提供:NTTアノードエナジー

村木風海氏/岸本照之氏

CO2回収の化学者・発明家×NTTのエネルギー流通企業 新たなプレーヤーの発想が地域と日本のエネルギー課題を解く CO2回収の化学者・発明家×NTTのエネルギー流通企業 新たなプレーヤーの発想が地域と日本のエネルギー課題を解く

気候変動問題に対する国際的な枠組みの「パリ協定」から8年が経過するが、2050年に二酸化炭素(CO2)の排出をゼロにするという目標の達成は容易ではない。CO2排出を減らす努力を継続するだけでなく、排出済みのCO2の回収や再生可能エネルギーの徹底活用など新たな取り組みも求められる。CO2回収分野に新しい常識を打ち立てることを目指し、同分野の研究者を集めて炭素回収技術研究機構(CRRA)を率いる若き化学者・発明家が村木風海氏だ。その村木氏と、NTTグループで再生可能エネルギーの「エネルギー流通」を目指すNTTアノードエナジーの代表取締役社長 岸本照之氏が新たなプレーヤーとして未来から見たエネルギーの新常識を考える。

地球温暖化抑止のイノベーションを新しい力で

――世界の温暖化対策の状況から、どのような対策の必要性を感じますか。

村木世界で年間330億トン以上のCO2排出を7年後の2030年までにほぼ半減しなければなりませんが、どう考えても現状の遅れが目立ちます。地球温暖化を止める研究を手掛けるCRRAの立場からすると、CO2排出を減らす既存の手法だけでは間に合わないと考えています。

CRRAはCO2直接回収(DAC)分野の研究に取り組んでいます。これまで200年にわたって排出してきたCO2を空気から集める技術です。すでに家庭用・オフィス向けに小型のCO2回収マシン「ひやっしー」を開発・提供しているほか、工場・ビル向けDACモジュールの開発も行っています。ひやっしーは誰でもボタンひとつで簡単にCO2を集められる装置で、最新版になって大量生産にこぎ着けました。今年はB2B(企業向け)用途に注力しており、企業の受付などに置いて目に見える形でCO2削減をアピールしていただければと思います。大規模な回収施設ではなく小型分散化のアプローチで、プラットフォームの規格作りまで視野に入れています。

村木風海氏

炭素回収技術研究機構(CRRA)代表理事・機構長村木風海

――CO2の回収だけでなく、その再利用技術にも取り組んでいます。

村木CO2からの石油代替燃料を合成することで、燃料生産ができるのです。空からガソリンの素を持ってくることから「そらりん計画」と呼んでいます。これまでは藻の力を使って生物学的にCO2から燃料を作る研究をしてきましたが、今年には銅を触媒とした化学的な方法を使って小型の装置でCO2から燃料を作り出す計画です。CRRAの最終ゴールである火星開拓において、火星の大気を占めるCO2から燃料が生み出せれば人類が火星へ行くことの可能性も広がります。

CO2を地中深く蓄積して固定化する実証実験も行われていますが、埋められる岩盤層は限られていて、どこでも埋められるというわけではありません。むしろ、そらりん計画のように収集したCO2を有効利用することで、資源に乏しい日本が生活を豊かにしながら温暖化防止を同時に実現できるはずです。

岸本日本もクリーンエネルギー戦略に官民挙げて150兆円の投資をしていくことが検討されるなど、機運が盛り上がってきました。その中にはまさに村木さんのような若手の研究に生かされるものがあるはずです。NTTグループは通信を生業(なりわい)としていて、インターネットが当たり前な世界を作ってきました。村木さんは、そのインターネットでグローバルな情報を手軽に入手できる時代に生まれています。日本がいままで蓄えた経験を踏まえ、若い方がオープンイノベーションの取り組みを日本発で世界へと広げる時代になったのではないでしょうか。

岸本照之氏

NTTアノードエナジー代表取締役社長 代表執行役員岸本照之

オフィス/家庭用CO2回収装置「ひやっしー」。最新版では空気中のCO2回収を見える化し、ユーザーのCO2消費行動につなげる

オフィス/家庭用CO2回収装置「ひやっしー」。最新版では空気中のCO2回収を見える化し、ユーザーのCO2消費行動につなげる

発電から送電、利用までを一元化するエネルギー流通

――若いといえば、NTTアノードエナジーも3年前に設立され、エネルギー業界では新しい会社です。企業のパーパスにある「新常識」という言葉の意味を聞かせてください。

岸本NTTアノードエナジーでは、グリーンな電力を創り、運び、蓄え、調整し、効率化し、自社も含めて最終的に使うシーンを含めた、「エネルギー流通」の一連のバリューチェーンの構築を目指しています。そこにおいてスマートエネルギーに新常識をもたらす、ということが私たちのパーパスです。社員が新しい時代へ向けて志を1つにするよりどころであり、村木さんの火星へ行くという目標と重なるかもしれません。幹部の間では表現が少し過激すぎるのではないかという声もありましたが、今までなかったものが当たり前に使えるようになるということは、まさに新常識なのだと思います。

村木自社使用も含めて、エネルギーの循環型社会を考えるのは重要な視点ですね。

NTTグループの温室効果ガス削減排出量の削減イメージ。「環境エネルギービジョン」より

NTTグループの温室効果ガス削減排出量の削減イメージ。「環境エネルギービジョン」より

岸本NTTグループは2040年のカーボンニュートラルを掲げましたが、CO2排出量は右肩上がりです。通信の電力消費が年々増加しているためです。そこでNTTグループでは次世代ネットワーク構想の「IOWN(アイオン)」で、光電融合という技術を採用します。光を使うことで高速大容量の通信でも電力消費を格段に減少させることができます。IOWNにより、40年にはNTTグループの温室効果ガス排出量を45%削減できる見込みです。さらに45%の削減を太陽光や風力、清掃工場の廃熱発電などの再生可能エネルギーでまかなう予定です。

