池田 昌隆 氏
株式会社フジテレビジョン
ニュース総局 LIVE STUDIO
局長職技術統括
矢野 修至 氏
株式会社フジテレビジョン
ニュース総局 LIVE STUDIO
局長職 兼 室長
藤井 彰人 氏
KDDI株式会社
執行役員
ソリューション事業本部 サービス企画開発本部長
5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの商用サービスが開始されてから1年余りが経過。この間、基地局整備が急ピッチで進められるなど、5Gは徐々に身近な存在になりつつある。そうしたなか「高速・大容量」「低遅延」「多接続」という5Gの特長を最大限に活用し、エンターテインメントからビジネス領域まで幅広い用途やニーズに対応できる「5Gスタンドアローン(5G SA)」の実証実験が始まった。これに「マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)」を掛け合わせることで、多彩なアプリケーションが縦横無尽に動く本格的な5Gネットワークの世界が、いよいよ到来する。
そんな最新の5Gネットワークに大きな期待を寄せるのがフジテレビジョン(以下、フジテレビ)だ。「放送のDX(デジタルトランスフォーメーション)」を推進するフジテレビは5Gネットワークで何を目指そうとしているのか。同社ニュース総局 LIVE STUDIO 室長の矢野修至氏、技術統括の池田昌隆氏と、KDDI 執行役員 サービス企画開発本部長の藤井彰人氏が意見を交わした。(本文中敬称略)
これからさらに加速する「放送のDX」の可能性
藤井 AWS WavelengthとKDDIの5Gネットワークを組み合わせたクラウド伝送環境は、実証実験を通じてどのような放送ニーズに応えられると感じましたか。
矢野 フジテレビを含む系列局から構成されるフジニュースネットワーク(FNN)の記者が災害現場を取材する場合、現状のIP中継システムでは、映像はいったん東京のフジテレビに送られてくる仕組みになっています。その信号を全国に配信するためには、衛星回線や光回線といったものを別途用意する必要があり、わざわざ東京から信号を送り返す必要があります。しかし、こうしたIP中継映像をクラウドに伝送できるようになれば、クラウドにアクセスするだけで誰もがマルチに中継映像を見にいけます。これはいまの報道番組にとって非常に大きなメリットになると感じています。
藤井 クラウド伝送環境を実現していくことでそのような苦悩も改善し、放送と通信でおもしろい取り組みもできそうです。現在進めている実証実験を経て、今後どのような施策に取り組みたいと考えていますか。
池田 実証実験は2021年7月に1回目、同年9月に2回目を行いました。今回の実証実験では5G SAの環境を試せていないため、こちらの実証実験にも取り組んでいこうと考えています。さらに将来的には、クラウドに接続することで得られた情報からデータを抽出・分析するといった使い方にも挑戦していくつもりです。もう一つ、5Gネットワークによる放送のDXを加速させるために、5Gネットワークの“遊び場”―― つまり、いろいろな実験に自由に取り組める環境を用意し、人材育成やサービスの基盤としても活用したいですね。
藤井 5Gを遊び場にするというのは、テレビ業界ならではの発想ですね。5Gに限らず、最先端技術から新しいビジネスを創出していくには、技術を使いエンジョイすることが非常に重要だと思います。また、5G SAを試したいというお話がありましたが、私は「本格的な5G時代は5G SAがもたらす」と考えています。
5G SAとMECの登場により、5Gを取り巻く世界はますます面白くなってきました。これからも5Gを活用した新たなアイデアをともに創っていく機会を楽しみにしています。本日はありがとうございました。