異彩放つ大学院大学 真のグローバル人材輩出

提供:国際大学
提供:国際大学
国際大学 学長
橘川 武郎

対談

ANAホールディングス 上席執行役員
種家 純
橘川 武郎【きっかわ・たけお】

1951年和歌山県生まれ。経済学博士。エネルギー産業の歴史や経営に詳しく、総合資源エネルギー調査会など政府審議会の委員を長年務めてきた。ハーバード大学ビジネススクール客員研究員の経験も持つ。東京大学名誉教授、一橋大学名誉教授。元経営史学会会長。2023年9月から現職。

種家 純【たねいえ・じゅん】

ANAホールディングス上席執行役員、グループCDO(チーフ・ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン・オフィサー)、グループDEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)推進部長。1989年、全日本空輸入社。マーケティング室マーケティング企画部部長などを経て現職。

世界情勢が複雑さを増す中、多くの企業では海外と日本を結ぶグローバル人材の育成・確保が急務となっている。リスキリングのニーズも高い。そうした中で注目を集めているのが国際大学(新潟県南魚沼市)だ。9月に学長に就任した橘川武郎氏は、そこを「日本の中のグローバルな異空間」と表現する。同大学の卒業生であるANAホールディングス上席執行役員の種家純氏と橘川学長が、真のグローバル人材を輩出し続ける同大学の教育について語り合った。

国際大学について

国際大学は世界で活躍できるプロフェッショナル人材の育成を目指し、経済界・財界の支援を受けて1982年に開学した大学院大学だ。国際関係学研究科と国際経営学研究科があり、授業はすべて英語で行う。開学当初は日本人学生の比率が高かったが、現在は学生の約9割を留学生が占める。全寮制で学生は生活を共にしながら学び合う。国際経営学研究科はマネジメント教育の権威ある国際認証「AACSB認証」を取得。グローバルに通用するビジネススクールとして評価を高めている。海外大学院との協定に基づく交換留学プログラムも充実している。橘川学長は「グリーントランスフォーメーション(GX)など時代の要請に応えるプログラムの開設も検討している」と話す。

9割が留学生全寮制で学ぶ

企業派遣で入学

橘川
種家さんは2006〜08年に国際大学で学ばれたそうですね。どのような理由で入学を決めたのですか。
種家
以前からビジネススクールで経営を勉強したいという気持ちはありましたが、会社を辞めて学校に通うところまで踏み込めませんでした。そんなとき国際大学の卒業生である先輩から話を聞いて興味を持ったのがきっかけで、その後会社の派遣プログラムにより国際大学で学ぶことになりました。
橘川
入学していかがでしたか。
種家
グループワークが多く、ケーススタディーなどでディスカッションする機会が豊富にありました。全寮制のため、様々なバックグラウンドを持つ留学生と濃密な時間を共有できました。1対1のつながりが深まる中で、国籍や宗教などを理由に「こういう人だ」と決めつけるような見方はなくなりました。
橘川
私が国際大学に来て驚いたのは、日本の中に「グローバルな異空間」が存在していることでした。今年は日本を含めて57の国や地域から211人の新入生を迎えました。日本に「国際」と名の付く大学は多いですが、これほど多様な国々から学生が集まるところは少ないでしょう。
最近はアフリカや南太平洋諸国からの留学生が増えており、旧ソ連圏の中央アジアや中米からの留学生もいます。
種家
学生の約9割が留学生という国際大学は、日本人学生がマイノリティーの立場を体験できるユニークな環境です。自分がマイノリティーになって初めて少数派の人々がどんなところに不都合や悩みを抱えているか気付けるようになります。そうした経験が、DEIを推進する上で大いに役立っています。
その一方で、国際大学はマジョリティー体験もできます。キャンパスを出れば、そこは日本語の世界。日本人学生はマジョリティーです。国際大学にいると、これまでいかにマジョリティーとしての恩恵を受けてきたかを思い知ります。そして少数派である留学生をサポートしようという意識が自然と芽生えてきます。
橘川
留学生支援のためにも、地域との交流が大切です。毎年、南魚沼市と共催する大学祭「インターナショナル・フェスティバル」では、世界各国の料理や歌、踊りなどを楽しみます。冬場には地元の高校生なども招いて雪像づくりやクロスカントリースキーなどに興じます。市民講座「IUJむすびばカレッジ」では、アットホームな雰囲気で交流を深めています。

世界に広がる卒業生のネット

活発なディスカッションで実践力を養う

多様な個生かす
人材育てる

橘川
DEIの観点で言うと、エクイティ(公平性)では日本人学生の言葉の壁を意識しています。入学前に語学研修の機会などを設けているのはそのためです。
種家
実際の授業では、誰かの英語が分からなければ、ほかの誰かが英語で英語を通訳してくれることもありました。学生側も全員参加の意識は強いと思います。
橘川
様々な背景を持つ同級生の考えを聞きたいという思いがあるように感じます。まさに世界を学び、日本を学ぶ教室となっています。
種家
いま多様な個を生かす「インクルーシブリーダー」の重要性が増しています。私は国際大学で経営学を学びましたが、そのすぐ隣には国際関係学を学ぶ学生がいました。多様な問題意識を持つ学生と生活を共にすることで、持続可能な開発目標(SDGs)やESG(環境・社会・企業統治)などの観点も自然と学べました。国際大学はインクルーシブリーダーの育成にうってつけの環境です。
橘川
留学生の学ぶ動機の根底には、自分たちの国を良くしたいという強い思いがあるようです。特に途上国が直面する社会課題には日本が克服してきたものも多く、日本の成功と失敗の経験から学べるものは大きいでしょう。あえて日本を選んで学びに来てくれた留学生は、日本の未来にとっても大切な存在です。各国に卒業生のネットワークが広がっています。
種家
社会的地位が高い人も留学してきますね。学生同士だと年齢や肩書きに関係なく、フラットな関係を築けます。海外と多様なつながりができました。
橘川
人口が減少している日本は、経済も縮小傾向にあります。しかし、世界に目を向ければ様々なビジネスチャンスがあるでしょう。次代を担うビジネスパーソンに必要なものは何でしょうか。
種家
まず、はっきりと意思表示することが大切です。次に、あえてチャレンジングな選択をすること。その方が自身の可能性を広げられます。最後にグローバルという言葉はよく耳にしますが、机上の学びだけでは理解できません。自分の目で確かめ、コミュニケーションを深めて、肌で感じる実体験が大切です。
橘川
企業には英語が得意な人を海外に送るという発想が根強くあります。確かに語学は重要ですが、それだけで現地の人と互角に渡り合えるでしょうか。多様な留学生と生活を共にしながら学ぶ国際大学での経験は、道を切り開く人間力や実践力を飛躍的に高める機会となるでしょう。