伊藤眞代
神奈川県鎌倉市生まれ。祖父の代から事業を行う。幼少期から商売を身近で見ていたが自身は保険レディとして営業の門を叩く。トップ営業マンとしてキャリアを積むが家業の負債を工場長の弟から聞き、立て直し役として家業に戻る。現在は病を乗り越え新工場を設立し今後は、鎌倉の地に祖父の開業していた「レストラン太平洋」開業を目指し活動中だ。
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INTERVIEW

私は自身をポジティブな人間だと思っています。松下幸之助氏の「あなたは運がいいですか?」という言葉がありますよね。「はい」と答えるポジティブな人しか採用しないという逸話です。これを見たとき「このポジティブさは私だ!」と思いました。それを証明するようなエピソードがあります。当社の商品を置いてもらう交渉をするため、とあるスーパーマーケットを訪問したときのことです。「忙しいから」と断られ、一旦は引き下がるのですが、夜の閉店間際に再度訪れるのです。そのときに掃除を手伝うことで、時間を作ってもらって交渉するということもありました。

伝統を守りつつブランド化を図り、活路を見いだした

伊藤眞代

弊社は、家庭で手軽に食べられるカレールゥ、ビーフシチュールゥ、ホワイトソースなどを鎌倉にある自社工場で製造、販売をしております。最近はカレールゥを使用した中華食材やお菓子など、新たなカテゴリーの商品まで幅を広げて展開しています。米国、カナダ、上海、台湾などへの輸出も年々増えており、日本の製品の良さを世界に広げたいと考えています。

弊社の歴史は1928年まで遡ります。私の祖父は、日本橋で「太平洋」という洋食屋を営んでいました。上流階級の人々が訪れるような高級店で、東郷平八郎氏の邸宅に赴き、料理(カレー)を振る舞うこともあったそうです形を変えつつも、味と事業はずっと受け継がれてきました。私はどうしていたかというと、今の事業を引き継ぐまでは、生命保険の営業職に就いていました。子どものころから一番になることが大好きだったため、天職だと思っていました。営業職の面白いところは、その月の売り上げでトップになれたとしても、翌月にはリセットされること。何度でも一番を目指せることが楽しかったのです。

ところが28歳のとき、実家から「社長業をやってほしい」と話がありました。事業を継ぐことに特段興味があったわけではなかったのですが、高校生のときから松下幸之助氏や稲森和夫氏に関する本をたくさん読んでいたことや、営業職としての手腕が評価されて、私を呼び寄せたのだと思います。しかし、実家に戻って決算書を見たときは、あまりのひどさに愕然としました。そういうわけで、私の社長業は負債を抱えながら始まりました。小さい会社ですから、大量生産をすることはできません。それよりも祖父の代から引き継がれている味を生かしつつ、化学調味料無添加やグルテンフリー、薬膳といった手法を取り入れ、ブランド化を図ったほうがいいと考えました。時代の流れが変わったことも後押しとなり、スポーツ選手や健康志向の方に支持されるまでに成長しました。現在では、井出トマト農園の湘南トマトを使用した、湘南トマトカレールーや湘南トマトハヤシルーといった、地域のものを生かした製品の開発にも取り組んでいます。

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脳梗塞になったことで生まれた余裕

社長業は難題続きで、とても苦労をしました。営業職の経験があったことから、お客様と話をすることは得意でしたが、社内のことになるとうまくいかないことがよくありました。土佐犬のように気が強く、弟である工場長によくかみついていました。変わったきっかけは4年半ほど前に脳梗塞を患ったことです。一時期は生きることが辛いと思うこともありましたが、今では脳梗塞になってよかったとすら思っています。後遺症により動きが以前より制限されるようになったことから、考える余裕が生まれ、物事がスムーズに動くようになったと実感しています。それまではお客様の存在が一番だと思っていましたが、私の闘病中も社員が支えてくれているからこそ会社が成り立っているのだと気付かされました。

今後の目標は2つあります。会社の再建の象徴として目標にしていた、社屋と新工場の新設を達成できたため、次のステップとして鎌倉の地に祖父のレストラン「太平洋」を再度オープンさせたいというのが1つです。生まれ育った鎌倉の土地が好きなので、ぜひ地元の皆さんにも味わっていただきたいですね。もう1つはISO22000を取得することです。食品安全の規格については、独学をして取り入れてきました。しかし、町工場から始まっているため、遅れていることは否めません。世界で愛される商品にするためにも、今後どれだけ世界基準に近づけることができるかがポイントです。

現在の若者はとても冷静な印象があります。それは決して悪いことではありませんが、熱量も大切です。たとえば弊社の場合、飲食を扱う仕事をしているため、さまざまなおいしいものを食べてほしい。それによって味覚の幅も健康的な味の知識も広がります。従業員全員でそういったことをしていければ、会社としての情報が増え、より良い製品開発につながります。会社の仕事に興味を持ち、熱意を注げること。そういった人は、どのような業界や業種でも必要とされると思います。

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