ヤマハ発動機が世界中の顧客とつながるDXで新たな価値創造 つながるアプリ「Y-Connect」のダウンロード数100万件超、ロイヤルティプログラムもスタートヤマハ発動機が世界中の顧客とつながるDXで新たな価値創造 つながるアプリ「Y-Connect」のダウンロード数100万件超、ロイヤルティプログラムもスタート

提供:日本IBM

デジタル変革(DX)で世界中の顧客と直接つながり、顧客同士のモビリティ体験を共有し、新たな価値創造につなげていく。そうしたプロジェクトにヤマハ発動機がチャレンジしている。顧客とつながるためのアプリのダウンロード数は100万件を超え、顧客に対する新たなロイヤルティプログラムもスタート。バイクやスクーターなどモーターサイクル(二輪車)の売り上げの9割以上がアジアを中心とした海外市場が占める同社は、世界中の顧客と直接つながることでどのような価値を創造しようとしているのか。同社のMCつながる推進グループの出野博昭氏と山田宗幸氏と、同社のDXを支援する日本IBM アソシエイト・パートナーの天野憲一氏に話を聞いた。

顧客とつながるために組織を1つに統合

 2020年7月、ヤマハ発動機はバイクやスクーターなどのモーターサイクルを手掛けるランドモビリティ事業本部の中に「MCつながる推進グループ」を発足させた。顧客とつながるコネクティビティの企画立案、モバイルアプリの開発、そしてデータの分析と活用の3つの機能を統合し、企画から開発、運用までを一気通貫で担うグループだ。

 同グループリーダーの出野博昭氏は「事業本部、IT本部など別々の組織にあったモーターサイクルのコネクティビティの機能を1つにまとめることで、スピーディーな対応と継続的なサービスの提供を実現することが狙いでした」と語る。

出野 博昭氏
ヤマハ発動機株式会社
ランドモビリティ事業本部 MC事業部
グローバルブランディング統括部
MCつながる推進グループ グループリーダー
出野 博昭

 同社がコネクティビティに注力する背景にあるのは、モーターサイクル市場の成熟と需要の伸び悩みにある。主戦場となってきた東南アジアでもモーターサイクルの需要は一巡し、多趣味化のフェーズに入っている。そこでは製品の機能だけではなく、どんな顧客体験が提供できるかが求められる。鍵になるのはモノからコトへどうシフトできるかだ。

 「今まではディーラー経由で製品を提供してきたため、メーカーと顧客は直接つながっていませんでした。それではコトに対するニーズが把握できません。デジタルを活用すれば顧客と直接つながり、新しい価値や感動を一緒に創造できると考えたのです」と同グループのグループリーダーの出野博昭氏は話す。

山田 宗幸氏
ヤマハ発動機株式会社
ランドモビリティ事業本部 MC事業本部
グローバルブランディング統括部
MCつながる推進グループ 主査
山田 宗幸

 同社のDXが本格的にスタートしたのはデジタル戦略部を設置した2018年頃から。AI(人工知能)やIoT(あらゆるモノがネットにつながる)を含むデジタル活用や、スマートフォンを利用したコネクテッドモーターサイクルの取り組みを推進してきた。モーターサイクルの利用データを収集するため、2020年に発売する新型スクーター「NMAX」にBluetooth対応のコントロールユニットの搭載を決定し、発売に合わせて顧客向けスマホアプリ「Yamaha Motorcycle Connect(Y-Connect)」を提供してきた。

 売り上げの4割を占めるインドネシアからY-Connectの提供をスタートし、現在は30カ国でサービスを提供。2022年6月に100万ダウンロードを達成した。

車両とアプリのデータで顧客体験と品質の向上を

 山田氏は「データ活用の用途は大きく2つ。お客様向けと社内向けです」と語る。利用者に提供されるY-Connectは、モーターサイクルに搭載されたコントロールユニットとBluetooth接続によって様々な機能が提供される。

 当初は走行データやエンジンの利用状況、故障の通知、最終駐車位置など安心感を確保するための車両データの提供から始まり、現在はライディング体験の共有などエンターテインメント性を意識した機能も追加されている。

 社内向けとしては、まず製品開発への活用が挙げられる。「スクーターから走行データを収集することにより、一人ひとりの利用状況が見えるようになりました。利用時間、利用エリア、利用速度などから、都市ごとの利用状況の違いやエンジンの回転数などを把握でき、次の開発の意思決定に利用できます」(山田氏)。

