最大の課題は「サステナビリティー」、CEOの68%が回答 サステナビリティーで成果を上げるにはサプライチェーンの高度化が鍵

提供:日本IBM

IBMが毎年実施している世界の経営者へのインタビュー調査「CEOスタディ 2022」で顕著な変化が見られた。「自社に影響を与える外部要因の最優先課題」で「サステナビリティー(持続可能性)」が最重要課題に浮上した。企業におけるサステナビリティーの取り組みに対する取締役や投資家、パートナー企業からのプレッシャーも強い。日本企業はこの状況をどう捉え、どのように対応していけばいいのか。サステナビリティーに取り組むためのアプローチや対策について、IBMコンサルティング事業本部でサプライチェーンのリーダーを務める志田光洋氏と、CEOスタディ日本語版の編集を担当した小野真理氏に話を伺った。

サステナビリティーを阻む
システムのサイロ化

 IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value(IBV)が毎年実施しているグローバル経営層スタディ「CEOスタディ」は、世界40カ国超、28業界におよぶ約3000人のCEO(最高経営責任者)へのインタビューをもとにまとめられた最大級の調査だ。そこから世界の経営者たちが重視する経営課題が見えてくる。

 「今年の最大のトピックスはサステナビリティーが自社に影響を与える外部要因の最優先課題として認識されるようになったことです」と日本IBMの小野真理氏は話す。小野氏はIBMコンサルティング事業本部のサプライチェーン・トランスフォーメーション所属で、CEOスタディの日本語版の編集を担当した。

小野 真理氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
サプライチェーン・トランスフォーメーション
パートナー
小野 真理

 「日本のCEOの68%は最も大きな課題としてサステナビリティーを挙げています。これは世界の経営者の平均よりも17%も多い数字です」と小野氏は語る。それだけ日本のCEOはサステナビリティーへの関心が高く、経営課題として重視していることになる。

 CEOの多くはサステナビリティーを好機として捉えているが、推進していくうえでの課題もある。57%が「ROI(投資利益率)や経済的なメリットが不明確」であることを課題に挙げ、44%が「データからもインサイトが不足」を挙げている。これはグローバルでも同様の傾向が見られる。

 原因として考えられるのが、システムがサイロ化していてデータによる可視化ができていないことだ。可視化ができなければ、投資対効果が分からない。小野氏は「企業内の活動だけではサステナビリティーの効果は把握できません。サプライチェーン全体での可視化が必要です」と指摘する。

図:今後2、3年で企業にとって最も大きな課題と思われるものは
図:サステナビリティー目標を達成する上での企業にとっての最大の課題

サプライチェーンの変革は
サステナビリティーに通じる

 20年近くにわたって製造・流通業のサプライチェーン・マネジメントの変革を支援してきた日本IBMのIBMコンサルティング事業本部 サプライチェーン・トランスフォーメーションの志田光洋氏は「突き詰めるとサプライチェーンとサステナビリティーはやることは同じです」と語る。

志田 光洋氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
サプライチェーン・トランスフォーメーション
パートナー
志田 光洋

 サステナビリティーの効果を見るためには、川上から川下までの状況を一気通貫で把握する必要がある。これはサプライチェーンでも同じだ。製造業において、部品の調達から製造、流通までのプロセスを把握することは重要である。このプロセスをリアルタイムで知ることは、サプライチェーンの寸断を回避することにもなる。

 「サプライチェーンのオペレーションを重視するとサステナビリティーの比重が下がると考えがちですが、最適化を図ろうとすればバリューチェーン全体でのデータの統合が不可欠です。ビジネスモデルがモノからサービスへと変わっている今、サプライチェーン全体でのデジタルツイン化が両側面から求められているのです」(志田氏)。

 ただし、バリューチェーン全体の統合は一朝一夕ではできない。志田氏は「個別のDX(デジタル変革)を進めていきながら、データレイクのようなデータをためる大きな器を用意することで目指すところに行き着くはずです。サプライチェーンだけではなく、事業全体でのデータ利活用、ROIを多面的に捉えることがポイントです」と語る。

 大事なのはビジネスモデル全体でサステナビリティーを考え、サプライチェーンを見ることだ。「Reduce」「Reuse」「Recycle」の3Rで捉えられる循環型エコノミーも、サプライチェーンと密接に関係してくる。

