NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之 氏NEC 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO 森田 隆之 氏
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「未来の共感」を創る
──森田新社長が語るNECの新たなビジョン

2021年4月、NECの代表取締役執行役員社長 兼 CEOに森田隆之氏が就任した。5月には新たな中期経営計画と、10年後の未来像を描いた「NEC 2030VISION」を発表している。それらのベースとなっているのは、「NECは何のために存在する企業なのか」という根源的な問いである。その問いかけが求められた理由、その問いに真剣に向き合う中から見えてきたこと、そしてNECが目指す未来について森田氏が語った。

NECの存在意義が問われている

新社長に就任しての抱負をお聞かせください。

森田 隆之氏

NEC
代表取締役 執行役員社長 兼 CEO
森田 隆之(もりた たかゆき)

森田隆之氏(以下、森田) NECは現在「第三の創業期」にあります。第一の創業は会社が設立された1899年、第二の創業は「C&C(Computers&Communications=コンピューターと通信の融合)」を掲げた1977年です。C&Cは当時としては非常に先進的なビジョンであり、その時点でNECは世界の先頭を走っていたと言っていいと思います。

 しかし、2000年代に入ってからのITバブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災、タイ洪水などの影響によって、NECは会社存続の危機に直面しました。その危機的状況の中で、私たちはNECの存在意義について真剣に考え、議論を尽くしました。NECは何をすべき企業なのか。何のために世の中に存在しているのか──。その問いから生まれたのが、「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現を目指す」というPurpose(存在意義)です。

 新社長としての私の役割は、従業員一人ひとりがこのPurposeに共感し、その実現を推進していく道筋をつくることであると考えています。新たな中期経営計画で、「Purpose」「戦略」「文化」を一体的なものとして経営を行うことを宣言したのはこのためです。

具体的な取り組みはどのようなものになるのでしょうか。

森田 社会が大きく変化する中で、世界に一歩先んじてあるべき「未来像」を社会に提示していくこと。それがNECの大きな役割です。その未来像に対し、お客様をはじめとした様々なステークホルダーの皆さんに共感していただきながら、テクノロジーを社会実装し、Purposeを実現していきたいと考えています。

 その未来像とそこでNECが果たすべき役割をまとめたのが「NEC 2030VISION」です。その中には、「地球と共生して未来を守る」という環境への貢献、「個人と社会が調和し豊かな街を育む」「とまらない社会を築き産業と仕事のカタチを創る」「時空間や世代を超えて共感を生む」という社会への貢献、そして「人に寄り添い心躍る暮らしを支える」という暮らしへの貢献の視点が盛り込まれています。

 これまでNECは、世界中の社会インフラを支えることで信頼感や安心感を獲得してきたという自負があります。その強みを生かして、ミッションクリティカル、すなわち社会にとって必要不可欠であり、それがなければ産業や人々の生活が立ち行かなくなる重要な領域で、安全・安心・公平・効率の実現を目指していきます。

NEC2030VISION

3つの注力領域

今後注力していく領域についてお聞かせください。

森田 「デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス」「グローバル5G」「コアDX」。その3つを注力領域と考えています。1つ目の「デジタル・ガバメント/デジタル・ファイナンス」は、行政と金融のデジタル化です。

 デジタル・ガバメントはデジタル技術によって行政サービスの利便性向上や行政運営の効率化を図ることを指すことが多いですが、社会全体の変革実現という視点がはるかに重要だと考えています。NECはデジタル・ガバメントの目的を「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」によって、すべての国民の幸福への寄与を実現することだと考えています。

 NECは日本では長年行政と金融のICTに携わってきましたが、過去3年間に約4500憶円の資金を投じてこの分野の強化のために海外企業3社の買収を行いました。3社のうちの1社にデンマークのKMD社という会社があります。デンマークは、国連の「電子政府ランキング(2020年)」で1位、「世界幸福度ランキング」(2021年)では2位の国であり、同国最大規模のIT企業として半世紀にわたりデンマーク政府の電子化を支えてきたのがKMD社です。つまり、NECには世界最先端のデジタル・ガバメントの構築・運営の経験者がいるということです。

 当然、デンマークと日本では文化や制度が異なるわけで単純ではありませんが、NECが提供してきた官公庁や自治体向けのシステムや業務に関する知識と最新鋭の技術を生かし、日本流にアレンジして貢献したいと思います。

