事業承継の出発点は後継者選びだ。中堅・中小企業が事業承継を行った際、誰が後継者になったかというデータを見てみると、“親族”が半数を超えており、そのほとんどが“男子”となっている。だが、最近は少子化で経営者に男子がいないことも多い。また、男子がいたとしても、今は家業を継ぐのは当たり前ではなくなっており、必ずしも事業を引き継いでくれるとは限らない。
一方、後継者が“役員・従業員”というケースは約20%、“社外”が約17%となっており、親族外への承継が35%ほどにのぼっている。少子化にともなって、今後、親族外への承継は増えていくと見込まれる。後継者候補の男子や親族がいないから会社をたたむ、と考えるのではなく、役員・従業員や第三者にまで選択肢を広げることによって事業を継続することを考えるべきだろう。
事業承継した経営者と後継者の関係

出典:経済産業省・中小企業庁「2019年版中小企業白書」を基に作成 みずほ情報総研(株)「中小企業・小規模事業者の次世代への承継及び経営者の引退に関する調査」(2018年12月)
第三者へ事業を譲渡するのがM&Aだ。ニュースでは上場会社と海外の会社との間のM&Aなどが大きく取り上げられることが多いが、中堅・中小企業の事業承継でも活用されており、業種も多岐にわたっている。
M&Aなら親族に後継者がいなくても事業を継続でき、従業員の雇用や取引先との関係が維持できる。買い手企業との相乗効果で、販路拡大や海外への展開、不採算部門の切り離しなどが実現できる。
経営者は株式の売却で創業者利益を得ることができるし、個人保証も解除できる。
とはいえ、こうしたメリットを享受するのは簡単ではない。M&Aでは事業を譲渡する先が必要で、相手先をどこにするかが非常に重要であるのはいうまでもない。相手先探しとマッチングには時間がかかり、困難も伴う。買い手がみつかったとしても、条件交渉やデューデリジェンス(買収監査)には労力が必要で、売り渡し側の精神的な負担も大きい。さらに、最終合意に至り契約を交わし社内外に公表するまでには徹底した情報管理が求められる。
M&Aはこうした一連の流れに沿って一段ずつステップを踏んでいかなければならない。その間、法律や税務、財務、労務などに関する専門的な知識も必要になる。多くの会社にとってM&Aは初めての経験となるので、M&Aのノウハウをもつ外部のアドバイザリーによるサポートは不可欠だ。M&Aは、経験豊富で信頼できるアドバイザーを探すことから始まるといってよい。
M&Aで自社株を譲渡する先としては、事業会社のほかにPE(プライベート・エクイティ)ファンドもある。PEファンドは、多くの投資家から集めた資金で事業承継会社の株式を取得し、その会社の経営にも関与して成長させたのち、株式を売却して得られた利益を投資家に還元する。その過程で、取引先や販路の拡大、人材の提供などを行い、経営上の問題を解決する。
PEファンドにはネガティブなイメージを持つ人もいるかもしれないが、最近は事業承継での活用が注目されている。会社にファンドという第三者の目が入ることによって、問題点が明らかになり、経営の改善やビジネスをよりいっそう発展させることも可能だ。現状維持に留まらない事業承継の方法として、検討に値するといえるだろう。