山中紀子
1956年生まれ、山口県出身。78年、名城大学法学部を卒業後、ユニーに入社。85年、リクルート情報出版を経て、マーケター澤登信子氏のもとでソーシャルマーケティングを学び、88年パルファン・イヴ・サンローラン日本ブランチのマーケティング部長に就任。90年、キーハウスを設立。
https://kiehouse.com/
※本サイトに掲載している情報は2022年5月 取材時点のものです。

INTERVIEW

幼い頃から、疑問に思ったことがあれば納得いくまで突き詰めなければ気が済まない性格で、自分なりに答えを探究しながら生きてきました。人とぶつかることもありましたが、これをやめてしまうと毎日がつまらないだろうなと思います。探究心は、人生にドラマを起こすエネルギーです。仕事も人間関係も日常生活も、たとえば食事を作るような普段何気なくやっていることにも、探究心を持つことで人生はぐっと豊かになります。

非効率な職場に一石を投じた新人時代

山中紀子

物心ついた頃から、ことあるごとに父からディベートを仕掛けられました。ニュースなどを見てああでもない、こうでもないと激論を交わし、しまいにはいつも私が言い負かされて泣いてしまうのですが、そんな環境で育ったので人と話すこと、自分に問いかけることが好きになったのかもしれません。弁が立つので学校でも委員やリーダーに選ばれました。「おかしい」と思ったことは相手が先生であろうと意見し、食い下がりました。大学時代は囲碁部に入りました。囲碁は「こっちへ行くとどうなるか」「有利に展開するためには次の一手をどこに置くか」という読みが大切で、戦略的に進めなければ勝てません。今思えば、マーケティングの基本に通じるものがありました。

最初に就職した大手小売業では連日夜遅くまで働きました。割に合わないので辞めようかと思いましたが、もっと効率よく仕事をして早く帰宅する方法を企画書にして総務部に提出すると、すんなり通ったのです。それ以来、変えたいことややってみたいことはどんどん企画書を出して実現していきました。一社員の自分でも会社を作っていく手ごたえが感じられて充実していたのですが、3年目に外部コンサルタントがやって来て、今まで作り上げてきたことを一変してしまったのです。そのことに納得がいかず、退職してしまいました。上京し、大手メディアで契約社員として働きながら、週末はコピーライターやプランナーの養成講座に通ってスキルを磨きました。女性マーケター澤登信子氏のもとでソーシャルマーケティングを学ぶ機会にも恵まれました。

ある時、前職でお世話になっていた上司から「海外ブランドの化粧品部門を日本で展開することになったから手伝ってくれないか」と連絡があり、2年半にわたって一緒にブランディングを手掛けました。出店交渉からカウンターに立つ美容部員の面接まで、華やかな業界で忙しく動き回りました。

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「そこをもっと詳しく、というところをちゃんと聞いてくれる」

それまでナンバー2タイプとして、人についていくことで面白い世界を見せてもらいましたが、次第にもっと自分の好きなようにやりたいと考えるようになりました。そんなわがままで作ったのが今の会社です。

当初はプランナーとして活動していましたが、大手広告代理店とのご縁で、家庭用洗剤のマーケティングインタビューを行うモデレーターの仕事をいただく機会がありました。その際、マーケティング部長に「そこをもっと詳しく、というところを山中さんはちゃんと聞いてくれる」と評価していただいたのです。それ以来、紹介でモデレーターの仕事を数多くいただくようになりました。自己流ですが、アンケートのように決まった質問を順番にしていくのではなく、クライアントが目指すゴールを見極め、一緒にそこへ向かう気持ちでインタビューに臨むことを心掛けました。さらに、商品を使っている「人」がどんな人で、どんな生活を送り、何を考えているか、人の人生観にまで触れることを意識しました。人を探究していくその先には、調査の課題以上のものが眠っていることがあります。それを見つけた時には大きな感動があります。通信教育事業の会社から大規模なインタビューの依頼があった時は、一般の主婦の方20人をインタビュアーとして育成しました。後にクライアントのインシデントの影響で仕事の状況が大きく変わり、売り上げが大きくダウンしたことは経営者としても反省すべき点です。一緒に楽しく働いてきたインタビュアーの方が「キーハウスのおかげで育児中も社会との接点を持つことができました」と言ってくださったことが心にしみました。会社の規模を縮小し今も再建の最中ですが、またいい仕事を積み重ねていくだけです。

今後はモデレーターの育成事業にも注力していきたいと思います。人の話を聞くスキルは、モデレーターに限らず社会で必ず役に立ちます。学びたいという方には、学生から社会人まで幅広く伝えていきたいです。技術や情報をオープンにして広く知っていただくことで、私たちも成長できるはずです。この先人工知能(AI)やロボットが進化しても、人の潜在意識や価値観を探っていくモデレーターの仕事は人にしかできません。決して華やかな仕事ではありませんが、職業としてずっと残していくことが目標です。

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