コーポレートガバナンス・コード適用スタート 収益力の向上が株価上昇をもたらす

2015年6月1日から東京証券取引所(1部・2部)に上場する企業にコーポレートガバナンス・コードが適用されることになった。コードでは、政策保有株に関する説明義務や2人以上の独立社外取締役を選ぶことなどを求めている。企業経営者が健全な企業家精神を発揮し、積極的に経営に取り組むことをサポートするのが適用の趣旨だ。これを機に上場企業が投資家に向き合う姿勢はどのように変化し、日本株市場や個人投資家にどのようなメリットをもたらすか。野村総合研究所 上席研究員の堀江貞之氏に話を聞いた。

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迅速・果断な経営判断で利益が次の投資を生み出す

 コーポレートガバナンスの概念は非常に広範で、その定義は日本ではいまひとつ定まっていないように感じます。今回、コーポレートガバナンス・コードを適用するにあたって、東京証券取引所ではコーポレートガバナンスを「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義しました。
 迅速・果断な意思決定とは、もっと積極的な経営を行い、収益向上を目指すことです。どちらかというと不祥事を防ぐ「守り」の仕組みとしてよりも、収益力を高めるための「攻め」の経営を行う上で必要な原則を取りまとめたのが今回のコーポレートガバナンス・コードの本質です。
 そもそもなぜこうした指針が必要なのでしょうか。資本主義経済において企業は、株主から委託を受け、資本を使い、収益を上げるのが本来のあるべき姿です。しかし実体は、2011年までの過去十数年間、日本株に投資してもあまり利益がでませんでした。それにはさまざまな理由が考えられますが、やはり日本企業の収益力が落ちたことが一番の原因ではないでしょうか。そこで政府は成長戦略のひとつとして今回のコードを制定したわけです。迅速・果断な経営判断により利益が次の投資を生み出し、さらなる利益につながれば従業員の収入や株主への配当がアップします。それが経済を一層活性化させる、というのが政府の考える基本的なシナリオです。

企業のリスク要因を見極め中長期の企業価値を探る

 コーポレートガバナンスがうまく機能しているからといって、収益力が高い企業かというと、必ずしもそうとはいえません。収益力が高い企業は、長期的に企業価値が上昇する企業だと考えます。それには「高い参入障壁」「安定的なキャッシュフロー」「顧客ロイヤリティ」「独自のブランド」といった強みが必要条件となります。そうした強みを持っていたとしても、コーポレートガバナンスが全く機能していなければ、やはり中長期的に企業価値が高まることは考えにくいでしょう。
 例えば、非常に強いリーダーシップを持ったワンマン社長の企業があるとします。経営の意思決定のスピードといった面では恐らく優れているでしょう。短期的には高い収益力を発揮することもあります。半面、周囲の意見に耳を傾けないトップゆえ組織としての風通しが悪く、コーポレートガバナンスが機能しない負の側面が表面化し、不祥事の発生リスクが高まることもあります。
 その意味でも、コーポレートガバナンスが整っているかどうかは企業のリスク要因を見極めるうえできわめて重要です。

社外取締役の意見を取り入れ収益を高める投資を実現

野村総合研究所 上席研究員 金融ITイノベーション研究部 堀江貞之氏

野村総合研究所
上席研究員
金融ITイノベーション研究部
堀江貞之氏

 今回のコードは、5つの基本原則、30の原則、38の補助原則の計73項目で構成されています。企業には、報告書をつくって各項目をどこまで実施しているか、投資家に詳しく説明する義務が課されました。
 基本原則の中に独立社外取締役を2人以上選ぶことを求める項目があります。取締役会の役割は大きく「ビジネスマネジメント(業務運営)」と「キャピタルアロケーション(投資)」の2つあり、コードではキャピタルアロケーションの方をより重視しているのではないでしょうか。知見のある複数の社外取締役の意見を取り入れることで、投資に関するより良い意思決定を行い、収益力を高めようというわけです。今回のコードによってコーポレートガバナンスが攻めの経営手法として注目を集める所以はこの点にあると思います。
 73項目はあくまでもガイドラインです。遵守するのが望ましいですが、できない場合はその理由を説明すれば問題ありません。しかし生真面目な日本人のメンタリティからか、全て遵守しなければならない、と誤解している企業が多いようです。
 コードは収益力を高めるためのガイドラインであり、それを自社でどのように運営していくかについては、各社ごと最適な方法を採用すればいいのです。全て遵守しようとか、順番通り取り組もうというのはナンセンス。企業には、今回のコードを参考に、コーポレートガバナンスをどう企業価値と結び付けて考えるかが問われています。

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コードの理解と徹底は個人投資家にもメリット

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Profile

野村総合研究所 上席研究員 金融ITイノベーション研究部 堀江貞之氏

1981年、野村総合研究所(NRI)に入社し債券のクオンツアナリストとして働き始める。86年、現在業界標準となっている「NRI債券パフォーマンス指数」(後、NOMURA-BPIと改称)を開発。86〜88年、ニューヨーク事務所勤務、オプション・モデル/ターム・ストラクチャー・モデルを開発。96〜01年、野村アセットマネジメントでGTAAと通貨オーバーレイファンド、合わせて10億ドル以上を運用。01年NRIに戻り、年金ファンドのコンサルティングや資産運用の先端調査などを手がける。過去34年にわたり、証券アナリストジャーナル、企業年金、年金と経済、ファンドマネジメント、資本市場、年金情報などの専門誌に数多くの論文を発表。

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