JICA信頼で世界をつなぐJICA

Vol.2 外国人材と多文化共創

多様な人材の活躍こそが、
日本の未来を創る
外国人材を「労働者」でなく
「仲間」として見る

多様な人材の活躍こそが、日本の未来を創る 外国人材を「労働者」でなく「仲間」として見る

群馬県知事 山本一太さん / JICA理事長 田中明彦さん

写真左:群馬県知事 山本一太さん
写真右:JICA理事長 田中明彦さん

「信頼で世界をつなぐJICA(国際協力機構)」シリーズVOL.2では、外国人材と多文化共創をテーマに、JICA理事長の田中明彦さんと群馬県知事の山本一太さんが対談した。昨年3月JICAが発表した「2030/2040年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究」の結果から見えてきたこと、外国人とともに新たな活力を持った日本を創造するために必要なこととは――。

2040年に必要な外国人材 674万人
労働力需要に対し42万人不足

――「2030/2040年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究」を行った背景を教えてください。

JICAは、ODA(政府開発援助)や海外協力隊の派遣などを通じ途上国支援を行っているだけでなく、国内15カ所に拠点を設け各地に国際協力推進員を配置するなど、日本国内にも根を生やした組織です。国内で外国人との共生に関する活動を、近年、より力を入れて推進する背景には、日本各地で外国人が増えてきたことが挙げられます。ただしこれまで、日本の今後を考えたとき、日本社会はどれくらいの外国人材を必要とするのかといった調査・研究がありませんでした。多文化共生・共創社会実現に向けた議論を活発にするには、土台となる推計が必要という議論になり、北岡前理事長のイニシアチブの下で、JICAが調査を行ったのです。私や山本知事も当時、有識者の一人として調査に関与しました。

――調査・研究の結果、反響をどのように捉えていますか。

今回の調査で、日本政府が想定する望ましいGDP(国内総生産)の上昇率を考えると、2040年には約674万人の外国人材が必要、労働力需要に対し42万人不足するとの試算が出ました。日本にいる外国人労働者は2020年時点で172万人ほどですから、相当数の外国人材が入ってこないと労働力が足りなくなるのです。数字が明らかになることで、「こんなに多いのか」という反応がありました。日々の生活の中で外国人との接触が少ない人たちにも、大きな問題だと認識いただけたのではないでしょうか。

今回のJICAの調査・研究は非常にタイムリーだと思います。私は群馬県知事になって3年ほどたちますが、はっきり分かったのは日本の経済、特に地域経済は外国籍の人たちの力なくして成り立たないということです。日本経済を今のレベルに保とうとするのならば、外国籍の人たちとの共生を図り、例えば地域経済の発展といった同じ目的に向かって協力していく必要があると考えています。

2030年、2040年の外国人労働者需要量 2040年の外国人労働者数

群馬県は、外国人比率が3番目に高い
「多文化共生・共創推進条例」制定

――群馬県の外国人労働者の受け入れ状況と課題を教えてください。

外国籍県民の数は約6万。県人口の3.1%を占め、外国人比率の高さでは日本で3番目です。国数は112と多様、ブラジルを筆頭にベトナム、フィリピン、中国、ペルーと続きます。製造業、サービス業、小売業など県内の5000を超える事業所で活躍しています。様々な分野で活躍する外国籍の人たちと共生・共創を図っていくため、2021年に「多文化共生・共創推進条例」を制定しました。

 一番大きな課題と捉えているのは、働く場として日本を選ぶ人が減っていることです。ベトナムと連携協定を結ぶなど、これまで多くの人材がベトナムから群馬県に来てくれていたのですが、円安の影響もあり希望者が減少していくのではないかと懸念しています。

群馬県 山本一太知事 群馬県 山本一太知事

実際には、外国人材の需給バランスは、今回の推定よりもっと厳しくなるかもしれません。為替の問題は常に影響しますが、全般的に日本に人材を提供してくれている国々の生活水準が徐々に上がっていることが背景にあります。加えて中国やタイなど高齢化が進んでいることもあり、人材が必要な国が増えることで日本が選ばれにくくなっているのが現状です。

最低限、人権を守ることが大事
給与・昇進でフェアな仕組みつくる

――働く場として日本を選ぶ人を増やすにはどのような取り組みが必要でしょう。

日本国籍でも外国にルーツを持つ人がかなりいる現状を考えると、外国人と日本人という二分法では建設的に物事を考えられない時代に入りつつあります。同時に、外国人労働者というと比較的若い層をイメージしがちですが、実際には、数十年も日本で生活し高齢化している人もいる。私たちが向き合うべきは数字ではなく、多様な背景を持つ「生身の人間」なのです。

 今後、日本が迎えるであろう674万人もの外国人材もさまざまなレベルの人がいます。企業なら、外国籍の経営者も増えるでしょう。現在の日本企業では、管理職レベルの外国人が非常に少ない。また、日本の大学を卒業した留学生の活用も日本は相当遅れています。留学生ほど日本社会の資産になる人たちはいないのに、「日本語が完璧には話せない」という理由で採用をためらう企業があることは残念です。企業の中でも意識改革を進めないと高度人材はなかなか日本に来てくれません。

 まず重要なのは、最低限、人権が守られること。国内で起こっている人権侵害は極力なくしていかねばなりません。その上で待遇や処遇、子どもの教育環境を整え、日本へ行けば、収入が上がるし技術も身に付く、自分や家族の人生を考えたとき楽しいことが多いと思ってもうらことが大事でしょう。

