進化する企業未来 SDGsやメタバースなどサステナビリティー経営を追求するサンリオの挑戦

【対談】サンリオエンターテイメント 小巻亜矢氏×日本IBM 加藤洋氏

提供:日本IBM

エンターテイメント業界とIT業界という脈絡がなさそうに見える業界でも、共通する重要な経営課題がある。それがSDGs(持続可能な開発目標)の根底にあるサステナビリティー(持続可能性)の追求である。SDGsを企業経営にどう位置付け、どのような取り組みをしていくべきか。サンリオピューロランドを運営するサンリオエンターテイメント代表取締役社長の小巻亜矢氏と、日本IBM 専務執行役員の加藤洋氏がSDGsへの取り組みとその位置付け、今後の展開などについて話し合った。

継続的な成長には変革が求められる

サンリオピューロランドは2020年12月に開業30周年を迎えられたそうですね。おめでとうございます。

ありがとうございます。サンリオ自身も2020年に創立60周年を迎えました。サンリオというとキャラクタービジネスのイメージが強いですが、最初は花やいちごの柄をつけたプロダクト販売をしていました。創業者である会長が「世界中の人たちに仲よくしてほしい」という想いで、モノに贈り物にしたくなるようなKAWAII付加価値をつけたソーシャルコミュニケーションビジネスを始めたのがきっかけです。

小巻亜矢氏
サンリオエンターテイメント
代表取締役社長
小巻亜矢

今のキャラクターたちは、「かわいいものを介せば世界中がみんななかよくなれる」と考える自社のデザイナーたちの手によって生まれました。そして、プロダクトや映画、出版、グリーティングカードなどでソーシャルコミュニケーションビジネスを展開する中で、1990年にサンリオの世界観を伝えるライブエンターテイメントの施設としてつくられたのがサンリオピューロランドです。

1980年代から多くのテーマパークが誕生しましたが、残念ながら閉鎖してしまった施設もありますね。

加藤洋氏
日本アイ・ビーエム株式会社
専務執行役員
IBMコンサルティング事業本部長
マネージング・パートナー
加藤洋

バブルがはじけてリーマン・ショックがあり、東日本大震災が起きるなど厳しい時代が続きました。しかし、チャンスも潜んでいたのです。“インスタ映え”に象徴されるように、お客様が宣伝をしてくれるSNSの広がりです。

ターゲット層でもある若い女性社員の意見を取り入れ、SNSを意識したコンテンツをそろえることで、業績は2015年以降急速に回復しました。ITの進化によってデータを分析することですぐにお客様の反応がわかるようになり、それを見ながら新しいことに取り組めたことも大きかったと思います。

「幸せ」を感じられるキャラクターをつくり出すだけではなく、マーケティングデータに基づいてビジネスチャンスを見いだし、積極的に変革に取り組まれてきたことは素晴らしいですね。

お話をお聞きしてサンリオエンターテイメントとIBMは似ている部分が多いと思いました。IBMの初代社長であるトーマス・J・ワトソンは「良き企業市民たれ(Be a good corporate citizen)」という言葉を残しています。創業時から利益を上げるだけでなく、社会貢献をすることを大切にして企業市民活動を支援する制度を整えてきました。

また、企業変革にも積極的に取り組みました。110年の歴史を振り返ると、ハードウェアビジネスからサービスビジネスにシフトし、2021年には主力事業の一つであったシステム運用の部門を分社化しました。今は私が担当するコンサルティングとシステム開発の部門もリブランドし強化しています。常に変革を実行してきました。

加藤洋氏、小巻亜矢氏

SDGsをコアとしたサステナビリティー

IBMはSDGsにも積極的に取り組んできました。1971年に環境ポリシーを発表して以来、50年にわたってサステナビリティーを重視し、環境保護に積極的に取り組み、リーダーシップを発揮してきました。さらにIBMの社内という視点ですと、男女が平等に働ける環境を整備してきました。今では役員の約23%、部下を持つ管理職の約18%は女性ですし、新卒の半数も女性です。もちろん人種、学歴も問いません。

ジェンダーや貧困、教育などの課題を解決するというSDGsの掲げるゴールと私たちの事業は親和性があり、何かをすべきとは思っていました。ただ、それは自分たちだけでできるものではありません。多くの人の正しい理解と横のつながりが必要です。できる限り産官民学のつながりをつくりながら実施したいと考えてきました。

小巻亜矢氏
「今はSDGsを自社の経営戦略のコアに位置付け、
企業ブランディングに結びつけていこうと活動しています」

2018年に、サンリオピューロランドでDiversity & Inclusionのメッセージ性の高いショーを2つ、国連の方に見ていただく機会がありました。それを機にハローキティが国連公認のSDGs推進パートナーとなり、協働でSDGsを推進していくことになりました。今はSDGsを自社の経営戦略のコアに位置付け、企業ブランディングに結びつけていこうと活動しています。

