海外投資家と個人投資家 投資における着目点の違い

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「配当」と「企業の借金」に対する日米の感覚の差

■伊藤 その外国人投資家が15年以上前から経営指標として注目してきたROEを、ようやく日本の個人投資家も意識するようになってきたと思います。このROEは、三分解すると収益性、効率性、財務レバレッジの掛け合わせなので、財務レバレッジを高める、つまり借金をしていればROEが高くなることから、そこを問題点として指摘する声もありますが。

■井上 株主資本に着目するということはとても大切なことです。企業の経営者は株主がいくらでその株を買ったかは関係ないのです。株主資本から利益を生み出し、結果的にその利益を配当という形で還元することにより、株主が株主資本を回収するのにどのくらいの期間が必要なのかを意識して、いかにしてそれを短くするかに注力すべきだと思います。そのためには財務レバレッジを高めることも経営判断として必要なときもあります。海外の投資家と日本の個人投資家の考え方で、“根本が違う”と感じるのは、この「財務レバレッジ」と「配当」に対するものです。

スプリングキャピタル株式会社 代表 チーフ・アナリスト 井上哲男氏

■伊藤 日本では思想的なものもあるのでしょうか、「無借金経営」、「キャッシュリッチ」、「PBR(株価純資産倍率)が低い」というような企業に安心感を抱く印象がありますよね。

■井上 確かにそうですが、業種によって、また、企業が成長過程のどのレベルにあるかによって、借入金などにより、財務レバレッジを掛けることが必要な場合があるということは理解しなくてはいけないと思います。個人投資家にお勧めしたいのは、投資を考える企業の「経常利益」を「総資産」で割ってみることです。このパーセンテージは、現状、この企業が、借金であっても資産を増やすことによって得られる利益率に相当します。上場企業であれば、10年の借入れ金利が2%から4%の範囲に収まっていると考えれば、この率がその水準を上回っていれば、財務レバレッジは結果的に株主資本から生み出される利益を高めることにつながると考えることができます。

■伊藤 配当に対する考え方の違いとはどのようなことでしょうか。

■井上 日本企業からは、「個人投資家からもっと配当性向を高めてほしいという意見をよくもらう」と相談を受けることもあります。米国企業の株主総会では、実際に私も目にしたのですが、「なぜ配当をするのか?成長の機会を捨てるつもりか」という意見が出されることがあります。米国の株主は、配当を受けて税金を引かれた金額を低金利で運用するくらいなら、企業に留めたうえでROEを高めることに注力してほしいという考え方です。黒字企業であれば翌期のROE算出の分母部分が増加しますので、例えば8%を維持したということは、配当で受けずに企業に託したものが、その利回りで利益を生んだのだと考えることができます。

■伊藤 興味深い話ですね。

株式会社プロネクサスIR事業部担当部長 伊藤直司氏

■井上 昨年、ニューヨーク証券取引所に上場したアリババが、配当を行うに当たり社債を発行するというニュースが投資家に好感されましたが、これも通じるものがありますね。日本では、株主に対する配当資金を社債発行で調達するというと、まるで、“タコ足”のような印象を受けるかもしれませんが、米国において企業価値とは、株式の時価総額に有利子負債を加えて、現金とその同等物を引いたものです。つまり、その企業を買収するのに必要な資金ということになります。この配当のやり方は企業価値を下げないことなのです。

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個人投資家が外国人投資家に対して抱いている誤解

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Profile

スプリングキャピタル株式会社 代表 チーフ・アナリスト 井上哲男氏

日本株における需給分析の第一人者として知られる。保険会社における有価証券運用を経て、UAMジャパン・インク株式運用部長に転身。その後、外資系投資顧問などでストラテジスト、CIOを歴任後、昨年から現職。企業のIRコンサルティング、財務コンサルティングも行っている。

スプリングキャピタル株式会社

株式会社プロネクサスIR事業部担当部長 伊藤直司氏

早稲田大学法学部卒業。1980年HOYA(株)入社。国内外の営業を経て1995年広報IR部門。2008年HOYAグループIR・広報室長。2013年米国Institutional Investors誌の「ベストIRプロフェッショナル」精密部門第1位に。同年秋(株)プロネクサスに転職。

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