提供:日本IBM

YKKグループ、
グローバルシステムのモダナイゼーションで
サステナビリティを強化

WINGS×IBM iのハイブリッド・マルチクラウド戦略で
グローバル経営をサポート

世界72カ国・地域で事業を展開するYKKグループは、主力事業の1つであるファスニング事業において独自開発したERP(統合基幹業務システム)を各国・地域事業会社に展開し、グローバル経営を実現した。そこでは事業会社のベスト・プラクティスがシステムとして共有され、開発とテストに各国・地域メンバーが参画する仕組みを確立することにより、将来の予測が困難な中でもコストを抑えながら変化に迅速に対応できるサステナビリティ(持続可能性)が強化されている。このIBMとの共創によるグローバルシステムのモダナイゼーション(既存システムの刷新)について2社のキーパーソンに話を聞いた。

独自開発したERPで
グローバル業務を標準化

 1934年創業のYKKグループは、ファスニング事業とAP(Architectural Products)事業を柱に世界72カ国・地域で事業を展開している。創業者の「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」とする“善の巡環”をYKK精神としてサステナビリティを常に大切にしてきた同社グループは今、「新常態下での持続的成長」を中期事業方針に掲げ、DX(デジタル変革)の強化にも取り組んでいる。

 その柱の1つが、独自開発したERP「WINGS」のグローバル展開だ。地域や国でバラバラだった基幹システムを統一することでグローバル5極の業務を標準化し、事業会社間の受発注をすべて同じ電子取引の仕組み上で行うことで納期を短縮するとともに、全事業会社の情報をデータウェアハウスに集約することでグローバル経営をサポートする。

 WINGSでは、各国・地域にオンプレミス(自社運用)のサーバーを配置し、データ交換や情報共有、開発とテストをクラウド上で行うハイブリッドクラウドの形態をとっている。事業会社が開発したベストプラクティスはクラウド上のライブラリーを通して横展開され、各国・地域のメンバーが開発とテストに参画することで開発を高速化できる。

 同社の情報システム部 基幹業務システム室 グローバルシステムグループ リーダーの森寛明氏は「貼り替え作業で対応していた外装ラベルのシステムをアジア、ヨーロッパ、日本で共同開発し、グローバル展開して統一しました。また、完成品の簡易棚番管理機能をベトナムで開発し、インドや日本へ展開したこともあります」とこれまでの実績を語る。

 このようにWINGSはグローバル経営の基盤となるシステムであり、大きなメリットをもたらしているが、一朝一夕にできたものではない。

森 寛明 氏

YKK株式会社
情報システム部 基幹業務システム室
グローバルシステムグループ リーダー
森 寛明

オンプレミスとクラウドの
ハイブリッドクラウドを構築

 ジッパーやボタンを製造・販売するファスニング事業では、国や地域によって取り扱い商品が異なっていたため、事業会社ごとで個別にアプリケーションを開発して運用していた。しかし、得意先がグローバル展開するようになると、現状のシステム環境では対応できないという課題が浮上してきた。

 「商品点数が多く、長さや色数のバリエーションも多彩なため、市販のERPパッケージを使うことは考えていませんでした。そこで香港の事業会社が開発した初代ERPシステム『WAVE'S』をベースに、グローバルで展開できるERPシステム『WINGS』を開発することになったのです」と森氏は話す。

 WINGSは、日本の情報システム部が外部パートナーと共同で2013年から2014年にかけて機能ごとに開発。前身となる「WAVE'S」の機能を拡張し、工程納期の計算を半日単位から時間単位で行うようにしたほか、販売管理機能や在庫管理機能などの機能面を拡充した。

 そして2014年下期に上海の事業会社に導入したのを皮切りに、2015年から中国、アジア、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)、北米、南米の62社に順次展開していった。プラットフォームとしては、世界中にサポート拠点があるIBM iが選定され、各事業会社に配備された。さらに2021年にはIBM Power Virtual Serverが採用されている。

 IBM iが稼働するIBM Power Virtual Server上には、電子取引のためにWINGSグローバルEDI(電子データ交換)、経営情報を格納するWINGSグローバルDWH(データウェアハウス)、開発したプログラムを管理するソースコードライブラリー、開発とテストを行うWINGS DevOpsが置かれ、各事業会社のオンプレミスのWINGSと連携してグローバルレベルで開発や運用が効率よく行えるようになった。

