革製品って、
実はサステナブル

干場義雅氏と語り合う
「確かな魅力」

干場 義雅、川北 芳弘

干場 義雅

干場 義雅

講談社
「FORZA STYLE」
編集長

川北 芳弘

川北 芳弘

日本皮革産業連合会
「Thinking Leather
Action」
座長

長持ちする点や風合いの良さから、革製品を愛用している人は多いだろう。しかし、ここ数年で革製品を使うことが「サステナブル(持続可能)ではない」「地球環境によくない」という誤解が広がっているのも事実だ。こういった認識が広まった背景は何か、そして正しく知ってもらうためにどうすべきか。ファッションディレクターで講談社のライフスタイルウェブマガジン「FORZA STYLE」編集長を務める干場義雅氏、日本皮革産業連合会でプロジェクトチームを立ち上げ情報発信を続ける川北芳弘氏が語り合った。

THEME1

愛用する理由は
「重みと丈夫さ」

干場:最初に革製品に触れたのは、恐らく中学生のときに買ったローファーです。そして高校生でダブルのライダースジャケットを買ってもらい、それ以降、革製品はずっと愛用しています。父親が上野のアメ横でライダースジャケットを買って来てくれたのですが、そのときは「下もあった方が様になるだろう」と、まさかの革のパンツまでセットで買ってくれて……。かなりハードに見えるので、なかなか上下セットで着られなかったのが良い思い出です。(笑)

干場 義雅

干場 義雅

講談社
「FORZA STYLE」編集長

1973年生まれ。ファッションディレクター、講談社「FORZA STYLE」編集長。かつて「LEON」や「OCEANS」などの人気ファッション誌の編集に携わり、“ちょい悪オヤジ”ブームを生み出した。

革製品の魅力は、着るとまず気分が高揚することと、着ているときに独特の重みを感じることです。そして何より丈夫なこと。革のジャケットなんかは着れば着るほど、経年変化で自分の体になじんでいく感じがするんですよね。きちんと手入れをすることでツヤが出たり良い感じのシワが入ったりして、ビジネススーツとは違った魅力があります。革製品は洋服はもちろんですが、靴やかばん、ベルトにポーチ、名刺入れなど小物もたくさん愛用しています。

川北:私は皮革製造・卸の家業を継いで15年になりますが、干場さんなどに愛してもらい、そして(動画投稿サイトの)「YouTube」などを通じて魅力を伝えていただいているのはありがたいです。丈夫さに加えて、私は天然皮革には独特の高級感や上品な感じがあると思います。形を作ったときに出るシワやボリュームは、他の素材にない美しさや重厚感があると感じています。特に日本の皮革は「なめし」の工程が丁寧で、職人さんも愚直に伝統的なことを守っています。一方で発色の面でもイタリア産などと遜色ないものもできるようになってきており、海外産に負けない部分も多いです。

干場:革製品だけでなく繊維製品もそうですが、奥ゆかしい日本人の性格だからかもしれませんが、海外に対して自国の製品を宣伝するのがなかなかうまくないように感じていて……。最近は、そういった地方のファクトリーブランドのコンサルティングやブランディングなどの仕事が増えております。日本の製品は、良い素材を使用した、職人による丁寧なものづくりをしている素晴らしいものが多いので、微力ではありますが、もっともっと今後もお手伝いしていきたいと思っているんです。

THEME2

誤解は想像以上に
広がっている

川北:そんな中、2~3年前から革製品はサステナブルではないと思われる風潮が広がってきました。私の会社と取引があるアパレルの国内ブランドで、百貨店の売り場の女性販売員が客の男性から「おたくは動物を殺して革製品を作っているのか」と詰め寄られたことがあったそうです。また、そのブランドの社長からも「環境負荷が高いので使用をやめた方がよいのだろうか」と相談がありました。別の会社の幹部からも「牛がゲップするから革製品はやめた方がいいのか」との話も届いたぐらいです。

川北 芳弘

川北 芳弘

日本皮革産業連合会
「Thinking Leather Action」座長

1975年生まれ。出版社や広告代理店などを経て、家具用天然皮革の製造・卸を手掛ける川善商店社長に就任。2021年から日本皮革産業連合会「Thinking Leather Action」座長を務める。

このまま放っておくと誤解が広がっていくのではないかという危惧から、日本皮革産業連合会の内部にプロジェクトチーム「Thinking Leather Action」を立ち上げました。私は座長をやらせていただいていますが、
●革製品のために動物の命を奪っている
●革製品の使用をやめるとアニマルウエルフェアにつながる
●牛革の使用をやめると牛の飼育頭数が減り二酸化炭素(CO2)が削減される
●皮革を使うと森林破壊に結び付く
といった誤解は、思った以上に広がっています。

牛革などの天然皮革はあくまで家畜を食肉に加工処理した際に残る副産物で、革のために動物の命はいただいていません。つまり、仮に牛革の活用をやめても、お肉を食べている限り、革製品として活用しなくなる皮が余るだけで(もしくは廃棄することになるだけで)、畜産のCO2削減やアニマルウェルフェア、森林破壊にもつながらないのです。
ただ、我々の方で20~60代の1030人を対象に調査したところ、実に62%もの人が「食肉加工の際に残った副産物だと知らない」という結果が浮かび上がりました。「革製品を製造するために牛などを飼育している」という勘違いを、私たちは払拭したいと考えています。

