国立大学法人 東北大学 災害科学国際研究所・教授 災害レジリエンス共創センター・副センター長 越村俊一氏 × 国立大学法人 東北大学 大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター 准教授 太田 雄策氏 × 国立大学法人 東北大学 大学院情報科学研究科 教授 総長特別補佐(デジタル革新担当) サイバーサイエンスセンター長特別補佐 小林広明氏 × 国立大学法人 大阪大学 サイバーメディアセンター 応用情報システム研究部門 准教授 伊達進氏 × NEC 執行役員常務 須藤和則氏国立大学法人 東北大学 災害科学国際研究所・教授 災害レジリエンス共創センター・副センター長 越村俊一氏 × 国立大学法人 東北大学 大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター 准教授 太田 雄策氏 × 国立大学法人 東北大学 大学院情報科学研究科 教授 総長特別補佐(デジタル革新担当) サイバーサイエンスセンター長特別補佐 小林広明氏 × 国立大学法人 大阪大学 サイバーメディアセンター 応用情報システム研究部門 准教授 伊達進氏 × NEC 執行役員常務 須藤和則氏
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スパコンは激甚災害から
国を救うインフラに
〜実稼働した津波浸水被害推計システムの真価〜

2022年3月16日深夜。日付が変わる少し前、「津波浸水被害推計システム」が静かに動き出した。津波浸水被害推計システムは、地震による津波被害をリアルタイムで推計するシステムで、東北大学、大阪大学、国際航業株式会社、株式会社エイツー、株式会社RTi-castそしてNECの産学連携体制で、政府の委託を受けてスーパーコンピュータSXシリーズ(以下、スパコン)上に構築したもので、2018年から24時間休みなく大地震に備えてきた。そしてその夜。マグニチュード7.4/最大震度6強、東北新幹線の脱線など大きな被害をもたらした福島県沖地震が発生する。システムが津波被害を推計し、レポート作成まで30分未満で行うという世界にも類を見ない取り組みの模様を開発者に聞いた。

津波の被害を最小限に

越村 俊一 氏

国立大学法人 東北大学
災害科学国際研究所・教授
災害レジリエンス共創センター・副センター長
越村 俊一(こしむら しゅんいち)

福島県沖地震が起きた当日の状況を教えてください。かなり緊迫した状況だったのでしょうか。

越村 俊一氏(以下、越村) システムが実際に稼働したのはその日が初めてでした。開発に携わった者として、大変に緊張したのを覚えています。関係者の間では、災害時にも優先される特別な回線を使って、携帯電話でやりとりをして状況を共有しました。

伊達 進 氏

国立大学法人 大阪大学
サイバーメディアセンター
応用情報システム研究部門 准教授
伊達 進(だて すすむ)

伊達 進氏(以下、伊達) 私は大阪におりまして、ちょうど寝ようとしていた時に、システムが起動の準備を始めたことを関係者連絡網で知りました。テレビの地震速報よりも早かったです。東北大学側やNEC側とも連絡を取り合って状況を把握しましたが非常に緊張しました。


伊達 進 氏

国立大学法人 大阪大学
サイバーメディアセンター
応用情報システム研究部門 准教授
伊達 進(だて すすむ)

小林 広明氏(以下、小林) 推計された被害はゼロという結果が、最終的に得られたので、それを見届けて関係者の連絡網は解散しました。緊迫していたのでそう感じなかったのですが、実際にかかった時間を見たら、あっという間のことでした。

このシステムは、実際に津波が起きた時にどのように役立つのか、あらためて教えてください。気象庁が発表する地震や津波の警報などとは何が違うのでしょうか。

越村 我々のシステムは、津波が発生するかどうかを警告するのではなく、津波が起きた時に、浸水によって各地がどのような被害を受けるのかをいち早く推計するものです。世界に類例のない、ここだけのシステムです。

太田 雄策氏(以下、太田) 気象庁が津波注意報や警報を出したり、地震の規模がマグニチュード6.5以上と推定されたりした場合にシステムが起動します。気象庁から震源やマグニチュードなどのデータを受け取る他、国土地理院がGNSS(全球測位衛星システム)を使って毎秒計測している地殻変動のデータから推定された断層の情報も利用します。