 またマーケティング活動にも利用できる。出野氏は「海外のディーラーと“データ”という共通言語をもとで会話ができるようになりました」とその成果を語る。地域ごとのリアルな利用状況を分析しながら現地のメンバーと一緒に戦略を練ることで一体感も醸成される。

 中古車も含めた全ユーザー向けにディーラーにおける購買行動や保守メンテナンス情報に基づいたサービスを提供する「My Yamaha Motor」と連動することにより、適切なタイミングで適切な顧客に必要な情報を提供できるようになったことも大きい。

 「インドネシアでは新車を購入した際、メンテナンス時に利用できるフリーサービスクーポンが4回分発行されています。購入約1年後、アプリを導入している人としていない人を比べると、アプリを導入していない人のクーポン使用率は2割なのに対し、アプリを導入している人は6割も利用しています」と山田氏はMy Yamaha Motorが顧客のロイヤルティ向上に寄与していると語る。

図:ヤマハ発動機のコネクティビティ

生涯価値最大化のためのロイヤルティプログラム

 顧客のロイヤルティ向上を促進するための次の一手として、同社では新たにロイヤルティプログラムを立ち上げた。これは、これまで難しかった顧客の購入後の満足度にもメーカーとして直接関わっていくもので、走行距離や取引期間などに応じてポイントが付与される。すでに今年より一部海外地域でトライアルを開始し、効果を検証したうえで各国に展開していく。

 「どんなアプリケーションにするのか、日本とトライアル対象の海外拠点のメンバーで議論してつくり上げていきました」と出野氏は話す。そのために同社が利用したのが「IBM Garage」というアジャイル的に構想をまとめる手法だ。日本IBMとはコネクティビティの立ち上げから一緒に取り組んできた。

 IBM Garageにはヤマハ発動機と日本IBMのメンバーが加わり、ワークショップ形式でアイデアを出し合い、その場でプロトライプを作成して討議するということを繰り返した。「現場の人にプロトタイプを見せて判断してもらうことで、より理解が深まりました」と日本IBMのアソシエイト・パートナーの天野憲一氏は語る。

天野 憲一氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
オートモーティブ・サービス事業部
アソシエイト・パートナー
天野 憲一

 2020年末の新型コロナウイルス禍で実施したIBM Garageは、すべてオンラインで行われた。「全員が1つになって議論することができて一体感が生まれました。目の前でプロトタイプができ上がっていくリアル感、ワクワク感もありました。IBM Garageがなかったら構想をまとめ上げることができなかったでしょう」(出野氏)。

 IBM Garageによってロイヤルティプログラムの概要がまとまり、基盤としてSalesforce Loyalty Managementを活用することが決まり、迅速に立ち上げることができた。今後はPDCAサイクルを回してブラッシュアップが図られる。

図:IBM Garage手法による構想検討

すべてをつなげることで顧客の夢を実現させたい

 ヤマハ発動機は、2030年までにすべての製品をつなげるデジタル戦略「コネクテッドビジョン2030」を掲げている。モーターサイクルはその代表的な製品分野である。データに基づいてユーザーの行動や嗜好に合わせた使い方や部品のメンテナンスなどを提案し、ライディング体験を共有し、新たな価値を創造していく。

 「お客様がモーターサイクルを利用する理由は様々です。その先には、ライディングを楽しみたい、レースに勝ちたいなどの成し遂げたい夢があります。つながることでその実現をお手伝いすることができます」と山田氏。デジタルで直接つながることで“移動”以外の価値の領域に踏み込むことができる。

 「大事なのは一人ひとりのカスタマーサクセスです。夢を一緒に実現することでロイヤルティが高まり、次も当社の製品を選択してくれるようになります」と出野氏は狙いを語る。人々の夢を知恵と情熱で実現する「感動創造企業」を目指す同社ならではの成長モデルがそこにある。

 その成長モデルを共創するパートナーとして寄り添うのが日本IBMだ。天野氏は「同じ景色を見ながら、ビジネスモデル、アプリ、データの面から支援を続けていきたい」とし、出野氏は「日本IBMは悩みながら一緒にハードルを超えてくれる頼もしいパートナーです」と語る。

 ヤマハ発動機と日本IBMの共創がモビリティの世界でどんな価値を生み出していくのか、今後の展開に期待したい。