例えば、日本でも牛約100万頭分の皮が革製品に加工されたり材料として輸出されたりしていますけれども、人類との接点が歴史的に古すぎるのか、このようにアップサイクルしているという認識が少ないようです。一方、革を単純に廃棄しようとすると、いくつもの問題が生じてきます。焼却するには水分を含んでおり燃えにくく、生もので腐ってしまうため埋め立て処理も大変です。 現にハイブランドのメーカーでは、天然皮革の使用をやめていません。いわゆるビーガン素材と呼ばれる革の代替素材もありますが、現状は植物の端材の粉体などを石油系樹脂で固めたものが多いです。また、動物由来ではないにもかかわらず「○○レザー」という名称を使い、天然皮革イコール悪と位置付けて「たたいて」売る風潮が強いような気がします。

革の代替素材との比較

革の代替素材で植物性由来のものなどがありますが、現状は、つなぎに石油系の樹脂を使ったものが多かったり、製品寿命が短かったり、強度が革より劣るものが多数存在します。また強度に加え、誕生から廃棄、リサイクルまでの環境評価(ライフサイクルアセスメント)の視点から見れば、革はエコな素材ということができます。

構造と組成は顕微鏡とFTIR 分光法で、表面特性、機械的性能、透湿性、吸湿性は標準化された物理試験で評価した。
出典:Michael Meyer, Sascha Dietrich, Haiko Schulz and Anke Mondschein, Comparison of the Technical Performance of Leather, Artificial Leather, and Trendy Alternatives, Coatings, 11, 226. (2021),https://doi.org/10.3390/coatings11020226 図5を改編

干場:多くの人に、天然皮革が廃止されると誤解を持たれてしまったんですね。革に似せた他の素材の一部は、長い間放置しておいた場合ベトベトになってしまいます。ものにもよりますが、寿命もだいたい3年から5年といったところではないでしょうか。もう一度、ちゃんとしたことを知識として持つことはすごく大事なことだと思います。

干場 義雅

「多くの人に、天然皮革が廃止されると誤解を持たれてしまったんですね」(干場)

川北:販売者の方々、そしてその先にいる消費者が迷ってしまっているようです。実は業界内でも、革製品のデザインを手掛けている人でさえ誤解している場合が結構あったので驚いています。見た目だけでなく、使って安心な点やサステナブルに貢献できている点を知っていただくと、もっと前向きに革製品を使ってもらえるようになると思います。その意味で、今は少しブレーキがかかっているような感じがします。

THEME3

「本質は何か」を
伝えていきたい

干場:SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティーといった言葉が先走ってしまい、本質を見極めないまま革製品についての誤解が広まったのかもしれません。今はインターネットの時代ですが、ネット上には間違った情報もたくさんありますので、ちゃんとした情報をきちんと伝えていかなければならないと思っています。僕が編集長を務めている『FORZA STYLE』も、YouTubeでたくさんのコンテンツを配信していますが、デバイスとしては強い力を持っていると思うので、余計に細心の注意をして情報を伝えていかなければいけないと感じています。表層的な見方ではなく、本質的なことをきちんと伝えていきたいですね。

川北:逆に、この時代だからこそ革製品が長持ちすることはマッチしていると思います。今の情報社会で負けないように、それを1社1社の一人ひとりが業界全員で発信していくことが大事だと思っています。それをきっかけに、モノを大事に使う点を含めて革の魅力や本質を見直していただければと思っています。

川北 芳弘

「革製品のことを『割のいい投資』と思っています」(川北)

干場:その点で、今はよりいっそう本質が問われる時代になったような気がしています。新型コロナウイルス禍の3年間で、世界全体がストップしました。そのせいもあって、移ろいやすい流行(トレンド)を追わなくても、生きていけるということが露呈してしまったのです。逆に、本物、本質が見直される時代に突入しました。我々の媒体でも「これが流行です!」みたいなことを伝えても読者の関心は薄く、本質的な素材や普遍的なことについて訴求した方が、反応が良いのが現状です。

結局、すぐに使えなくなるもの、消耗品に対して愛着は湧かないんですよね。長年使えるからこそ愛着は湧くのです。今日、持ってきたライダースジャケットは10年、バッグは20年使っていますが、使えば使うほど良い味わいや光沢が出ます。そういうものは一緒に思い出も染みついてくるから、着ると手放せなくなるのです。クリームを塗ったり、ブラッシングをしたり……。きちんと愛情を持って手入れしている人と雑に着ている人とでは、ライダースジャケットひとつとっても魅力が変わってくるのです。

スーツや革製品好きで知られる英国のチャールズ国王は、皇太子時代に「Buy Once, Buy Well」、一度買ったらよいものを長く使いましょうと言いました。その言葉が好きなのですが、革製品にも大いにあてはまると思います。

川北:私は革製品のことを「割のいい投資」と思っています。最初は高いかもしれませんが、長持ちするし大事にもしますので、いいものを買って長く使うことは今の時代に合っていると思います。我々の活動を通じて、改めて「革っていいものなんだ」と皆さんに気付いていただけたらうれしいです。

干場 義雅、川北 芳弘

※皮は食肉の副産物であることや、クロム・排水に関する正しい知識など、皮革・革製品のサステナビリティーに関する詳しい情報を掲載しています