図:サステナブルSCMの考え方

サプライチェーンの高度化が
事業の持続性を可能に

 日本企業がサステナビリティーに貢献できるサプライチェーンを実現するには何が必要になるのか。志田氏は「世の中で起きていることはすべてサプライチェーンにつながります。オペレーションを重視するだけでなく、ビジネスの観点からサプライチェーンを語ることが重要です」と話す。

 IBM自身がこうした観点からグローバルにサプライチェーンの高度化を実現した製造業でもある。小野氏は「IBMはメーカーという側面も持っています。IBM自身、サプライチェーンのデジタル化に取り組み、データで今起きていることを把握し、AI(人工知能)を活用してどこにリスクがあるのかをリアルタイムに分析し、最適なアクションにつなげています」と話す。

小野 真理氏
「IBMはメーカーという側面も持っています。
サプライチェーンのデジタル化に取り組み、
最適なアクションにつなげています」
(小野氏)

 IBMのサプライチェーンの高度化は段階的に進められてきた。まず業務的にインテグレーションし、システムを統合してデータで横串を通して全体の透明性を確立し、AIを駆使したユーザー・インターフェースで可視化を図っている。データをもとにしたアクションを取ることで自律的なサプライチェーンを実現しているのだ。

 IBMはコントロール・タワーによってサプライチェーン全体を可視化し、AIがデータを分析して対応策を示唆する。AIは過去のデータから学習してコストや納期などからKPI(重要業績評価指標)が設定され、どこにどんなリスクがあるのか、対応策としてどんな方法が考えられるのかをリアルタイムで提示する。

 「パンデミック(世界的大流行)が広がる中でも、当社の製品は納期の遅れを回避できました。それが可能だったのは、こうしたデータ統合のされたうえで全体最適サプライチェーン・マネジメントする仕組みができていたからです。部品調達が遅れたときに、サステナビリティーとビジネスの両面からの選択肢が複数ある中で、データに基づいた最適な判断を下せるシステムと業務、体制が整っていたために、即時に対応することができました」と小野氏は語る。

経営者に覚悟があれば
競争力は強化できる

 日本企業はこれまで現場の努力に頼ってきた側面が強い。しかし、マネジメントの対象がバリューチェーン全体へと広がりつつある今、それだけでは限界がある。計画から現状把握、トラブルの発生などすべてをデータで把握し、リアルタイムに分析し、オプションを検討する仕組み、そして、それを統括する強いリーダーシップが必要になる。

 IBMでは自社の実績を踏まえて企業のサプライチェーンの高度化を支援している。志田氏は「まず企業内のシステムを統合してデータの透明性を確保します。それに基づいてサプライチェーンを再構築してデータをリアルタイムに入手できるようにし、そこから他社とのコラボレーションを進めて変化に強いサプライチェーンにしていきます。サプライチェーンの変革に、これまで以上の強いリーダーシップが求められる時代になりました」と話す。

志田 光洋氏
「データをリアルタイムに入手できるようにし、
そこから他社とのコラボレーションを進めて
変化に強いサプライチェーンにしていきます」
(志田氏)

 ただし、状況は各社によって異なり、目指すビジネスモデルも変わってくる。それぞれに合わせたステップを示す必要がある。そのために日本IBMでは「成熟度診断」を実施している。現状を把握したうえで必要なアクションを支援していく。サプライチェーン変革のロードマップを作成することで、変革実現の責務を担うリーダーと二人三脚での実現を目指す。

 「当社の強みは診断から構想策定、データ基盤の構築まで統合的に支援できることが強みです」と小野氏は語る。個別領域におけるブロックチェーンを活用したシステム構築などの技術力はもちろん、全体最適化やデータ統合を実現するうえで必要になるプロジェクト推進力、幅の広い専門領域、各業界の業務知識などあらゆる側面からの支援が期待できる。

 今年の「CEOスタディ」の副題は「変革を起こす覚悟」。サプライチェーン変革には経営者の強い意志が必要だ。小野氏は「カイゼンで実績を残してきた日本企業はサステナビリティーでも高いポテンシャルを持っています。確実に競争力を強化できます」と日本企業にエールを贈る。日本企業には覚悟を持って一歩を踏み出すことが期待されている。

図:サステナブルSCM オファリング&ソリューション全体像