ID&Eホールディングス

新屋浩明社長に聞く「変革の道筋」

日本工営はID&Eホールディングスへ
自律と連携で、10年後の「ありたい姿」実現

ID&Eホールディングス・新屋浩明社長

ID&Eホールディングス・新屋浩明社長

総合建設コンサルタントのリーディングカンパニー日本工営は7月3日、新たな名前のホールディングス会社「ID&Eホールディングス(ID&E HD)」を立ち上げ、新体制へ移行した。ホールディングス化の狙い、新体制での成長戦略、新社名に込めた思いとは――。ID&E HDの新屋浩明社長に聞いた。

*新社名の「ID&E」は、英文表記社名「Integrated Design & Engineering」の頭文字から

インフラ整備を幅広くコンサルティング
企画、調査、計画、施工監理・維持管理

――日本工営の成り立ちを教えてください。

創業は1946年ですが、創業者の久保田豊は戦前から朝鮮半島の電源開発などに従事していました。戦後日本に戻った久保田は、それまで海外で培った技術やノウハウを日本の国土復興に生かすべく往時の仲間と共に会社を立ち上げます。その後、東南アジアをはじめ被災国の戦後復興に貢献する事業も担うようになりました。1954年に手掛けたビルマ(現ミャンマー)の発電プロジェクトは、日本の戦後賠償第一号で、ODA(政府開発援助)事業の原型です。

創業者・久保田豊が朝鮮半島で参画した「水豊ダム」
創業者・久保田豊が朝鮮半島で参画した「水豊ダム」

「バルーチャン発電所」(現ミャンマー)
「バルーチャン発電所」(現ミャンマー)

――総合建設コンサルタントとは、どのような仕事でしょう。

インフラを整備する際、企画から調査、計画、設計、施工監理、維持管理まで一連のプロセスに関わるのが我々の仕事です。弊社はダムや河川、砂防などの国土保全、道路、トンネル、橋梁や空港、港湾、鉄道などの交通運輸、上下水道をはじめとする環境衛生や情報など総合的な分野をカバーしており、生活基盤を支える仕事だと自負しています。弊社グループはこの「コンサルティング事業」に加え、「都市空間事業」「エネルギー事業」の3つの分野で事業を展開しており、建設コンサルタントのみならず幅広いセグメントを持っていることが特徴です。主な発注者は国や地方自治体ですが、最近は民間の案件も増えてきました。

BUSINESS FIELD

2030年売上高2500億円
世界トップクラス目指す

――ホールディングス体制へ移行する狙いなどを教えてください。

社長に就任した2021年夏に、2030年を見据えた長期経営戦略を発表しました。ホールディングス体制への移行は、この戦略で描いた10年後の「ありたい姿」を実現するための一歩と考えています。日本工営は日本の総合建設コンサルタントでは売上高1位ですが、世界では30位程度。2030年には連結売上高2500億円を達成し、世界トップクラスに入ることを目指しています。そのためには、日本で圧倒的ナンバーワンになることが必要条件。今回の新体制移行に伴い、3つの事業分野を担う主要事業会社をID&Eホールディングスの傘下に置く体制とし、自律的な運営を推進します。これまで各事業分野は兄弟のような関係でしたが、今後は互いを尊重し独立したパートナーとして連携・共創関係を深め、サービスの付加価値を高めていきます。  ※出典:日経コンストラクション2022年4月20日号

組織図

セルフトランスフォーメーション
組織風土やビジネスモデルの変革に挑戦

――10年後の「ありたい姿」実現に向け、どのような変革を進めますか。

世界トップクラスほどの規模になれば、これまでとは違った世界が開けてくる。仕事の内容も規模も変わり、多様でより高い専門性が求められるようになるでしょう。まずは、3事業それぞれの自律と連携に加え、社員一人ひとりの「セルフトランスフォーメーション」を促しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、デジタルファーストで、より効率的な仕事の仕方を考え、付加価値の高いサービスを提供するには、一人ひとりが自ら進化していくことが欠かせません。失敗を恐れず、組織風土やビジネスモデルの変革にグループ全体で挑戦していきます。

新たな仲間を増やすことも重要です。M&A(合弁・買収)や業務提携戦略を推進し、我々のグループ内には無かった価値観や技術を取り入れたい。新社名「Integrated Design & Engineering」は、土木・建築・エネルギーなどを融合しワンストップで事業を進める企業グループであることを表現し、仲間入りを呼びかける思いも込めました。出身地や文化など様々な背景を持ちつつ、その違いを乗り越えて一つに結束したグローバルな企業集団になっていきたいですね。

