テプコシステムズがユーザー企業協働による価値共創でDXを推進 分散クラウドで進化したコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube」の新たな価値とはテプコシステムズがユーザー企業協働による価値共創でDXを推進 分散クラウドで進化したコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube」の新たな価値とは

提供:日本IBM

東京電力グループ全体のITインフラを企画・構築・運営するテプコシステムズでは、電力事業のITや、工場やプラント、ビルなどの制御機器を制御・運用するOT(Operational Technology)などの基幹システムをセキュアかつ安全に稼働させることができるコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube(テプキューブ)」を提供。現在はIBMとの共創で“分散クラウド”へと進化し、新たな価値を生み出そうとしている。そこからはユーザー企業とITやベンダーの新たな関係性も見えてきた。

シェアによって価値を生む
コミュニティ型クラウド

 デジタル技術が世の中全体を大きく変えている中、社会インフラを担う東京電力グループでもデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進んでいる。デジタル技術によって脱炭素や防災を実現し、同時に“稼ぐ力”を強化することを目指す。

 同社グループの最大の特徴は、事業規模の大きさにある。電力をデジタルで計測するスマートメーターは3000万台、電柱は600万本もある。この膨大な施設・設備がもたらすデータ量もまた膨大だ。「これらのデータをどう活用していくのかという課題が最近実行フェーズに入ってきました」と同社グループ全体のITインフラの企画・構築・運用を担うテプコシステムズ執行役員兼システム企画室クラウド事業推進部長の中嶋好文氏は語る。

中嶋好文氏
株式会社テプコシステムズ
執行役員兼システム企画室
クラウド事業推進部長
中嶋好文

 ただ、データの中には機微情報も多く含まれており、その活用にあたってはITインフラがセキュアで安全であることが求められる。この命題に対応するために同社が提供しているのが、コミュニティ型クラウドサービス「TEPcube」である。電力事業のIT、OTの運営で培ってきた安全性をクラウドで実現している。

TEPcube 3つの特長
(出所)TEPcube テプキューブ - テプコシステムズ
http://www.tepsys.co.jp/service/tepcube.html

 TEPcubeが目指しているのは、“ユーザー企業協働による価値共創”だ。中嶋氏は「東京電力グループでデータ活用モデルをつくり、同じような課題を持つユーティリティー企業に横展開し、悩みごとのシェアからデータのシェア、運用のシェア、調達のシェアなど、ユーザー企業同士のシェアを実現していきたい」と話す。

 2020年4月から稼働を開始したTEPcubeは当初からオンプレミス(自社運用)やパブリッククラウド、プライベートクラウドなどが混在したクラウド環境「ハイブリッドクラウド」を実現し、高信頼で高セキュリティーなIaaS(Infrastructure as a Service)としてスタート。その後、電力事業に特化した機能をベンダーやSIerと共創しながら、PaaS(Platform as a Service)化、SaaS(Software as a Service)化して機能を付加する「On TEPcube戦略」を推進すべく舵を切ってきた。

共通の悩みを解消する
PaaS、SaaSの提供を

 2022年4月には、TEPcube上で動画プラットフォームサービスの提供を開始した。高齢化が進み、人材不足に直面する中で、ノウハウを動画に収めて業務改善や教育研修などに利用するケースが増えている。しかし、そこには機密性の高い情報が含まれていることもあり、パブリッククラウド上に置いても機密性が担保できるか悩ましいところだ。

 「そこでオンプレミス相当のセキュリティーレベルを持つTEPcube上に動画配信用のプラットフォームを構築し、東京電力の事業部門に提供しています。そこでは、作成した動画のコンテストが行われるなど盛り上がっています。今後は同じ悩みを持つところに横展開し、動画自体をシェアするようなこともできればと考えています」と同社のシステム企画室クラウド事業推進部クラウド事業推進グループマネージャーの髙橋悠二氏は話す。

髙橋悠二氏
株式会社テプコシステムズ
システム企画室 クラウド事業推進部
クラウド事業推進グループ マネージャー
髙橋悠二

 さらにTEPcubeではデータ活用の利便性向上にも踏み出した。同じくクラウド事業推進グループ マネージャーの田野倉良治氏は「クラウドサービスで提供されているアプリケーションを使ってTEPcube上にあるデータを活用したいと考えても、機微なデータを持ち出すことができないというジレンマがありました」と話す。