小林 広明 氏

国立大学法人 東北大学
大学院情報科学研究科 教授
総長特別補佐(デジタル革新担当)
サイバーサイエンスセンター長特別補佐
小林 広明(こばやし ひろあき)

越村 これらのデータを基に、まずどのような断層の状況で地震が起きたのかを解析し、その結果どういう津波がどれくらいの高さで発生するのかを予測して、それによる浸水被害を推計します。太平洋岸の全ての市町村ごとに、人的な被害と建物の被害のそれぞれを推計します。また日本海側のシステムも現在構築中です。

 一連の処理にかかる時間は短く、シミュレーション自体に要するのは4分ほどです。地震が落ち着くまでの待ち時間や報告書の自動作成を含めて、地震発生時刻から30分未満で処理を完了できます。

小林 システムが動くのは、普段は大学で研究用に使っているスパコンです。起動の条件がそろうと、それまで実行していた研究用の計算を退避して、このシステムが立ち上がります。万一の時に備えて、東北大学と大阪大学のスパコンを使ってシステムを二重化しています。

初動の決め手を20分未満で

今回は幸いにも津波による被害はありませんでした。ただし、万一被害が予測された場合は、どのような対応がなされるのですか。

越村 行政側は、システムが出力したレポートを、災害対応を進めるための基本データとして使うことになります。

 また、実際に被害が生じた場合の対策として、例えば高知県で南海トラフ地震を想定した初動対応の訓練をしています。同県では、地震が発生すると、知事を筆頭とした対策本部会議を直ちに設置して、本部会議が60分以内に開催されます。通常は最初の会議では得られる現地の情報が少なく、被害状況の確認や共有の指示が出ることになるのですが、我々のシステムを使うと、はじめからどこにどれくらい被害があるのかを推測できます。つまり、この情報に基づいて、医療や物資の手配、避難経路の指示といった対応を即座に始められるわけです。訓練では、知事が「実際の状況が分かるまでは、この予測結果を基に対応すること」との方針を打ち出しています。

 この他、大きな災害が予測される時には、津波の研究者として被害の調査に赴くといった対応も必要になります。そちらのほうが実は大変だったりするのですが。

太田 雄策 氏

国立大学法人 東北大学
大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
准教授
太田 雄策(おおた ゆうさく)

太田 私の専門(地震学)の観点では、様々なデータを突き合わせて、推定した断層面の妥当性を検証するといった作業に取り掛かります。

今回の予測はどれくらい正しかったのでしょうか。

越村 津波による海面変動の予測は、場所にもよりますが実際より数10cm高く出ました。理由の1つは、安全性を見込んで計算の基準となる潮位を高めに見積もっていたことです。被害の規模を過小に見積もらないように、シミュレーションの対象になる6時間の間で最大の潮位を基準として津波の高さを計算しています。

 実際に津波が陸上まで達する場合は、推計は浸水シミュレーションの精度によります。例えば津波が防潮堤をどう超えるか、陸上でどう振る舞うかを、実際の地形情報に基づいて、より精緻にシミュレーションするからです。

研究から社会貢献へ

このシステムの開発に至った原点には、やはり東日本大震災の経験があるのでしょうか。

越村 あの日あの時、私は東京駅にいました。新幹線では帰れなかったので、レンタカーを借りて、寝ずに運転して、なんとか仙台に戻ってきました。当時はラジオのニュースを通してしか情報を得られず、津波がどこまで波及して、どこまでの被害があったのか、全く分かりませんでした。津波の研究者として、「まず被害の全容を解明しなければ」と痛感しました。以前は津波の現象予測や被害の研究はしていましたが、現象を理解するという側面が大きく、発災直後の対応に生かすというまでは進んでいませんでした。

仙台市に来襲した2011年東北地方太平洋沖地震津波の再現。現在は同じシミュレーションアルゴリズムをSX-Aurora TSUBASAに実装している(提供:東北大学)

