建築家

安藤忠雄氏

「心に残る建築」は
終わりなき挑戦の先に

 建築家・安藤忠雄氏は、独学で建築を学び、鉄、ガラス、コンクリートなど20世紀を代表する普遍的な素材を用いたシンプルな幾何学的造形により、世界中で高い評価を獲得している。「誰にでも開かれた手法で、誰にもできない世界を創りたい」という信念とともに、予定調和することなく挑み続ける安藤氏の思いを聞いた――。

安藤忠雄氏

写真提供:安藤忠雄建築研究所

自然とのふれあい、
旅での体得が原動力

 母方の実家を継ぐため生まれて間もなく祖父母の養子となりましたが、戦争で全てを失い、大阪の下町で祖母に女手一つで育てられました。得意なのは勉強よりも喧嘩(けんか)というガキ大将。トンボや魚を追って駆け回る日々が、自然と共生する建築を考える基礎を育ててくれました。建築家を目指すきっかけは中学2年での自宅の増築。平屋の長屋を二階建てにするため大工さんが屋根に穴を開けると、一筋の光が差し込み、薄暗い長屋の空間が別世界に変化した――。建物づくりの面白さを知った瞬間です。

 高校卒業後は、学力と経済的な事情で大学には進まず、アルバイトをしながら独学で建築を学び始めました。大学なら卒業という22歳のとき、卒業旅行のつもりで日本一周の建築行脚の旅へ。翌年はヨーロッパからアフリカ・インドを巡りました。旅を通じて、「建築とは人々が集まって対話し、感動を共有する場を創造する行為にほかならない」という考えがいつしか心に住み着くようになります。何よりも、地球は大きく、そこにはさまざまな生活と感動があることを肌で感じました。その経験は今もなお、私が前を向く力になっています。

誰も見たことのない世界を創造し 
人々に感動を

 28歳で小さな設計事務所をスタートしましたが仕事はほとんどありません。事務所周辺の空き地を見て歩き、勝手に建築プランを立て、土地の持ち主に提案しては門前払いされる毎日。「何事も思い通りにはいかない」と身に染みましたが、いつかは人々の心に残る建築をつくりたいという思いを胸に、無我夢中で突き進みました。やがて「面白い発想のやつがいる」と声がかかるようになり「安藤の夢に掛ける」と応援してくださる方も。徐々に仕事の数や規模、幅も拡大していきました。

 建築を考える際は、限定された素材、純粋な幾何学、抽象化された自然、この3つを要点として捉えています。以前から、「誰にでも開かれた手法で、誰にもできない世界を創りたい」と考えてきました。素材で言えば、鉄、ガラス、コンクリートは、20世紀を代表する材料といえますが、この普遍的な素材と、モダニズムの原点ともいえるシンプルな幾何学的造形を用いながら、光や風、水といった抽象化された自然の要素を取り込むことによって、時の移ろいの中でさまざまな表情を見せる、変化に富んだ豊かな空間をつくることを目指しています。

予定調和せず、
共に闘う存在と壁を越え続ける

 私は建築の本質を、人工と自然、個人と社会、現在と過去といった多様な事象の間の関係づくりと捉えています。既にある風景、社会制度の中に入り込んで予定調和から外れた試みをしようとすれば、摩擦や衝突が起こります。目の前には、常に立ちはだかる壁がありましたが、何としてもその壁を乗り越えようと、悪戦苦闘してここまでやってきたように思います。

 ただ、それらの挑戦は、私一人では成し得ませんでした。まず、私たち設計者と思いを共有してつくるチャンスを与えてくれるクライアントがいて、次に私たちが描くプランを受けとめ、技術的努力を尽くして具現化してくれる施工者がいる。そして、産み落とされた建物と付き合い、育ててくれる人々、社会がある。共に闘ってくれる彼らの存在があって、はじめて私の目指す建築は、建築たり得るのです。この闘いをいつまで続けることができるか――私の人生の終わりのない挑戦です。

 昨年、国立新美術館で開催した展覧会は特別な思いでタイトルに「挑戦」を掲げ、30万人を超える方々に来訪いただきました。今秋はパリのポンピドーセンターに舞台を移し、思いを世界に伝えたいと思っています。

スカイライン

60年を超える歴史を通じて、美しく、精悍(せいかん)で、他とは一線を画すデザインやフォルムで人々を魅了し続けてきたスカイライン。風や光と一体となり、走りの躍動感と高揚感を訴えかけるエモーショナルなその姿は、見る人の、乗る人の心を揺さぶり、ダイナミックな走りへと駆り立てる。

次代の子どもたちへ
感動を与えるクルマに

 私が20代の頃、クルマは憧れの存在から現実に手に入る道具になり、個人を表現する手段の一つとなりました。我々の世代の多くは、乗ってきたクルマの変遷を見返すことで、人生を振り返ることができます。その中でもスカイラインは、国産車を代表するクルマであり、若者の憧れであり続けてきました。建築とクルマではデザインアプローチは全く異なると思いますが、人々に感動と心に残る体験を与えたいという思いは共通しているのではないでしょうか。次の時代の子どもたちの目に、クルマはどんな存在として映るのか。感動を与えられるクルマであり続けるために、スカイラインも終わらない挑戦を続けてほしいと思います。(安藤氏)

※記事は2018年8月24日のものです。
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安藤忠雄氏

プロフィル安藤忠雄氏(あんどう・ただお)

1941年大阪生まれ。独学で建築を学び、69年安藤忠雄建築研究所設立。代表作に「光の教会」「ピューリッツァー美術館」「地中美術館」など。79年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、93年日本芸術院賞、95年プリツカー賞、2003年文化功労者、05年国際建築家連合(UIA)ゴールドメダル、10年ジョン・F・ケネディーセンター芸術金賞、後藤新平賞、文化勲章、13年フランス芸術文化勲章(コマンドゥール)、15年イタリアの星勲章グランデ・ウフィチャーレ章、16年イサム・ノグチ賞など受賞多数。イェール、コロンビア、ハーバード大学の客員教授歴任。1997年から東京大学教授、現在、名誉教授。

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