地域、自治体とのパートナーシップを広げる

――CRRAは山梨県と包括的な連携協定を最近結びました。自治体と共同で脱炭素に取り組む意義を教えてください。

村木地球温暖化対策は、ボトムアップの取り組みとともにトップダウンの取り組みも必要です。DACでCO2を回収する施設を作るにも、建設には住民の理解が必要です。自治体と連携協定を結ぶことで、住民理解を深めながらDAC施設の建設を実現するようなトップダウンの取り組みも進めたいと思っています。

村木風海氏

「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)にCOP25、COP27と参加しました。国内では(対策に後ろ向きな国に与える)化石賞を受賞したといった報道が目に付きますが、現地では科学立国日本をしっかりアピールしていて、世界で評価されていることを実感しました」

(村木氏)

連携協定を結んだ山梨県は、日照時間が全国で一番長い県です。私自身、山梨県北杜市の高校に通っていたこともあり、山梨から日本を盛り上げたいと思っています。すでに太陽光発電などの再生可能エネルギーの施設が豊富で、プラントを作りやすい土地であり、エネルギーの消費地である首都圏から近いこともメリットです。

岸本実は、私たちも北杜市とは深いご縁があります。06年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から補助金をいただいて、NTTグループが北杜市に太陽光パネルを設置し、ここから全国に太陽光パネルの設置が広がりました。22年には北杜市とNTTアノードエナジーとの間で連携協定も締結し、カーボンニュートラルをキーワードにしてまちづくりを進めていきます。

NTTグループと北杜市が共同で運用する大規模太陽光発電実証研究システム。大規模太陽光発電の将来を左右する重要な国家プロジェクトに位置づけられた

NTTグループと北杜市が共同で運用する大規模太陽光発電実証研究システム。大規模太陽光発電の将来を左右する重要な国家プロジェクトに位置づけられた

――地域や自治体を想定したパートナーシップの重要性が高まっていきそうです。

村木カーボンニュートラルを核にして産業を誘致すれば、首都圏の一極集中の解消にもつながりますし、過疎化や雇用など地方の課題解決にも役立ちます。空気からガソリンを作るそらりん計画では、第1号のそらりんスタンドを山梨に作ろうと考えています。住民の皆さんにとって、都会でなくても最先端の技術に触れられる効果もあります。

岸本地域とのパートナーシップは不可欠です。再生可能エネルギーで作った電気をどう使ってもらうかを考えただけでも、地域の電力会社の存在が不可欠です。地銀などの金融機関とのパートナーシップによって、電力の地産地消の枠組みに地域の企業も加わっていただきたいと思います。

具体例の1つが宇都宮市の次世代型路面電車(LRT)への電力供給です。地域新電力会社「宇都宮ライトパワー」を宇都宮市とNTTアノードエナジーなどが共同で設立し、100%再生可能エネルギーの電力供給を実現します。同様のパートナーシップは、セブン&アイグループとも取り組んでいて、セブン-イレブン40店舗などに100%再生可能エネルギーを提供しています。

岸本照之氏

「NTTグループ自身が需要家として大量の電力を消費しています。『創る』だけでなく『使う』ところまで含めたバリューチェーンをトータルで考え、パートナーと共にエネルギー流通の視点から地域の課題解決に取り組みたいと思います」

(岸本氏)

宇都宮市では、ごみ焼却など作った再生可能エネルギーをLRTに供給するなど電力の地産地消の取り組みを目指す
宇都宮市では、ごみ焼却など作った再生可能エネルギーをLRTに供給するなど電力の地産地消の取り組みを目指す

宇都宮市では、ごみ焼却など作った再生可能エネルギーをLRTに供給するなど電力の地産地消の取り組みを目指す

未来から見た新常識の歴史をつくる

――お二人ともに新しいプレーヤーであり、また新しい常識の確立を目指す点で共通するものがありますね。

村木夢という言葉には「かなわない」というイメージがあります。そこで私たちは、夢を語るのではなく、未来の歴史に立脚してバックキャストして現在を考える方法を採っています。「2045年に人類が火星に行った」という私たちだけが知っている歴史で、この歴史の未来から見ると、現在の自分たちの立ち位置が測れるのです。未来の歴史との差分を修正していけば、地球が抱えるタイムリミットのある温暖化のような問題を解決できるはずです。NTTアノードエナジーの「新常識を作る」というパーパスも、ある意味で未来の宣言だと感じます。

岸本未来からバックキャストするアプローチはとても重要だと思います。私たちNTTグループも2040年のエネルギービジョンを達成したという未来の歴史から考えて、取り組みを進めていくつもりです。

そうした中で、エネルギービジョンを達成するためにNTTアノードエナジーは「ルーキーですがエキスパートです」と宣言しています。22年に、全国津々浦々のNTTグループの通信ビルの電気設備を運用していた2500人が一緒になってくれて、総勢3000人でエネルギービジョンを実現していきます。エネルギーの取り組みはルーキーですが、インフラを支えるメンバーは150年の電話の歴史を作ってきたエキスパートです。各地域のさまざまな事業者、そして新しいビジネス機会の中で生まれる若い組織とも組ませていただきながら、エネルギー流通の未来を開いていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

村木風海氏/岸本照之氏