太田 3.11の時、発生直後に気象庁が発表したマグニチュードは8.1で、実際(マグニチュード9)と比べて過小な評価でした。実はそれ以前から、我々はGNSSを活用した、マグニチュードを過小評価しない推定手法を研究していたのですが、それは理学的な観点からの研究だったため、社会実装力が不足していました。その後、国土交通省 国土地理院との共同研究で、開発した技術を社会実装しました。さらに、越村先生にお声がけいただいて、この技術を津波のシミュレーションなどと一気通貫でつなげることで、津波浸水という観点からも社会実装できる可能性が開けました。我々にとって3.11の後悔を埋め合わせる機会になりました。

小林 開発の端緒は、震災から1年経った2012年に遡ります。当時、次世代のスパコンのアプリケーションとして社会に役立つものを考えるために、越村先生に協力をお願いしました。

 そこから発展して、現在のシステムの原型となったものの開発が、総務省の事業として2014年に始まりました。越村先生や太田先生はじめ地震学や災害工学の先生方、大阪大学やNECの方々と協力して進めてきました。

伊達 私は2014年ごろから、まずはスパコンの実務側の担当者としてプロジェクトに携わりました。当時スパコンは学術研究の計算に使うもので、一般の方からすると「スパコンって何の役に立つの」という見方が少なくありませんでした。

 だからこそ、社会に直に役立つシミュレーションをスパコンに配備するのは、すごくいいことだと思いました。実際に東北大学との連携を決めたのは私ではありませんが、既にあるスパコンを緊急時に生かすことで、社会貢献ができるならぜひやりましょうと賛同いたしました。

開発で大変だったのは、どのような点ですか。

越村 我々のそれぞれが、要素技術は持っていました。ただ、災害時にリアルタイムで活用できるものにするためには、それらを切れ目なくつなげなければならないんです。そこが一番難しかった。1つの目的に向けて、理学、工学、計算科学という違う分野の研究者が一緒に取り組むというところが大変でしたが、そこに大きな意義があると考えていました。

太田 当時の活動には、一種の課外活動のような雰囲気がありました。様々な分野の先生方や企業の方が、夕方以降に集まって8時ぐらいまで打ち合わせをしたりして。それぞれの分野で譲れない部分があるので、検討する事項がすごく多かったですね。

越村 私は目標を設定するのが得意で、最初に「トリプル10」という標語を打ち出しました。断層の状況を10分、津波のシミュレーションを10分で終え、その予測を10メートルの分解能でやりましょうと。

小林 そういう難題を受けて、システムを実装する我々の側も「分かりました」と言いつつ、「モデルを考え直してください」とか「ここの計算は省いていいのでは?」とか、やりとりをしながらですね。

越村 「課外活動」は今も続いています。2018年3月に、このシステムの運用や普及、新しい開発などを担当するベンチャー企業「RTi-cast」を東北大学ベンチャーパートナーズ、国際航業、エイツー、NECなどの出資で設立しました。私たちもそのメンバーです。2週に1回、ミーティングを開いて議論を継続しています。

地震発生後でも計算が間に合う

今回のシステムにスパコンを使うことで、どんな利点があったのでしょう。

越村 気象庁が出す津波の警報は、あらかじめいくつもの地震の条件でシミュレーションした結果をデータベースに保存しておき、地震が発生したらその地震の条件に対応するものをデータベースから引き出して使っています。これに対して、我々はスパコンを使うことでシミュレーションを高速に行えます。だから、観測された地震の情報や地殻変動の情報を直接利用して、正確な予測をすることが可能であり、地震が起きてからシミュレーションを実行しても、リアルタイムに結果を出せることに気がついたのです。2012年のプロジェクトのころですね。

 リアルタイムに計算することで、データベース方式よりも現実に近い結果を得やすくなります。それまでのスパコンの使い方と言えば、たくさん計算するとか、難しい方程式を解くとかといったものが中心で、リアルタイムという発想はありませんでした。

いわば現実世界の状況を、現実よりも速くスパコンで予見することで、被害の予測を迅速に行い人的被害を未然に防ぐことにつながるわけですね。そのスパコンの中でも、NECの製品は独自のベクトル型プロセッサーを用いることが特徴です。他のスパコンと比べた優位性は何ですか。

