5G、6Gが実現する
スマートシティーを見据え、
グループのシナジー生かす
NAGASEグループ

5G、6Gが実現するスマートシティーを見据え、グループのシナジー生かすNAGASEグループ

 化学系専門商社で売上高国内トップの長瀬産業。同社がいま注力する領域の一つが、高速通信規格「5G」、さらにその先の「6G」といった次世代情報通信関連事業だ。ケミカル素材を基盤として樹脂や半導体へと広がるフィールドの多様性、商社ならではの情報収集力、出資やM&A(合併・買収)により国内外で築いてきた技術ネットワーク――。こうした強みを生かした同社ならではの5G・6G戦略と、NAGASEグループの技術が貢献する近未来について紹介する。

【会社概要】2020年3月期
連結売上高:7,995億円
連結従業員数:7,207人
グループ企業数:124社
(国内:37社、海外:87社)

独自技術を持つ米スタートアップ
「3D Glass Solutions」に出資

 5Gの商用サービスは、日本では2020年3月に一部エリアで始まったばかりだが、「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」という3つの特徴を持つ通信インフラとして社会全体に大きな技術革新をもたらすことが期待されている。関連市場は、通信、航空・衛星、モビリティー、医療、エンターテインメントなど多岐にわたる。またスマートフォンやスマートウォッチ、スマートグラス、ドローン、センサーカメラなどのエッジデバイス類も挙げられる。5Gのさらなる普及に向けては、これらに用いられるさまざまな部品・部材で、例えばデータを処理する際に熱に耐えられる素材など、新しい技術が必要となる。こうしたニーズをふまえ、長瀬産業は、高速データ通信に欠かせない低誘電材料、配線形成技術、ガラス基板、ガラス受動部品など、さまざまな5G関連部材・技術を扱う国内外グループ会社のシナジーを最大限に生かした事業展開を進めている。

5G・6G戦略について熱く語る、次世代情報通信プロジェクト
      チームを率いる執行役員の奥村孝弘氏▲5G・6G戦略について熱く語る、次世代情報通信プロジェクトチームを率いる執行役員の奥村孝弘氏

 NAGASEの次世代情報通信事業の核となるグループ会社の一つが、2018年に出資した米国の「3D Glass Solutions(3DGS)」だ。同社は5G・6Gに対応した高周波デバイス製品を設計・製造する。コア技術は感光性ガラス、半導体技術を用いた微細加工、部品設計の3つ。特許化されたガラス組成をベースに専用のソフトウエアを用いて配線および構造をデザインし、微細加工技術でデバイスやモジュールを製造する。シンプルで拡張性のあるプロセスにより、多種多様な製品の大量生産が可能。単一機能部品から高機能モジュール製品まで対応できるのが強みだ。長瀬産業が4月に立ち上げた「次世代情報通信プロジェクトチーム」を率いる同社の奥村孝弘執行役員は「3DGSは、顧客のニーズをデザインに反映させ、独自技術を駆使しながら、部品や製品の設計から製造までのトータルソリューションを提供できる。唯一無二といえる存在です」と説明する。

 3DGSの部品・部材の用途は、通信基地局、携帯端末、航空・衛星、モビリティー、フォトニクス(光工学)など幅広い。「中でも航空・衛星は、NAGASEグループにとって新しいビジネス領域です。3DGSとのコラボレーションを通じこの業界を深く知ることは、次世代に向けたアプリケーションの業容展開につながるはず」と奥村氏は期待を込める。

欧州・北米・アジア――
地域ごとの戦略に基づき
グローバルに連携

 3DGSのみならず、次世代情報通信関連の技術を持つ企業がグローバルに点在しているのがNAGASEグループの強みだ。欧州は構造分野からのアプローチ。絶縁・導電材料、光学材料を強みとするフィンランドのInkron社を核に、同国の研究機関とも共同開発を行っている。ドイツには、レーザー接合技術・微細加工プロセス・バンピング装置を得意とするPac Tech社がある。同社もドイツの研究機関とともに次世代情報通信関連製品の技術開発を進めている。日本を含むアジアでは、材料・エネルギー分野からアプローチする。愛知県岡崎市にあるCAPTEX社は、次世代電源、エネルギーマネジメント、蓄電池などを手掛ける。大阪市に本社を置くナガセケムテックスは低誘電材料などを開発。マレーシアには、Pac Tech社のバンピング量産拠点もある。北米は、ガラス構造分野から攻める。Pac Tech社の米拠点と、ナガセケムテックスの米国での変性樹脂材料の生産拠点であるEngineered Materials Systems社が、3DGSと協業し低誘電ガラス基板製品を展開する。

