黒田美奈子
高校卒業後、獣医師を目指し獣医学部へ入学。卒業後の1988年に西宮市桜谷町で開業。現在の所在地である大井手町に新病院を建築している最中に阪神淡路大震災を経験。以来、動物のみとり方に重きを置いた診療に力を入れている。
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INTERVIEW

最期まで大切にされ、たくさん涙を流してもらい、飼い主さんの心の中に多くのものを残していく。そう考えると、動物たちはとても幸せです。動物を亡くした直後は悲しい気持ちが残ってつらいと思いますが、次第にいい思い出として育っていくはずです。そうなってもらえるよう、獣医師として別れのときを静かに迎えさせてあげたい。私も一人の飼い主として、動物とお別れするときに、「ありがとう」と言いたい気持ちがあります。飼い主さんにもそう言えるための時間を大切にしてもらいたいと考えています。

震災を経験して死生観に変化が

黒田美奈子

子どもの頃は身の回りにいる小さな生き物が好きでした。ビオトープのようなものを作り、トカゲやカエルを捕まえては、その中で飼育をしていました。スズメを捕まえようと罠を作ってみたり、アリジゴクにアリが落ちるところを観察したりしていました。自然の中で暮らす生き物を観察することが好きで、その延長線上に今の仕事があります。

手塚治虫のファンでもあり、週刊誌に連載されていたブラックジャックを夢中で読んでいました。彼のような信念のある医師に引かれ、自分もそうなりたいと思っていたくらいです。その頃、親に拝み倒して初めて犬を飼い始めました。その犬が皮膚炎にかかり、近所の獣医師に見せたのですが、「ホルモンの病気だ」の一点張りで、説明を求めても英語で書かれた文献を見せられるだけでした。納得がいかず、別の病院を訪れたところ、庭に撒かれた殺虫剤の影響だということがわかりました。そのとき、知識がないと判断できず、自分の犬も守れないということに気付きました。ブラックジャックに憧れていたこと、動物や生物学が好きだったことが影響して、獣医師を目指すようになりました。

母を病気で亡くしたときは、まだ19歳でした。当時は病気を患者に知らせる時代ではなく、私や弟にも伏せられていました。ですから、何が原因で母が亡くなったのかわからなかったですし、お別れを言うこともできませんでした。大学を卒業して獣医として開業し、ある程度軌道に乗ったとき、今度は阪神・淡路大震災に見舞われます。当時は避難所に動物を連れて行くことができなかったため、誰かに託すしかなく、そのまま別れ別れになってしまったケースもあります。電気が通っていなかったため、治療にも限りがあります。最低限の処置だけして、別の市の病院へ案内することしかできなかったときには、非常に打ちのめされました。「今は生きているけど、明日余震で死ぬかもしれない」人生で初めて自分の死を身近に感じたとき、何が心残りになるかを考えると、親しい人にさよならを言えないことでした。命がこんなにも簡単に亡くなってしまうことを実感し、だからこそ生きている時間は大切なのだと思いました。

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より良く旅立てるために、より良く生きる

獣医師になるまでは、獣医師という仕事は動物を診ることだとずっと思っていました。しかし実際に獣医になってみると、飼い主さんと話をする仕事だということに気付きました。動物は話をすることができないので、飼い主さんから状態を聴き取らなければいけません。そのためにはチームワークも大切にしています。どんなに優秀なスタッフがいても、チームワークがないと成り立ちません。例えば飼い主さんの中には、獣医師には言いづらいけど、看護師にはこっそりと話をしてくれる人もいます。また診察後に看護師が待合室で薬などの説明をしているときに、患者さんの口からぽろっと出てきた情報が、治療の方向を変えることも。コミュニケーションをとることで、スタッフからそういった情報を集められるので、職種に優劣をつけず、院内でのコミュニケーションを大切にしています。

母の死や震災が、動物との別れに対する考え方にも影響を与えていると思います。診療をしていると、その動物の先が見えてしまうということがあります。しかし、それを飼い主さんに言い切ってしまうことは、あまりにも残酷です。飼い主さんにも感情を咀嚼(そしゃく)するための時間が必要ですから。どのような状態であるかを伝えるときに、残された時間はそれほどないことを察していただけるように話していきます。予想外に長生きすることもありますし、反対にある日突然、ということもあります。いつお迎えが来るのかは神様しかわからない。ですから、飼い主さんには残された時間をどう過ごすかを考えてほしいと思います。

回復の見込みがない中で、無駄に戦わせることも避けたいと思っています。治療方針は示しますが、お別れの日が来るまでの間、何ができるか一緒に考えましょうと話し、苦痛を与える治療を避ける提案もします。。最期の日までの過ごし方として、べったりと付き添ったり、犬猫を抱きしめながら泣いたりすることはやめるようにも助言します。いつもと同じ生活をすることが、動物たちにとって最大の治療であり、薬であり、生きるモチベーションでもあります。陰で泣いてもいいから、「私たちがついているよ」という寄り添う気持ちを示してほしいです。

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