小林 津波のシミューションはベクトル型と非常に相性がいいんです。開発の最初の2015年ごろ、当時国内最速だったスパコン「京」と同じ性能を出すのに、NECのスパコンならば計算に使う演算器(コア)の数が数分の1で十分だったほどでした。他にも、固体を伝わる波や流体の計算といった「場の計算」と呼ばれる範疇の問題にはベクトル型が向いています。

NECのスパコン「SX-ACE」との性能比較

NECのスパコン「SX-ACE」との性能比較(提供:東北大学)
※ 赤線がNEC「SX-ACE」
同じ津波浸水シミュレーションを実行した時の計算時間を表したもの。コア数が少なく、計算時間が短い方が性能が高い。

 最近では、非常に多くのコアを組み込んだグラフィックスプロセッサー(GPU)を使ったスパコンもありますが、場の計算などの場合、必ずしも全ての能力を使いこなせません。コアの数が相対的に多すぎて、メモリからデータを送る経路がボトルネックになってしまうんです。ベクトル型は、1つのコアに対するデータ経路のスピードが速く、性能を効率的に引き出せます。

伊達 ベクトル型には、GPUと比べて初心者でも手軽に計算を高速化できる面もあります。実際、プログラミング言語も知らなかったのに、2週間くらいでベクトル型を使えるようになった学生もいました。大阪大学のスパコンではGPUも利用できるのですが、GPUにプログラムを移行しようとして、使いこなすのに時間がかかったり、性能を引き出すのに苦労したりする例をよく見かけます。

 2021年に最新スパコンを導入した時も、引き続きベクトル型を使うことで津波浸水被害推計システムをスムーズに移植でき、即座に高い性能を発揮できました。このシステムをCPUやGPUで実行することは可能ですが、ベクトル型と同じ性能を実現するのは困難です。

 ベクトル型といえども、計算能力が高いスパコンである以上、消費電力自体はかなり大きくなります。ただし、プログラムを実行した時の性能が同じという条件で比較すると、ベクトル型は効率が良く、他のプロセッサーを用いたスパコンより少ない電力で動作できると言えます。

小林 もちろん全てをベクトル型でカバーできるわけではなく、適材適所で使い分けるのが大切です。最近話題の量子コンピュータの活用も視野に入っています。高知県高知市をターゲットとして、「量子アニーリング」と呼ばれる方法を使って最適な避難経路を求める試みをしています。

スパコンで「被害者ゼロ」に

今後はシステムをどう進化させていくのか教えてください。

越村 現在の被害予測から一段レベルを上げて、人の命を救うための情報の提供を目指します。地震の発生まで遡って複数の浸水シナリオの予測を実行し、最悪の場合はどのシナリオかを推測して、浸水被害の予測の信頼性を圧倒的に高めます。現在は「建物が何棟被害を受けます」といった報告をしますが、命を救うためには「この場所までは安全です」という線引きをする必要があります。そのための信頼性確保が最大の課題です。

太田 現在はスパコンの上で1つのシナリオのシミュレーションしか走らせていませんが、これが例えば1000シナリオ実行できるようになれば、その時点で手に入る情報を前提に、最悪な状況を見積もることが可能になると考えられます。

越村 予測の信頼性を高めつつ、情報提供までの時間も3分に短縮したい。気象庁は3分で津波の高さの情報を発表しますが、我々は同じ時間で浸水状況の予測を出す。それがリアルタイムで人に伝わり、命を救うことにつながるわけです。これをあと5年で実現したい。究極的には「被害者ゼロ」が目標です。

実現を待ち望んでいます。最後に、スパコン活用の先駆者として、研究者や経営者へのメッセージをお願いします。

越村 研究者の多くは、成果を論文で発表するところまでが自分の仕事だと考えがちです。しかし、自分たちが開発した技術に誇りを持っているなら、最後の社会実装と出口、人々や社会の役に立つところまでやりましょうと言いたいですね。防災研究者は、そこまでやるのが仕事です、と。

