- 猪俣淳
- 1961年生まれ、神奈川県出身。84年横浜商科大学卒業後、不動産会社2社を経て15年アセットビルド(千代田区丸の内)を設立。CCIM-JAPAN2018年会長、IREM-JAPAN理事。両協会公式インストラクター。一級建築士ほか全31資格を保有。「誰も書かなかった不動産投資の出口戦略・組合せ戦略」「不動産コンサルティングの教科書」などの著書のほか、テレビ・雑誌への出演・執筆、全国での講演多数。
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不動産業は専門性の高さや与える影響の大きさから、本来誇りを持てる仕事であるといえますが、残念ながらわが国では業界としての評価が低いのが現実です。「不正で得た利益はその60倍の損失を生じる」。正攻法でフェアな仕事が業界の地位を向上させ、また最も合理的な選択肢であるという思いで仕事に取り組んでいます。
両親と兄弟姉妹併せて9人の大家族で育ちました。狭い店舗併用住宅でしたので、住まいに対する憧れはひとしお。思えばこうした経験が不動産業を選ぶ原点になったのかもしれません。家計を助けながら高校・大学はアルバイトと奨学金で進学。ここで「自由な時間と十分な収入を両立するためには、労働ではなく仕組みで収入を確保する必要がある」ということを学んだのも、経済的時自由を得るための不動産投資という今の仕事の原点となっています。
自営業の父は、ことあるごとに子供には安定した公務員への道を勧めました。誇り高い仕事で高給な公務員・・・といえば警察官ということで具体的な検討に入り、いろいろと調べていくうちに緊急事態に備えて常時即応態勢が求められるなど、「自由な時間」を得るには最も遠い仕事ということに気付き断念しました。改めて自分が求めていた事は何かと振り返り、思い出した「住まいへの憧れ」と「経済的なゆとり」を実現するには“不動産業界”しかないとまったく違う方向へ行くことにしました。当時は今以上にイメージの良くない業界だったのでその点だけには躊躇(ちゅうちょ)しましたが、運よく就職先の不動産会社は小規模ながら地域密着型の良心的な会社でした。業界ではめずらしい固定給制度で、社員の資格取得や教育にも熱心だったのはありがたかったです。入社した年に宅建資格を取得し、翌年結婚を機に最初の不動産として3DKの中古マンションを購入しました。
営業部に配属され、貴重な大卒のホープとして期待されていましたが、結果は散々でした。中途採用の同期にも追い抜かれる始末でした。しかし、自分に殻を作り、顧客の真のニーズに踏み込む真摯な営業ができていなかったことに気付いてからは、トップセールスの常連になりました。強引な売り込みは苦手でしたし、それを求められることもなかったので当時からコンサルティング営業を心掛けていました。紹介やリピートもとても多く、新人の頃に契約したお客様の背中でスヤスヤ寝ていた赤ちゃんが大人になり結婚するときに式に呼んでいただいたことがあるのが自慢です。
不動産業界に身を投じ、関連する知識の幅や深さの膨大さに圧倒されました。ここで、持ち前の好奇心が湧き上がり、宅地建物取引主任者を皮切りにフィナンシャルプランナー、不動産アナリスト、一級建築士など不動産に関連する数多くの資格を取りました。また、自分で経験しないと説得力がないと思い、不動産の購入・売却・買い換えも20代で一通り経験しました。そのうちに、それまでマイホームをお世話させていただいたお客様も老後の生活のことを現実的に考えないといけない年齢になっていました。それは自分自身も同様でした。そこで、実需向け住宅の仕事は後続にバトンタッチして、自分はお客様の定年退職後の経済的不安を不動産の側面で解決するための「アセットマネジメント(投資家の代理人)」の仕事がしたいと考えるようになりました。そのためにたった二人で立ち上げた「不動産投資企画室」は設立後すぐに全店舗中トップの成績を上げ、市場に大きなニーズがあることを確信しました。
その後、収益不動産売買部門を手伝ってほしいという会社にヘッドハンティングされ10年ほど働きましたが、規模の大きな会社ゆえの賃貸管理部門や工事部門といった諸部門間のしがらみに限界を感じ、「アセットマネジメント(投資家の代理人)」の理想を突き詰めるとどんな会社になるかと考えて2015年に独立しました。規模拡大よりも、質を高め磨き上げることで投資家からも市場からも選んでいただける企業を目指しています。また、CCIM(認定商用不動産投資顧問)やCPM(認定不動産経営管理士)といった米国発のプロ向け資格の講師をしていますが、これも財務分析や市場分析といった不動産投資に不可欠な知識を体系的に学ぶ仕組みや機会は我が国においても整備される必要があり、それが業界の地位向上に資すると信じているからにほかなりません。全国各地での講演活動や執筆・出版活動も同様です。
私の道しるべは禅語の「把放自在」(はほうじざい)。つかむも放すも自由自在、“とらわれない“ということです。固定観念や過去の成功体験にとらわれると判断基準を誤ります。いつでも「本当にこのやり方が最も正しいか」と疑ってみることを心がけています。また、私が大切にする価値観は「自由と尊厳」。経済的自立は、自由と尊厳を守る力になり、収益不動産という仕組みはそれを実現するための優れたひとつの方法と位置づけ、私と同じく「自由と尊厳」を大切にする多くのみなさんのお役に立てるということが私の価値だと考えています。そして、そうあり続けることができるよう、会社も自分自身も磨き続けているのです。