田野倉良治氏
株式会社テプコシステムズ
システム企画室 クラウド事業推進部
クラウド事業推進グループ マネージャー
田野倉良治

 この課題を解決したいと考えていたところに日本IBMから提案されたのが、分散クラウドを実現する「IBM Cloud Satellite」の導入だった。日本IBM テクノロジー事業本部 クラウド・プラットフォーム担当 執行役員の今野智宏氏は「2025年にはクラウドサービスの大半が分散クラウドになると見られています」と話す。

今野智宏氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部 クラウド・プラットフォーム担当
執行役員
今野智宏

 分散クラウドとは、従来のクラウドサービスに加えてオンプレミスやインターネットに接続されたエッジデバイスなどのすべての物理的なロケーションを統合するクラウドの形態で、いつでもどこでも一貫性のあるクラウド・コンピューティングを利用できるようにするものだ。

データを移行することなく
活用できる分散クラウド

 今野氏は「オンプレミスには機微な秘匿情報があり、すべてのデータをクラウドのデータセンターに移行するというのは現実的ではありません。データ量の問題もあります。一方で使いやすいクラウドサービスを使ってデータ活用をしたいというニーズもあります。IBM Cloud Satelliteであればそれを両立させることができます」と話す。

 IBM Cloud Satelliteは、データがどこにあってもIBM Cloudのアプリケーションを利用できる。データがある場所にアプリケーションが歩み寄ってくるイメージで、オンプレミスにあるデータを移行することなくAI(人工知能)などの最新の機能が活用できる。TEPcubeにデータを置いたままIBM Cloudのアプリケーションが利用できるのである。

 実証実験を担当した田野倉氏は「TEPcube上のデータをパブリッククラウドの操作感で利用でき、ユーザー管理やログ管理はIBM Cloudに連携されます。クラウドサービスを使うためにデータを移行させる必要がないので安心です」と印象を語る。

 そこにはアプリケーションの動作環境を仮想化し、プラットフォームを選ばずにアプリケーションを稼働させられるコンテナという技術が使われている。髙橋氏は「すべてがコンテナベースのサービスなので、運用が一元化されていてまったく手間がかかりません」と話す。

 また中嶋氏は「オンプレミスでアプリケーションをつくるとクラウドと別々になることが心配されますが、IBM Cloud Satelliteによってその心配はなくなりました。データをオンプレミスに置いたままIBMのノウハウやスキルをユーザーに提供できます」と語る。

ユーザーとITベンダーの
共創で新たな価値を

 ユーザー企業であるテプコシステムズがIBMのソリューションを取り入れることにより、サービスの価値を向上させ、ユーザーにその価値を提供していくという今回の共創モデルから見えてくるのは、デジタル時代におけるユーザー企業とITベンダーの関係性の変化である。一緒に課題解決にあたり、その成果を市場に提供していくというものだ。

 電力事業のような機微な情報の取り扱いには独自のノウハウが必要となる。それをユーザー企業が提供し、ITベンダーがデジタル技術を提供することによって同様のニーズを持つユーザー企業に向けてその価値を届けていく。金融業や製造業でも同様の共創モデルが生まれつつある。

 「データ活用の重要性は実感していますが、当社だけでできることは限られています。日本IBMと一緒に取り組むことで間口を広げることができます。当社グループも当社も、そして日本IBMも、皆がWin-Winの関係になれるのです」と中嶋氏は共創のメリットを語る。

 また今野氏は「東京電力品質のような業界特化型のITインフラはベンダーには提供できません。TEPcubeのような業界クラウドも今後のトップトレンドの1つです。当社の持っているノウハウやスキルでその品質向上に貢献していきます」とパートナーシップの重要性を語る。

 今後はTEPcubeとIBM Cloud Satelliteの組み合わせで、日本IBMが実施している「IBM Technology Showcase」のような実際の利用シーンに合わせたデモ展開なども含めて、プロモーションも共同で実施していくという。ユーザー企業とITベンダーの共創が生み出す価値に注目していきたい。

左より髙橋悠二氏、今野智宏氏、中嶋好文氏、田野倉良治氏