さんで集まり、一緒に考えていきましょう」と伊佐氏は呼びかける。

 こうした動きを日本IBMとしても積極的に支援していく。孫工氏は「一昨年、IBMはオープン・ソーシング戦略フレームワークを発表し、それを具現化するDSPとともに新サービスの創出やビジネスモデルの変革など金融機関のDXを支援しています。ぜひ、お声がけください」と話す。今後、両社のタッグがどのような金融DXを生み出すのか注目していきたい。

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