SGDsと言っても「何をしたらいいのかわからない」というお客様もいます。例えばサンリオエンターテイメント様が優先的に取り組まれようとしている「質の高い教育をみんなに」の領域ですと、IBMがプラットフォームの役割を果たしてほしいという要望もあり、外部向けの様々な活動に取り組んでいます。関西学院大学と共同開発した大学・企業・自治体向けのAI(人工知能)活用人材育成プログラム、ビジネスに必要なスキルやIT知識の習得を通して再就職を支援するSkillsBuild、高校と短大などの2年制カレッジを連結した5年間で教育行政・学校・企業が協働してIT人材育成に取り組むP-TECH、インドで行っているSTEM for Girlsなど、当社が得意とする教育の領域を中心に積極的な支援を行っています。このように具体的な取り組みが可視化されると、お客様もイメージが湧いて、具体的な施策につなげやすいのかもしれません。そのためにも私たちの取り組みを、もっと社会に向けて発信していく必要があるかもしれませんね。

つながることで新しい価値が生まれる

多様なつながりと創る点では、今、私たちが注力しているのはVR(仮想現実)などを駆使した仮想世界「メタバース」によるエンターテイメントです。私たちは新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて真っ先に一時閉館することを決断しました。しかし、売り上げは激減し大きなダメージを受けました。

そこで、たとえ来場していただけなくても成り立つビジネスを模索し、コロナ禍でスピードアップして開発したのがメタバースによるエンターテイメントです。キャラクターにはアイコンとしての役割もあり、メンタルの自己表現も可能です。2015年にSNS上でアイコンをカスタマイズできるサービス「ちゃんりお」を無料で提供したことがあったのですが、あっという間に拡散しインフルエンサーの力を体感しました。これからもますますデジタルが日常やエンターテイメントを大きく変えていくと確信しています。

2021年12月には初のバーチャル音楽フェス「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」を開催しました。バーチャルなサンリオピューロランドは地下5階まで拡張され、無料フロアのほか有料フロアも設けて、空間のライセンスモデルにも挑戦しています。

SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland
2021年12月に開催した初のバーチャル音楽フェス「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」
© 2021 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN  著作 株式会社サンリオ

若い世代はバーチャル空間に抵抗がなく、自己表現の場として活用しやすい傾向があります。ネットワークでつながる「明るい裏社会」みたいな場所をつくり、次世代を担う若い人たちがアイデアを創発し、それが社会課題の解決に役立つのではないかと思います。マネタイズの部分だけでなく、いかに社会課題に、事業として取り組むか、これは企業の責任ではないでしょうか。

小巻亜矢氏
「次世代を担う若い人たちからアイデアを引き出し、
社会課題の解決に役立てたいと思います」

今の学生たちは、変化の速い不確実な時代を生きてきました。そのため、利益を上げているかどうかよりも、コアの部分にサステナビリティーがあるかどうかを見極めようとしています。それに応えられる企業にならなければ将来の成長はありません。

未来を切り開くためのコラボレーションを

サンリオエンターテイメントには多くの人を引きつけるブランドイメージがあり、IBMには現実の課題を解決するためのソリューションがあります。そして、つながる世界をつくり出そうという発想も似ています。コラボレーションを広げることができそうですね。

IBMコンサルティングのリブランドのコアは企業や世界がつながるバーチャル・エンタープライズです。テクノロジーによってビジネスフローをつなぎ、途切れないエコシステムがサステナビリティーを高めていくことになると考えています。

加藤洋氏
「サンリオエンターテイメントには多くの人を引きつける
ブランドイメージがあり、IBMには現実の課題を
解決するためのソリューションがあります」

そうですね。教えていただきたいことがたくさんあります。つながりやすい時代になったことで、可能性が大きく広がっていることは感覚として理解できています。企業同士がつながることでサービスの設計もしやすくなります。メタバースのエンターテイメントでもそういうイメージを持っています。

ただ、やりたいことはあってもふわりとしている部分も多く、それが可視化できるといいのではないかといつも考えています。

IBMにはそれを具現化するツールがあります。企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進する「IBM Garage」です。デジタル思考、顧客起点、アジャイル開発を合わせた手法で、アイデアを議論しながらすぐその横でモックアップ(試作)をつくり、何をすべきかを明確にしていくものです。

実は10年ほど前から温めている壮大なアイデアがあるんです。それをIBM Garageで具現化できたら素晴らしいですね。ぜひ検討させていただきます。どんな未来が見えてくるのか、今からワクワクしています。

加藤洋氏、小巻亜矢氏
ページトップへ