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先物・オプション投資の魅力

先物・オプション投資の魅力

現物とは異なる収益機会として注目が高まる先物・オプション取引。
個人投資家の参加も拡大する先物・オプション取引の魅力や投資戦略を紹介する。

  • オプション取引ABC
    第3回

    オプション価格について:その1

    伊藤 祐輔
    シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
     

    前回までは日経225オプションとはどういうものであるか説明しました。今回と次回では、オプションの価格がどう決まり、どのように変化するかをお話しします。これらのことはオプション取り引きで損益を決める最も大事な点ですので、ぜひともご理解していただきたいと思います。まずは価格が市場で決定されるところからスタートします。

    日経225オプションの市場価格の決まり方

    伊藤 祐輔氏 シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
    伊藤 祐輔氏
    シンプレクス・インスティテュート
    代表取締役

    日経225オプション(以下、オプション)は大阪取引所で売買されており、売買の仕組みや仕方は株式の売買とほとんど違いはありません。図表1はある証券会社のネット売買システムで、そこには「板」と呼ばれる画面に買い注文や売り注文が並んでいるのが見えます。しかし、この板はトヨタ株やソニー株をネットで売買した方であれば、もうおなじみのものでしょう。板の中央には価格が縦に並び、価格の右側には指値の買い注文(赤字)、左側には指値の売り注文(緑字)があります。オプションだからといって、特に目新しいものなどありません。また株式と同様、指し値注文や成り行き注文を使って売買は執行されます。

    図表1 2019年4月限権利行使価格20750円プットの「板」
    図表1 2019年4月限権利行使価格20750円プットの「板」

    市場参加者は直前に約定した価格(図表1では155円)を参考にしながら、成り行きで発注するか、あるいはいくらの指し値で発注したらよいのか、などと考えています。これも株式の注文を発注する場合と違いはないでしょう。したがって、売買そのものについては市場価格をいったん“認めて”しまえば発注するのに必要なのは“勇気”だけです。株式売買と異なることは何もないはずです。

    以上のことからわかるように、オプションの売買は株式の売買と全く同様に、いわゆる「需給」に基づいて行われるのであり、価格も「売買の結果」として決まります。誰かが価格を動かして自分の都合のよいものにしようとしても、できるものではありません。無理やり市場価格を動かすことも一瞬は可能かもしれませんが、あっという間に「妥当な価格」に落ち着いてしまうでしょう。

    オプションの価格を動かす要因

    オプションの市場価格が決まる仕組みが納得できたとしても、まだ売買には参加できないと思います。なぜなら売買の目的が利益を追求することであるなら、価格がどう動くのかを理解していなければ単なる「博打(バクチ)」になってしまうからです。株式の売買であれば、ある株がどういう状況で売られ、また別のこういう状況では買われるということを理解している、あるいは経験していれば、その事実を知らない投資家よりもずっと優位に立てることは間違いありません。ですからオプション価格を動かす要因を知ることがオプション取り引きでは絶対に必要となります。

    オプションの価格を動かす要因を挙げれば、次の4つになります。

    (1)日経平均株価の変化
    (2)時間の変化
    (3)ボラティリティーの変化
    (4)金利の変化

    このうち、(4)の「金利の変化」については、満期日まで数カ月というオプションを扱っている限りあまり気にする必要はありません。もし仮に、金利が年率20%といった経済状態になり、しかも金利が毎日数%も変化するといった状況にでもなればオプション価格に金利変化の影響も出てきますが、今の経済情勢では金利のことは無視しても大丈夫です。したがってって、今回の後半と次回で(1)~(3)についての詳しい説明をしていきます。まずは簡単にこれらの概略を説明しておきます。

    (1)の「日経平均株価の変化」についてはもうご存じの方もいらっしゃるかもしれません。多くの解説書には「日経平均が上昇するとコールの価格は上昇する」とか「日経平均が下落するとプットの価格は上昇する」といったことが書かれています。この記述に間違いはありませんが、事実はもう少し複雑です。

    (2)の「時間の変化」は、オプションのように「満期日まで」といった「期限付きの権利」には必ずつきものの性質です。簡単に言えば、「残された時間が減ってくれば権利の価値も下がってくる」という直感的な理解でよいかと思います。

    (3)の「ボラティリティーの変化」という要因は、そもそもボラティリティーというものが何であるかを知らないと理解不能です。ボラティリティーをもっとも簡単に説明するのならば、「結果の予想の難しさ」となるでしょう。このボラティリティーの解説も含めて次回以降で詳しく説明しましょう。

    日経平均株価の変化がオプション価格に与える影響

    図表2をご覧ください。ここでは日経平均の値とコール・オプションの価格が並べてあります。

    図表2 日経平均株価の変化とコールの価格変化
    図表2 日経平均株価の変化とコールの価格変化

    これは権利行使価格21,500円のコールの価格が日経平均の値が動くにつれどう変化するかの一例です。この表から、例えば日経平均が21,300円のとき権利行使価格21,500円のコールの価格は179円であることがわかります。日経平均が100円ずつ上がっていくにつれ、コールの価格も上昇していくことが見てとれますが、それだけではなく、コールの価格上昇がだんだんと加速していることがおわかりでしょうか。日経平均が21,300円から21,400円に変化したときにコールの価格は179円から221円に42円上昇していますが、日経平均がさらに100円上がり21,500円になるとコールの価格は221円から269円に48円上昇しています。このように日経平均が100円上がるごとにコールの価格も上昇しますが、その上昇の度合いは日経平均が上がれば上がるほど加速して大きくなっていることがわかります。これを言葉で表せばこうなるでしょう。

    特性1:「日経平均が上昇するにつれ、コールの価格は加速しながら上昇する」

    一方、プットの価格についてはご想像の通りに次のように表すことができます。

    特性2:「日経平均が下落するにつれ、プットの価格は加速しながら上昇する」

    図表3を見ていただければ、そのありさまを感じていただけることと思います。

    図表3 日経平均株価の変化とプットの価格変化
    図表3 日経平均株価の変化とプットの価格変化

    今回は、「日経平均株価の変化とオプション価格の変化」についてお話ししました。次回は「時間変化とオプション価格の変化」および「ボラティリティー変化とオプション価格の変化」について考えてみたいと思います。今回の内容をさらに詳しく学習したい方は、大阪取引所の提供する「OSE先物・オプションシミュレーター」の「シナリオ10:コールの値動きと日経平均の関係」と「シナリオ11:プットの値動きと日経平均の関係」を試してみることをぜひお勧めします。オプション売買を仮想体験しながら学ぶことができる無料のツールです。

    伊藤 祐輔
    シンプレクス・インスティテュート 代表取締役
    1983年早稲田大学大学院理工学研究科後期課程修了。89年ソロモン・ブラザーズ・アジア証券(現シティグループ証券)に入社し、株式部長、株式デリバティブトレーダーとして活躍。インドスエズ・ダブリュ・アイ・カー証券(現クレディ・アグリコル証券会社)を経て、2000年シンプレクス・インスティテュート代表取締役就任。03年から名古屋商科大学大学院教授、10年から14年まで早稲田大学大学院ファイナンス研究科非常勤講師、15年から多摩大学大学院客員教授を兼任。