寿台順章
1982年生まれ、愛知県出身。家業は名古屋にある1593年建立の正雲寺。大谷大学中退後、石垣島で1年ほど生活。帰郷後、幼稚園教諭・保育士の資格を取得し、2006年に社会福祉法人栄寿福祉会に入職。08年に姉妹法人の学校法人正雲寺学園と社会福祉法人栄寿福祉会の理事長に就任。13年、グループ内にMarSolを立ち上げ代表取締役に就任。
https://www.j-j-all-stars.com/

INTERVIEW

二十歳の頃、バックパック一つでインドやタイを旅して、ガンジス川に入ったり屋台に入ったりして過ごした経験が、私の人生において大きな財産になっています。他人の経験を見聞きするのとは違う、実体験の大切さを痛感しました。思えば、幼い頃は毎日暗くなるまで外を駆け回って遊んだものです。遊びの種類や行動範囲を制限された今の子どもたちは経験値が少なく、遊び方を知りません。ネットでいろんな知識を得たとしても、実体験は圧倒的に不足しています。子どもたちには、自分の五感を使ってどきどきワクワクするような経験をたくさんさせてあげたいです。それが人生の豊かさにつながっていくと思います。

職員は『遊ぶために働け』

寿台順章

実家のお寺が幼稚園と保育園を運営していたので、自分もなじみのあるこの場所で子どもとかかわる仕事がしたいとずっと思っていました。仏教を学ぶために京都の大学に進学したものの、今したいことではないと感じて2年で退学。石垣島に渡り、大好きな海をそばに感じながら1年ほど暮らしました。実家には「寺や保育園を投げ出すつもりはない。必ず戻るから、今は好きなことをさせてほしい」と伝えました。

母が体調を崩したのを機に実家に戻ると、仏教を勉強し直し保育士と幼稚園教諭の資格を取り、家業に入職させてもらいました。早く経営に携わりたかったので、入職して2年後には半ば強引に代替わりを頼み込み、理事長に就任しました。26歳の時です。

園の保育内容にさほど独自性はありません。やるべきことはどの園でもそう変わりません。私が大切にしているのは、職員の持つ経験や能力を引き出し、現場で生かせるよう環境を整えることです。職員に対して「遊ぶために働け」いうキャッチフレーズを掲げています。もちろん、保育は他でもない子どもたちのためです。ただ、働く人には自分の人生や生活の大半を仕事に捧げるのではなく、私生活を充実させて、そこで得たゆとりや楽しみを子どもたちに還元してほしいのです。教育現場にかかわる先生方の多くは仕事に追われ、寝ている時以外は常に「先生でいなくては」と気を張っています。そんな生活の中で余裕や遊び心は生まれようがありません。せっかく学生時代に趣味に打ち込んだり、面白い経験をしたとしても、仕事を始めたことでその経験がアップデートできずにただの思い出話になるのはもったいないじゃないですか。

  • 寿台順章
  • 寿台順章

大人が夢中になる姿を子どもたちに見せたい

「遊ぶために働け」を実践するには、保育業界でまかり通っている古い常識や慣習にとらわれない働き方が必要です。子どもとかかわることが好きで保育士になった若者の多くが、激務でプライベートの時間を確保できず、産休、育休も取得できずに仕事を続けることを断念しています。このままでは社会問題となっている保育士不足は解消するはずもありません。この業界では新卒採用が主流ですが、私たちは20~50代まで幅広い年齢層の職員を配置していきたいと考え、既卒者を積極的に採用しています。また、一般的に有給休暇が発生するのは入社から半年後ですが、うちでは新規採用者も初日から有給休暇を取れる仕組みにしました。育休産休を取得する職員は毎年何人もいますし、入職直後からお子さんの卒園式や入学式などのイベントで有給休暇を取ることもできます。担任を務める職員も当たり前に休みます。そんな時のために全職員がどのクラスも見ることができる体制を整えていますし、「困った時はお互い様」という意識を持ってみんなで助け合いながら働いています。

今、グループ内に女子バレーボールチームを作り、本気でVリーグ参入を目指しているところです。メンバーは栄養士や保育士として働く職員たちで、プロチームや実業団の出身者もいます。アスリートのセカンドキャリアとして保育にかかわる人が増えるとうれしいです。何より、大人が本気で取り組んでいる姿は子どもたちにも良い影響を与えるはず。「こんな大人になりたい」といわれるような大人が一人でも増えればいいと思います。従業員150人足らずの小さな法人でもこんな夢を持って挑戦していることを全世界に発信していきたいです。私個人としては、50代までにセミリタイヤをして、自然の中でのんびり過ごすことが夢です。地元愛知県で、広大な太平洋を望む伊良湖や赤羽根町に小さな家を持って、毎日海に入って過ごせれば最高ですね。

若者のみなさんも、自分が心から好きだと思うことに取り組んでください。継がないといけないからとか、誰かにやれと言われたからとかではなく、自分が好きなこと、いいと思ったことをやるべきです。お給料や待遇が良いだけでは続きません。自分の気持ちに正直に、好きなこと、興味のあることに情熱を注いてください。

ページの先頭へ