5G関連NAGASEグローバル連携拠点

 奥村氏は、「長年お付き合いのある国内化学メーカーの皆さんに弊社の取り組みを説明すると、NAGASEはこんなことを考えているのかとびっくりされます」と話す。長くエレクトロニクス部門に従事してきた奥村氏は、全世界のグループ企業から「エッジの利いた」技術や情報を収集しながら、必要な技術ネットワークを整えてきた。その上で、M&Aなどを通じて傘下に入ったグループ企業には、営業と技術の担当者を必ず派遣して連携を深めているという。「各国の市場の動きを見ると、弊社が5Gの領域でステータスを築くには、2020年度がカギになります。先行者利益を取っていきたいですね」と奥村氏は力を込める。種をまいてきた施策の果実を、きっちり収穫していく時を迎えつつある。

NAGASEグループによるシナジー創出

スマートシティー実現に欠かせない
次世代情報通信

 長瀬産業はなぜ、次世代情報通信事業に注力するのか。見据えているのは、「スマートシティー」の実現だ。モノとインターネットを結ぶIoT技術が街の機能やインフラに深く入り込み、少子高齢化などの課題に対応しながら快適で環境負荷の少ない生活を実現する。例えば、ビッグデータの活用による渋滞の緩和、行政サービスなどの効率化、エネルギーを効率的に活用するための住宅のエネルギーマネジメント、CO2(二酸化炭素)排出量の少ない新エネルギー車が普及していく。身近なところでは、オンライン診療がよりスピーディーになり、診療の精度もアップするだろう。既に工場で実用化されているスマートグラスの用途なども広がり、労働力不足を補う生産性向上に寄与しそうだ。これらの実現には、データ収集の精度、高度なセキュリティーの実現と同時に低コスト化が普及の条件となる。5G・6G技術の向上が、こうした一つひとつの実現につながっていく。同社は、「人々が快適に暮らせる安心・安全で温もりのある社会の実現に貢献」をグループのビジョンに掲げており、スマートシティーの実現はこのビジョンに通じる。

NAGASEが目指すスマートシティーのイメージ

長瀬産業では、スマートシティーが理想形になるのは2025年と見て、それまでの5年間が、インフラや材料開発、製品展開に最も重要な時期だと捉えている。さらに同社は、6Gを見据えた研究開発にも積極的だ。総務省は2020年4月、6G時代をにらんだ総合的な戦略「ビヨンド5G」の基本計画を公表。2027年ごろから、6Gの商用化が始まるとみられている。6Gが本格化すれば、5Gが実現する世界からさらに一歩進み、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)がより身近になり、映画のワンシーンにすぎなかったような世界が到来する。奥村氏は「今はWeb上で会議をしていますが、2030年ごろには私自身が皆さんの目の前に仮想現実として現れ、プレゼンテーションするようになっていますよ」と語る。

人や技術をつなぎ、
新しいビジネスをつくるビジネスデザイナー

長瀬産業は1832年(天保3年)、京都・西陣で染料などを扱う商店として創業。当時まだ日本になかった化学染料の輸入を皮切りに、欧米の大手化学品メーカーとの代理店契約などを通じて着実に事業を拡大し、幅広い分野の商材を取り扱う商社へと成長してきた。コダック製品の取り扱いでその名を覚えている人も多いだろう。実は、今回紹介した次世代情報通信関連事業は、フィルムの現像から半導体へとつながってきた技術でもある。このように、同社は常に未来への布石を打ちながら、新しい事業領域の拡充を続けてきた。何よりユニークな点は、商社でありながら製造・加工、研究開発の機能も兼ね備えていることだ。今年度が最終年度になる中期経営計画「ACE-2020」では、「商社からビジネスをデザインするNAGASE」を基本方針として掲げており、商社の枠を超えて「未来に必要な技術」を追求する同社のビジネスデザインに注目したい。

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