新屋浩明 ID&Eホールディングス社長

新屋浩明 ID&Eホールディングス社長
1985年東北大学大学院理学研究科地学専攻修了、日本工営入社。日本各地でコンサルティング事業に携わる。2021年同社社長。23年7月3日から現職。鹿児島県出身

大規模化・複合化するプロジェクト
総合力とマネジメント力で貢献

――市場の要請、外部環境の変化をどのように捉えていますか。

官民問わず、お客さまのニーズが大きく変化しています。これまでは分野ごとに、個別プロジェクトとして仕様に応えるソリューションを提案する業務が中心でしたが、最近はプロジェクトの大規模化、複合化に伴い、全体を俯瞰(ふかん)した最適な提案が求められるようになってきているのです。

例えば民間のお客さま、特にSDGs(持続可能な開発目標)に真剣に取り組んでいる企業が保有する土地の、サステナブルな活用に向けたコンサルティング業務をお手伝いする機会が増えてきました。背景には、このような業務では多様で総合的な専門知識が必要とされる事情があります。私たちは、これまでの技術開発成果や業務経験で培ったスマートソリューションとそれらを束ねるマネジメント力を駆使し、サステナブルなまちづくりに貢献していきます。

トルコ地震・ウクライナ復興支援
スマートシティー、再エネも

――各事業分野の最近のトピックなどを教えてください。

国内のコンサルティング事業では、近年注力している国土強靭(きょうじん)化に関する業務に加え、防衛力整備計画、TOKYO強靭化プロジェクトなど新たなニーズが出てきました。海外では、2月のトルコ・シリア地震やウクライナの復興支援プロジェクトが始まっています。新規事業としては2020年、スカパーJSAT、ゼンリンとともに「衛星防災情報サービス」をスタートし、昨年インフラ監視サービス「LIANA」の提供を開始しました。防災・減災はもちろん、農業や保険分野でも活用いただけると期待しています。

ウクライナ復興支援プロジェクトを開始
ウクライナ復興支援プロジェクトを開始

インフラ監視サービス「LIANA」の画面イメージ
インフラ監視サービス「LIANA」の画面イメージ

都市空間事業では、市街地開発、再開発、都市・地域再生のための官民連携事業はじめ、最近はスマートシティー実現のための大型・複合プロジェクトを手掛けています。海外ではグループの一員である英国のBDP社とカナダのQuadrangle社、国内では昨年、日本工営の都市空間事業と玉野総合コンサルタントを統合した日本工営都市空間の力も生かし、土木と建築の分野融合による、まちづくりの総合プロデューサーを目指します。

都立明治公園 Park-PFI事業の完成イメージ図
都立明治公園 Park-PFI事業の完成イメージ図

グループ会社・英BDPが手掛ける病院施設の建築設計
グループ会社・英BDPが手掛ける病院施設の建築設計

エネルギー事業は既存の大手電力会社向けの事業に加え、再生可能エネルギーの導入拡大や日本の電力システム改革を背景に、エネルギーマネジメント事業にも注力しています。既に欧州で蓄電池を活用したプロジェクトを進めており、3月にはベルギーで蓄電所を完成させ、電力需給調整サービスを始めました。欧州で得たこうしたノウハウは今後、日本やアジアの再エネ市場で生かしていきたいですね。

釧路市阿寒町で非常時電力を確保するマイクログリッド構築に関与
釧路市阿寒町で非常時電力を確保するマイクログリッド構築に関与

再エネの有効活用を推進するベルギーの蓄電所
再エネの有効活用を推進するベルギーの蓄電所

事業家マインド・開拓者精神
創業者・久保田豊のDNA継承

――日本工営創業時から継承されているDNAとは?

創業者・久保田豊の事業家マインド、開拓者精神が我々のDNAとして継承されています。また、弊社の社員はとにかく使命感が強い。ウクライナやミャンマーなど現在混乱を極めている地域の仕事に携わっている社員も、最後まで仕事をやり遂げるという強い意思を持ってプロジェクトを主導しています。

――日経電子版読者にメッセージをお願いします。

我々の企業理念は「誠意をもってことにあたり、技術を軸に社会に貢献する。」です。この理念は「ID&E」になっても変わりません。地球上の一人ひとりが安心安全に暮らせる社会、より住みやすい世界の実現に向け、誠意と技術をもって唯一無二の価値を提供していきます。その結果として、世界トップクラスのコンサルティング&エンジニアリングファームに成長できればうれしいですね。社会を支える企業グループ「ID&E」にぜひ注目してください。