コーポレートガバナンス・コードで企業評価を

2015年6月から施行されたコーポレートガバナンス・コード。そこから企業の姿勢を読み取ることができるという。個人投資家にとっては貴重な情報源になりえるのだろうか。企業と投資家の関係はどう変わっていくのか。市場に与える影響は。ESG(環境、社会、企業統治)やコーポレートガバナンスに詳しいコンサルタントの山崎直実氏と、ガバナンスとIRのコンサルティング会社の代表を務める岩田宜子氏が語り合った。

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投資家と企業との対話が不足

■岩田 山崎さんは「持続的成長への競争力とインセンティブ」、いわゆる伊藤レポート※の有識者会議に参加されましたが、どんな議論をされたのですか。


※経産省による「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書を、当プロジェクトの座長であった伊藤邦雄教授の名前をとって、伊藤レポートと呼ばれる。主な内容は、現在の日本企業と資本市場の問題を整理し、企業が「稼ぐ力」を高め、持続的に価値を生み出し続けるとともに、投資家が長期的な投資からリターンを得られるための仕組みの整備などの提言が盛り込まれている

一般社団法人 株主と会社と社会の和 代表理事 山崎直実氏

一般社団法人 株主と会社と社会の和
代表理事
山崎直実氏

■山崎 伊藤レポートのプロジェクトは、伊藤教授を座長に、投資家、企業、年金基金、監査法人、市場関係者、学者・研究者、各団体代表など、さまざまな立場から有識者が参加し、約1年かけて日本企業の持続的成長と投資について議論をしました。いろいろなことがそこで明らかになったのですが、私が感じた一番のことは、投資家と企業は対話が不足しているということです。


 例えば、同じ言葉を使っていながら、投資家サイドと企業サイドとでは認識が違いました。企業が言う「企業価値」とは、「全てのステークホルダーの価値の総和」です。顧客価値、従業員価値、取引先価値、株主価値など、企業を取り巻くステークホルダーのそれぞれの価値の総和と捉え、非財務的なものを含みます。ところが投資家が言う企業価値とは「将来キャッシュフローの現在割引価値」です。投資家はコーポレートファイナンスの理論に基づいて考えますので、企業価値とは将来キャッシュフローの現在割引価値という財務的数値に置き換わるものです。同じ言葉を使って対話していても、話がかみ合っていないことが多々あるということです。この認識のギャップなど、投資家と企業の対話の欠如が、企業価値向上につながらない悪循環に陥っていた原因のひとつです。

■岩田 時間軸も違いますね。

■山崎 そうですね。企業側が長期と言うのは大体10年、場合によっては30年にもなりますが、投資家が言う長期はせいぜい3年から5年です。企業からすれば、3年から5年というのは長期ではなく中期です。


 このほか、伊藤レポートで指摘されているのは、日本企業は資本効率性に対する意識が弱く、持続的低収益に甘んじてきたというものです。その背景には、日本企業は欧米企業より、比較的に長期的視点で経営しているといわれてきましたが、経営者が比較的短期に入れ替わるために、実は短期主義経営だったという指摘もありました。


 一方、機関投資家側の問題も指摘されました。例えばセルサイドアナリストがどんどん短期志向になっています。年金などアセット・オーナーの専門性や人員の弱さ、インデックス投資への偏重など、日本は長期投資家不在の資産運用後進国だとの問題も指摘されています。

■岩田 私たちも一部の日本の企業の経営者の視点が短期的になっていることも、ここ5年ぐらい気になっています。中期計画も目指すべきところからおりてくるのではなく、足元からみた3年後の計算をしている。そのため、企業理念とか文化と、中期経営計画の関係がよくわからず、ちぐはぐしている感じを受けるといったことが増えています。


 短期志向は米国でも話題になっています。NIRI(全米IR協会)の年次大会が6月にあり、まさにテーマが「短期志向(ショートターミズム)からの離脱」でした。米国の経営者も四半期開示に追われているので、どうしても短期になってしまう。でも現実には例えば米国の企業が中国に進出して成功するまでに8年くらいかかっている。だから、四半期では評価できないという例を出して、そういうことを、投資家も、経営もIR担当者も理解するべきだという議論でした。世界的に中長期の視点になってきたなという感じがしますので、個人投資家の方も株価が上がるとすぐ売って、安くなると買うという、トレンドが続いていますが、そこは少し考えたほうがいいのではないでしょうか。

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企業の姿勢がにじみ出る

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Profile

一般社団法人 株主と会社と社会の和 代表理事 山崎直実氏

1985年資生堂入社。2003年からコーポレートガバナンス、情報開示、株主総会業務を統括。機関投資家やSRI調査機関などと対話を重ね、ガバナンスに関するコミュニケーションを積極推進。14年3月資生堂を退職し独立。経済産業省・企業報告ラボ「コーポレートガバナンスの対話の在り方分科会」委員、同省「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(伊藤レポート)プロジェクト委員を歴任。

ジェイ・ユーラス・アイアール株式会社 代表取締役 岩田宜子氏

米系銀行の東京支店にて、外国為替、融資、さらにALM分析、リスク管理計画など多岐にわたる業務を経験。1992年から米国IRコンサルティング会社、テクニメトリックス(現、トムソン・ファイナンシャル)の日本・韓国担当シニア・ディレクター。日系初のグローバル・IRとコーポレートガバナンスのコンサルティング会社、ジェイ・ユーラス・アイアールを設立、2001年から現任。日本に軸足を置いた本格的な企業支援を展開している。

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