 例えばマイナンバー制度について、デンマークでは所得と資産は透明性をもって政府が把握していることが公平な社会であり必要なことだと国民も捉えています。一方、日本ではプライバシー保護と社会的利益のバランスをより取ることが求められていると思います。従って、日本でのデジタル化には、官公庁や自治体が保有するデータの機密区分を定義し、データ安全保障の観点から守るべきデータと積極的に流通させるデータとを分類し、それぞれにあったセキュリティー対策を講じることがデジタル化のメリットを最大化するには必要だと考えます。この要請にNECは量子暗号や秘密計算技術等の新しい技術で対応します。また、マイナンバーカードに生体認証を組み合わせることで、安全・安心と利便性の二兎を追うこともできると考えています。

「グローバル5G」と「コアDX」についてもご説明ください。

森田 「グローバル5G」は通信領域における取り組みです。NECは、Open RAN(オープンな無線アクセスネットワーク)などの通信技術に強みがあるだけでなく、基地局からITシステムまでをエンドトゥエンドで提供できる世界でもまれな会社です。また、ネットワークの仮想化の技術でも世界トップクラスにあります。

 それらの強みを生かし、現在様々な企業との事業提携を進めています。楽天モバイルとの提携では、世界初となる完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワークの実現に向け協力しています。また、NTTとの提携では、Open RANをはじめとするオープンアーキテクチャーの普及促進と5G以降を見据えた「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」の実現に向けて共同での研究開発に取り組んでいます。いずれも、グローバルな競争力があり、世界中の人々に価値をもたらす技術です。

 6月にはボーダフォン、そしてドイツテレコムへの商用Open RAN向け5G基地局の提供が決定しました。今後も様々なパートナーと連携し、Open RAN市場の拡大を牽引(けんいん)していきたいと思います。

 3つ目の「コアDX」は、グループ会社であり5000人規模のコンサルタントを擁するアビームコンサルティングと連携したコンサルティングからデリバリーまでの一貫したサービス提供、NECが強みを有する人工知能(AI)や生体認証、セキュリティーなど技術アセットの共通基盤化による提供、さらにクラウドサービスにおけるグローバルなパートナーとの連携による最適なIT環境の提供によって、日本の社会と産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現していく取り組みのことです。

 例えば、「街」のデジタル化の観点であれば、NECは、欧州発の都市OSである「FIWARE」の開発に当初から参画しています。オープンなプラットフォームなので例えば北海道のアプリを沖縄で使うことや、言語の問題はありますが日本と欧州でアプリを融通する、といったことができます。

 世界中に「仲間」をつくることによって、日本のDXを推進していく。それがNECの目指すべき方向性の1つです。今後も、M&Aを含めたあらゆる方法でグローバルに仲間を増やしていきたいと考えています。

 また、NEC社内のDX加速に向け、プロジェクトを牽引(けんいん)するTransformation OfficeをCEO直下に立ち上げました。デジタル基盤構築や改革手法のノウハウを蓄積するとともにリファレンスモデル化し、お客様の課題解決に向けてオファリングとして提供していきます。

お客様、そして社会の人々からの「共感」を

日本の未来についてのお考えをお聞かせください。

森田 隆之氏

森田 日本は戦後70年の間にしっかりした社会基盤をつくってきました。現在、大都市から地方まで様々なシステムが稼働しています。これらをデジタル化するには、大規模なマイグレーション(移行)プランが必要になります。

 プランをつくるのは官の役割ですが、その実行を担うのは民間企業です。それができるのは、プランを最後までやり切ることをコミットできる技術力、体力、リソース力のある企業でしょう。それらを備えた企業は多くはなく、NECにはその力があると自負しています。

 日本全体のDXへの取り組みは、10年程度で終わるものではありません。長期戦になることを覚悟して、腰を据えて社会変革に貢献していきたいと思います。

 トップである私の責務は、お客様はもちろん、社会のすべての人々に私たちが目指す未来像に共感していただき、その未来を確実に現実のものとしていくことです。NECの正式の社名は「日本電気株式会社」です。日本の社会変革に貢献し、日本の成長をリードしていける存在になることを目指して、これからも努力を続けていきたいと考えています。