運用のプロフェッショナル 日本株ファンドマネージャーの視点

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長年の「成長戦略」が中小企業の発展のカギ
銘柄選定は「ビジネスモデルの確立」が重要

■伊藤 今後、日本企業が個別銘柄として注目されるにあたり、今まで以上に企業ごとの特徴を把握することが重要になってきそうです。現在、東京証券取引所には3400社を超える企業が上場していますが、時価総額と流動性の高さで銘柄の規模が分けられています。大型株と中小型株それぞれの特色やパフォーマンスの傾向を教えてください。

株式会社プロネクサスIR事業部担当部長 伊藤直司氏

■木村 大型株に分類される企業の大部分は日本での市場拡大が見いだせないことから海外進出を進めてきました。ただ、円高の影響やテクノロジー分野での出遅れから成果を出すことが難しく、あまり良い評価をされてきませんでした。大型株の推移をTOPIX(東証株価指数)で見ると、バブル崩壊以降ではアベノミクスの直前に安値を更新しています。そこから円安トレンドへ移行したことで、必然的に為替の恩恵を受け株価が上がる大型株は増えてきていますが、果たして企業としての真の実力はどうなのか。資本効率を上げるなどの施策や経営に対する姿勢を、海外投資家から問われています。
 一方、小型株は1990年代末のITバブルによる株価変動で安値を数回繰り返したものの、最安値は意外にも98年のこと。なぜ98年なのか。ひも解くカギは「成長戦略」にあります。01年の小泉純一郎政権が打ち出した「聖域なき構造改革」や、現在の安倍晋三政権の「アベノミクスの成長戦略」で注目されている構造改革や規制緩和を最初に打ち出したのは、実は当時の橋本龍太郎政権だったのです。この橋本政権をボトムとし、今日の安倍政権にいたるまで、約20年の歳月をかけ成長戦略に取り組んできた歩みが分かります。

■伊藤 今でこそアベノミクスの成長戦略ともてはやされていますが、政策自体は20年近く前から始まっていたのですね。確かに、成熟社会である日本は人口減少も相まってGDP(国内総生産)を絶対額で上げていくのは難しい。経済規模が広がらない中、政府は規制緩和によって大企業の既得権益を中小企業に再配分し、新たなビジネスに乗り出す流れをつくる戦略を打ち出すほかありません。

三井住友アセットマネジメント株式会社シニアファンドマネージャー木村忠央氏

■木村 ただ、成長戦略を実現するための法案が成立し、企業が恩恵を受けるには3~5年程度かかります。アベノミクスの成長戦略による本当の成果が見えるのは5年後かもしれません。昨今新しいビジネスが育ったり、IPO(新規公開株)が盛り上がったり、こうした動きは橋本政権から安倍政権まで続けてきた成長戦略の賜物でしょう。98年以降、景気循環はありましたが長期のスパンでは中小型株は上昇しています。中小型株は大型株とは違ったステージで今後も成長を続けていくでしょう。

■伊藤 実際の銘柄選定においては、企業の規模を問わず成長性のある優良銘柄を見つけることが肝要だと思います。運用する投資信託の組み入れ銘柄を選定する際、運用のプロであるファンドマネージャーはどのような観点から投資魅力の高い優良銘柄を発掘しているのでしょうか。

■木村 当たり前のようですが投資先企業を選ぶ時に大切なことは、「今後の利益成長が期待できるか」です。それにはまず、成長市場を見つけることが近道になります。ただ成長市場を見つけたからといって、ただちにその市場に携わっている企業が投資対象として魅力が高いというわけではありません。成長市場で共通していることは、競争が激しいということです。特に成長が著しい市場や規模が大きい市場では、参入企業が増え、より競争が激しくなります。すると、せっかく成長市場に携わっているにもかかわらず、その企業の利益成長は期待外れになってしまうことが多いのです。例えば90年代、わが国の半導体メーカーは市場が大きく拡大したにもかかわらず、価格競争に陥ったことで充分な利益を獲得できた企業はほとんどありませんでした。
 投資先銘柄を見つける上では市場の成長性に加えて、「利益を生み出すビジネスモデルが確立しているか」を見極めることを私は特に重視しています。他社にないアイデアや技術などがあれば、価格競争に陥ることもなく、市場拡大に伴った利益成長が期待できます。

木村忠央氏と伊藤直司氏

■伊藤 情報通信業のクラウドサービスはビジネスモデル確立の良い例ですね。かつては、IT企業がハードウェアやデータをパッケージ商品として企業や個人ユーザーに提供していました。クラウドサービスではIDとパスワードを発行し、顧客の情報などを一つのクラウドで一元管理します。ソフトも新しいバージョンに自動的に更新されるため、ユーザーにとってみれば一度契約すれば買い替える必要もなく、維持・管理にかかるコストも低下するでしょう。クラウドサービス会社としても一度顧客を獲得すれば定期的に収益が確保でき、業績予想がしやすくなるため経営の安定感につながります。

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自分の身近な企業や興味のある分野から
「応援したい企業」を見つけ中長期で育てる

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Profile

三井住友アセットマネジメント株式会社シニアファンドマネージャー木村忠央氏

1994年山一証券投資信託委託(現:三菱UFJ投信)に入社、1998年さくら投信投資顧問に転職、合併により2002年から三井住友アセットマネジメントに。国内株式ファンドマネジャーとして約20年のキャリアを持つ。

三井住友アセットマネジメント株式会社

株式会社プロネクサスIR事業部担当部長 伊藤直司氏

早稲田大学法学部卒業。1980年HOYA(株)入社。国内外の営業を経て1995年広報IR部門。2008年HOYAグループIR・広報室長。2013年米国Institutional Investors誌の「ベストIRプロフェッショナル」精密部門第1位に。同年秋(株)プロネクサスに転職。

株式会社プロネクサス

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