5極経営を支えるWINGSとIBM iのハイブリッドクラウド

YKK株式会社+5極各本部

業務面、IT面それぞれで
大きな効果が生まれた

 ハイブリッドクラウドのWINGSは、業務面、IT面それぞれで大きな効果をもたらした。森氏は「業務面での効果は大きく4つあります。(1)生産性の向上や経営状況の見える化が実現されたこと、(2)世界規模で生産性と品質が向上したこと、(3)事業会社間での受発注の形式を統一したことで納期が短縮できたこと、そして(4)情報をアウトプットレポートに集約して経営効率が向上したことです」と話す。得意先に対してもグローバルで均一のサービスを提供できるようになった。

 一方、IT面での効果は大きく3つある。本社ITメンバー25人を世界5極に配置し、各事業会社のニーズをWINGSに反映するとともに、標準化して横展開することで開発コストをグローバルで最適化した。また、テスト環境を集約することで各国・地域のメンバーがチームを組み、開発と運用を連携させたDevOpsという手法で開発を高速化する態勢が整った。さらに事業会社間の受発注のためのアプリ開発や導入も不要になった。

森寛明 氏

「IBM iは機能がフル装備されています。DXやサステナビリティにも大きく貢献できます。これからもフル活用に挑戦していきます」(森氏)

 こうした効果がもたらされた背景には、プラットフォームとしてIBM iを採用したことも大きい。同社グループでは1988年からIBM iを導入している。業務プロセスをシステム化しやすく、第三者でも理解しやすいRPG言語によって高い開発生産性を実現し、先進技術で常に高パフォーマンスを維持してきた。

 また、バージョンごとの互換性を担保することでシステムのサステナビリティを確保し、安定稼働と高いセキュリティーレベルでITリスクを最小化すると同時に、サーバーが省電力化され続けることで環境サステナビリティにも貢献している。

 さらにIBM Power Virtual Server導入の効果も大きい。日本IBMのテクノロジー事業本部 IBM Power事業部 事業開発部長 兼 IBM i統括本部長の高木泰成氏は「IBM Power Virtual Serverの最大の特徴は、IBM Powerサーバーをインターネット越しに柔軟かつ迅速に構築できることであり、YKK様はこのクラウドのメリットをIBM i の稼働環境として選択されました。オンプレミスの環境だけでなく、クラウドサービス環境でも、IBM i環境を利用されている真のハイブリッド・マルチクラウド環境の実装です」と話す。

高木 泰成 氏

日本アイ・ビー・エム株式会社
テクノロジー事業本部
IBM Power事業部 事業開発部長 兼 IBM i統括本部長
高木 泰成

IBM iの機能をフル活用して
サステナビリティを追求

 システム面では新たに追加された新機能の活用を検討中だ。それによりWINGSのマイクロサービス化を図り、より開発生産性を高め、IBM i Merlinという新機能によってDevOps能力を強化する。そのほかにもオープンソースの活用やプログラミングの簡素化、アプリの見える化ツールによる保守生産性の向上、運用ワークロードの低減、セキュリティーの強化など多くの点で新機能が活用できるという。

 「IBM iは機能がフル装備されています。使いこなすことができれば、低コスト、効率化、省電力、安全性が実現でき、DXやサステナビリティにも大きく貢献できます。これからもフル活用に挑戦していきます」と森氏は話す。

高木 泰成 氏

「企業にとってエネルギーを意識した活動はもはや使命。最先端な取り組みを両社で日本からも発信していきたい」(高木氏)

 サステナビリティを経営の中心に置くYKKグループでは、クラウド化や電力削減によってシステム面でもサステナビリティを追求していく。高木氏は「企業にとってエネルギーを意識した活動はもはや使命と言えます。YKK様も事業展開されているヨーロッパは、世界の中でもサステナビリティの取り組みは進んでいます。グローバル企業としてのIBMの強みは世界各国の取り組みが瞬時に共有されること。世界を見ても最先端な取り組みを両社で日本からも発信していきたいです」とIBMとしてのスタンスを語る。

 YKKグループのグローバル経営の高度化、そしてサステナビリティ経営への挑戦はまだまだ続く。