群馬県は2021年に「群馬県多文化共創カンパニー認証制度」を創設しました。外国人材を「仲間」として迎え入れ、ともに活力を創り出している事業者を認証する全国初の制度です。既に製造業、建設業、農業、医療・福祉、情報通信など8社を認証しています。こうした認証カンパニーをロールモデルに、いい人材が群馬県に来てくれる流れをつくっていきたいです。教育面では、日本語を話すことができない人も結構多く、子どもたちへの日本語教育も必要なので、県の予算を増やすなど力をいれているところです。

群馬県では、5000を超える事業所で外国籍県民が活躍する 群馬県では、5000を超える事業所で外国籍県民が活躍する

レタス農家で、共に収穫を喜ぶ レタス農家で、共に収穫を喜ぶ

JICAは触媒的存在として活動
各県へ実情に合う情報提供、意見交換

――JICAが行っている支援策を教えてください。

これまで、多文化共創の問題に一生懸命取り組んできたのは、群馬県や愛知県など外国人の多い地方自治体です。これからは、日本全国どこへ行っても人権が守られ、快適な人生を送れる状況をつくっていかねばなりません。ただし一つの組織だけでは解決できない。JICAには、海外で活動経験のある海外協力隊のメンバーや、途上国の留学生や研修員の受け入れで培った経験、国内外のネットワークがあります。JICAはこうしたリソースを生かし、触媒的な存在として今後、地方自治体と外国人材受け入れに関心のある企業や、支援を行っているNGOを結び付けたり、先進事例や参考事例を紹介したりしていきます。こうした活動を通じ、外国人に日本に行って働きたいと思ってもらえる環境づくりに貢献していきたいと考えています。

 その好例が群馬県との包括連携です。例えば「責任ある外国人材受け入れ」をテーマにしたJICAと県庁との合同研修では、IT(情報技術)や介護、養蚕など個別分野の課題が徹底的に議論されました。五輪のホストタウンでもあった高崎市と共催した「ウズベキスタン人材雇用セミナー」では、まだ県民になじみは薄いものの、極めて親日的で若い人材が多く育っているウズベキスタンという国の情報を、雇用に関心のある企業に提供しました。JICAならではの情報を提供することで、人材雇用の面でも、地域の皆さんと多くの国とのよいお付き合いが広がるよう、お手伝いしていきたいと考えています。そのためにも、各県の実情に合った情報提供や、意見交換ができればいいですね。また、責任ある外国人労働者受け入れについて情報を共有する「JP-MIRAI」というプラットフォームも用意しています。

JICA 田中明彦理事長 JICA 田中明彦理事長

――地方自治体がJICAに期待することは何でしょう。

イノベ―ションは多様性のある社会から生まれます。外国籍県民を含むすべての県民が、法律やルールを守ることを前提に、互いの文化を尊重することが、実は県民全員のためになると考えています。私の野望は「群馬モデルで日本を変える」ことです。多文化共創の問題でも、JICAなどの力をお借りして、県民の皆さんと一緒に先行モデルをつくっていきたいです。途上国と日本の違いをODAや人材交流などの活動を通じて把握し、成果を上げてきたJICAのノウハウに、自治体の長として、またJICAで一時期を過ごしたOBとしても大いに期待しています。

日本が選ばれる国になるには
社会全体の意識改革も必要

――日経電子版読者にメッセージをお願いします。

群馬県は20年後のビジョンとして、「年齢・性別・国籍・障害の有無等にかかわらず、すべての県民が誰ひとり取り残されることなく、自ら思い描く人生を生き、幸福を実感できる自立分散型の社会」を掲げています。多文化共創では、他の都道府県より一歩先を行っている群馬県でも、外国籍の県民で日本人と積極的に交流したいと思っている人が7割いる一方、日本人の県民では1割ほどしかいません。このままでは、経済だけでなく日本社会全体が大変なことになると危惧しています。日本が選ばれる国になるには、社会全体の意識を変えていくことが大事です。企業の皆さんも、JICAなどの機関と連携しながら一緒に多文化共創社会をつくっていきましょう。

日本社会は今後、10年、20年先を見据え、相当大きく変わっていかねばなりません。多様な人材がいきいきと活躍できる社会をつくっていくことが今後の日本に一番重要です。日本経済にとっても、多様な人材を世界中からどのように引きつけていくかが鍵になります。今回の調査結果を通じ、外国人との共生・共創を考えていかなくてはと感じていただくことはもちろん、皆さんの想定以上に、多様な背景を持つ人たちが同じ社会の中で暮らす、そういう社会に日本が入りつつあることを、私たちは理解する必要があります。

 JICAは、もともとは開発途上国で貧困や教育などの課題を解決することに取り組み、世界の中で日本に対する信頼を高めることに尽力してきました。日本国内で群馬県のような自治体、企業、NGOと連携を強めることで、国際協力の質を高めていけると考えています。同時に、国際協力で得た経験と知見を基に、日本国内で共創社会の実現に貢献していきたいと思います。

研修員などを受け入れ日本の技術と心を伝える(株)サンテック(香川県綾川町)。JICA事業を活用してアフリカでの事業展開も進める。*写真提供:(株)サンテック/JICA 研修員などを受け入れ日本の技術と心を伝える(株)サンテック(香川県綾川町)。JICA事業を活用してアフリカでの事業展開も進める。*写真提供:(株)サンテック/JICA