 我々の取り組みは「リアルタイム災害科学」の一環だと考えています。火山の噴出物や洪水など、様々な災害で同様なことができるはずです。

伊達 大阪大学のスパコンは、計算資源量の15%まで一般企業が産業目的で利用できるようになっています。熱心に使ってくれる企業もある中で、多くの方々はスパコンを特殊なもので近寄り難いと感じているようですが、少しでも興味があったら、「こんなことに使えないかな」と、ぜひ相談してほしいですね。

 津波浸水被害推計システムがそうだったように、現実世界のデータをスパコンの能力とつなげると、全く新しいサービスが登場する可能性があります。企業の方々には、これまでの発想にとらわれないスパコンの斬新な使い方の提案を期待しています。

システムプラットフォームビジネスを担当し、サーバーやスパコンなどコンピュータの開発や保守を統括するNEC執行役員常務の須藤和則氏に、ベクトル型スパコンが秘める幅広い応用の可能性を聞いた。

福島県沖地震を受けて、NECのスパコンで動作する「津波浸水被害推計システム」が実際に稼働しました。

須藤 和則 氏

NEC
執行役員常務
須藤 和則(すどう かずのり)

須藤和則氏(以下、須藤) このたびの令和4年福島県沖を震源とする地震による被害を受けられました皆さまに、心よりお見舞いを申し上げ、一日も早い復旧をお祈りいたします。

 導入から数年を経ての初稼働となりましたが、システムの真価を十分に発揮し、その役割を果たすことができたのでは、と胸を撫で下ろしております。本来であれば、津波浸水被害推計システムが稼働しないことが平穏の証であるとも言えますが、日本は世界有数の地震大国と称される程の頻度で地震が発生しますので、それであるならば、一人でも多くの人々の安全を守れるよう、これからも先進技術で貢献していきたいと、想いを新たにしました。

このシステムのように、NECのスパコンを社会貢献に使う事例は他にもあるのでしょうか。

須藤 スパコンの用途として科学技術計算が中心にあることは確かですが、情報社会が急速に発展し、世界が大きく変化する中で、大量に生み出される色々な情報から社会的な問題の発生を予測する領域へスパコンを活用する事例が現れています。例えば、自然災害の分野では、スパコンを活用して河川の氾濫を6時間前に予測できるサービスを、三井共同建設コンサルタント株式会社様と共同で開発しましたが、NECのベクトル型スパコンの特長を生かした用途となります。

ベクトル型が強みを発揮するのは、どのような用途でしょうか。ビジネス向けに活用する可能性はありますか。

須藤 ベクトル型は、汎用型のCPUでは扱いきれない大規模な行列の計算などが得意であり、代表的な応用例は、科学技術計算としての流体や電磁波の解析、構造解析などがありますが、他方、ビジネス向けの領域においても、金融系のベンチマークにおいて最速の処理速度を記録し、電子商取引(EC)におけるレコメンデーションの最適化に活用した事例などがあります。

 ベクトル型という世界的にユニークなスパコンの活用領域を拡大するため、当社では、ベクトル型と相性の良いアプリケーションとの組み合わせの探索や提案を実施していますが、さらにベクトル型の裾野を広げるために、ハッカソンのような形で様々なアプリケーションを公募するアイデアもあります。従来は、スパコンというと非常に高価で手が届きにくい印象がありましたが、現在は200万円程度からシステムがあるので、導入しやすくなっていると思います。

 今後、スパコンが活用される領域がますます拡大していく潮流の中で、当社はベクトル型だけを提供するのではありません。世の中には様々な種類のプロセッサーが存在し、汎用型のCPU、AIの深層学習が得意なGPU、AIに特化したIPUなどそれぞれに特長がありますので、用途に応じてそれらを組み合わせて活用していくことが大事です。その考え方をヘテロジーニアスコンピューティングと呼び、当社はヘテロジーニアスコンピューティングを推進していきます。

 また、現在、当社は量子コンピュータにも力を入れています。配送経路の探索や人員配置などの「組み合わせ最適化問題」に適した量子アニーリング方式のシミュレーターやハードウェアの開発を推進するとともに、応用範囲の広いゲート型の量子コンピュータにも取り組んでいます。